155 / 180
第三章 雪山へ
最上級の線香
しおりを挟む
「……ようやく、ようやく品質の高い線香が手に入ったわ」
手にした線香は他のものとは違っている。他のものが緑色に対し、これは紫だった。
この國では黒色は貴重とされている。服にしても、身につけることごできるのは貴族、あるいはそれ以上の存在のみとされていた。皇帝や皇后は普通に着ることができる。
また、その下の妃たち……四夫人の場合、特別なときでなければ身に纏うことは難しかった。着てはいけない。使ってはいけないという決まりではなく、元々黒そのものが手に入りにくいからとされている。
そしてそれは他の物にも適応され、線香とて例外ではなかった。
「だからこそ私は、妃を求めた」
上級妃ともなれば入手困難な品であっても、ある程度は手にすることができる。
そして彼女の持つ能力を向上させるためには、黒に近い色の線香が必要だった。高価な物となれば、それだけ強い力を得られる。線香もまた、その恩恵に預かる品物だった。
「未熟な私は、色に頼るしかないからね」
紫の線香を握りしめ、ぐっと両目を閉じる。はーと嘆息し、紫の線香を風呂敷の中へとしまった。そして風呂敷を背負い、部屋を出て行く。
廊下には金明と玄偽が立っていた。二人は香 麗然の姿を見るなり、にっこりと微笑む。
「二人ともお待たせ。それじゃあ、行こっか」
頭の上に二匹のシマエナガを乗せ、侍女たちを連れて朱の宮を後にした。
宮の門へと差しかかると、二台の大きな馬車が用意されている。先頭の馬車はとても豪華できらびやかだ。後ろにある場所は質素とまでは言わないが、特徴がない。そんな対立するような馬車の回りには何人もの兵がいた。彼らは香 麗然たちの姿を見るなり拱手する。
そんな兵たちの中に一人、見知った青年がいた。曹朱だ。彼は皇帝でありながら、一般兵にも身を置く少し変わった青年である。
「準備はいいな? 香 麗然、いや。香死妃」
「ええ。それじゃあ、行きましょうか」
人好きのする笑顔で馬車に乗りこんだ。金明や玄偽は後ろの馬車に乗った。
それを確認すると、香 麗然は馬車の窓から顔を出す。隣には馬に乗って並ぶ曹朱がいた。彼と視線を合わせ、軽く頷き会う。
「いざ! 雪山へ──」
彼女のかけ声とともに、馬車たちは走り出していった。
手にした線香は他のものとは違っている。他のものが緑色に対し、これは紫だった。
この國では黒色は貴重とされている。服にしても、身につけることごできるのは貴族、あるいはそれ以上の存在のみとされていた。皇帝や皇后は普通に着ることができる。
また、その下の妃たち……四夫人の場合、特別なときでなければ身に纏うことは難しかった。着てはいけない。使ってはいけないという決まりではなく、元々黒そのものが手に入りにくいからとされている。
そしてそれは他の物にも適応され、線香とて例外ではなかった。
「だからこそ私は、妃を求めた」
上級妃ともなれば入手困難な品であっても、ある程度は手にすることができる。
そして彼女の持つ能力を向上させるためには、黒に近い色の線香が必要だった。高価な物となれば、それだけ強い力を得られる。線香もまた、その恩恵に預かる品物だった。
「未熟な私は、色に頼るしかないからね」
紫の線香を握りしめ、ぐっと両目を閉じる。はーと嘆息し、紫の線香を風呂敷の中へとしまった。そして風呂敷を背負い、部屋を出て行く。
廊下には金明と玄偽が立っていた。二人は香 麗然の姿を見るなり、にっこりと微笑む。
「二人ともお待たせ。それじゃあ、行こっか」
頭の上に二匹のシマエナガを乗せ、侍女たちを連れて朱の宮を後にした。
宮の門へと差しかかると、二台の大きな馬車が用意されている。先頭の馬車はとても豪華できらびやかだ。後ろにある場所は質素とまでは言わないが、特徴がない。そんな対立するような馬車の回りには何人もの兵がいた。彼らは香 麗然たちの姿を見るなり拱手する。
そんな兵たちの中に一人、見知った青年がいた。曹朱だ。彼は皇帝でありながら、一般兵にも身を置く少し変わった青年である。
「準備はいいな? 香 麗然、いや。香死妃」
「ええ。それじゃあ、行きましょうか」
人好きのする笑顔で馬車に乗りこんだ。金明や玄偽は後ろの馬車に乗った。
それを確認すると、香 麗然は馬車の窓から顔を出す。隣には馬に乗って並ぶ曹朱がいた。彼と視線を合わせ、軽く頷き会う。
「いざ! 雪山へ──」
彼女のかけ声とともに、馬車たちは走り出していった。
10
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる