19 / 102
18
しおりを挟む
「まあ、クレメント様ったら冗談がお上手ですね」
「冗談?」
「私の名義にする以上、損失を出した際に支払う分のお金を積み立てておくのは当然ではございませんか。それを承知でおられながら、全額公爵家のお金になるのか、など意地の悪い質問をなさらないでくださいな」
アリアナがにっこり微笑むとクレメントは引き攣った笑いとともに答えた。
「そうだな、私が調子に乗りすぎたようだ。それでどれくらいを入れてくれる予定だろうか」
「そうですね、100エランの利益が出たとして50エランでしょうか。ただし、100エラン以下の場合は、利益の半分。100エラン以上の場合は、5年間の契約で利益の2割か固定で50エランかお選びいただく、というのでいかがでしょう?」
「契約?」
「はい。私の名義で商売を行う以上、公爵家に帰属させる額はいくらにしておくかはっきりさせたいのです。私自身に支払い能力があることを示しておかなければ、他の商人から信用が得られませんので」
「なるほど。つまり、歩合か固定かをはっきりさせておく必要があるわけか。そして残った金額はアリアナ嬢の資産となることで商人達も信用しやすいと」
「さすがですわ、クレメント様。商品を仕入れる度にお金を払えばこのような信用も不要なのですが、半年に一回の後払いですので。それに都度毎払うのは、結構な労力ですから。」
一息に告げるとクレメントは納得したように頷いた。
「アリアナ嬢の言うことも最もだ。固定か歩合かどちらを選ぶかはいつまでに決めればいいだろう?」
問われてアリアナは悠然と答えた。
「そうですわね。クレメント様が即決できるのであれば、今すぐにでも。ただ、しばらく様子を見てみないと決められないようでしたら、私に名義を移してから2月程度してからお決め頂いても構いませんよ」
「そうか」
ほっとした様子で相槌を打つクレメントにアリアナは続けた。
「ええ。ご聡明なクレメント様ですが、商売のことはお分かりにならないでしょうし、なんなら博識なご友人に相談して頂いても構いません」
その瞬間クレメントの表情が一瞬強張るのをアリアナは見逃さなかった。畳み掛けるようにアリアナは続けた。
「ですが、このような契約一つご自身でお決めにならないなどということは、クレメント様に限ってあり得ない、と思っているのですが。」
「…歩合だ」
「はい?」
「歩合で頼む」
「まあ、今お決めになられますか?」
泰然とした様子でクレメントは答えた。
「ああ、これくらいは即決できる」
アリアナは笑いそうになるのを必死で噛み殺し、静かにベスに告げた。
「ベス、契約書をお願いね」
「冗談?」
「私の名義にする以上、損失を出した際に支払う分のお金を積み立てておくのは当然ではございませんか。それを承知でおられながら、全額公爵家のお金になるのか、など意地の悪い質問をなさらないでくださいな」
アリアナがにっこり微笑むとクレメントは引き攣った笑いとともに答えた。
「そうだな、私が調子に乗りすぎたようだ。それでどれくらいを入れてくれる予定だろうか」
「そうですね、100エランの利益が出たとして50エランでしょうか。ただし、100エラン以下の場合は、利益の半分。100エラン以上の場合は、5年間の契約で利益の2割か固定で50エランかお選びいただく、というのでいかがでしょう?」
「契約?」
「はい。私の名義で商売を行う以上、公爵家に帰属させる額はいくらにしておくかはっきりさせたいのです。私自身に支払い能力があることを示しておかなければ、他の商人から信用が得られませんので」
「なるほど。つまり、歩合か固定かをはっきりさせておく必要があるわけか。そして残った金額はアリアナ嬢の資産となることで商人達も信用しやすいと」
「さすがですわ、クレメント様。商品を仕入れる度にお金を払えばこのような信用も不要なのですが、半年に一回の後払いですので。それに都度毎払うのは、結構な労力ですから。」
一息に告げるとクレメントは納得したように頷いた。
「アリアナ嬢の言うことも最もだ。固定か歩合かどちらを選ぶかはいつまでに決めればいいだろう?」
問われてアリアナは悠然と答えた。
「そうですわね。クレメント様が即決できるのであれば、今すぐにでも。ただ、しばらく様子を見てみないと決められないようでしたら、私に名義を移してから2月程度してからお決め頂いても構いませんよ」
「そうか」
ほっとした様子で相槌を打つクレメントにアリアナは続けた。
「ええ。ご聡明なクレメント様ですが、商売のことはお分かりにならないでしょうし、なんなら博識なご友人に相談して頂いても構いません」
その瞬間クレメントの表情が一瞬強張るのをアリアナは見逃さなかった。畳み掛けるようにアリアナは続けた。
「ですが、このような契約一つご自身でお決めにならないなどということは、クレメント様に限ってあり得ない、と思っているのですが。」
「…歩合だ」
「はい?」
「歩合で頼む」
「まあ、今お決めになられますか?」
泰然とした様子でクレメントは答えた。
「ああ、これくらいは即決できる」
アリアナは笑いそうになるのを必死で噛み殺し、静かにベスに告げた。
「ベス、契約書をお願いね」
8
あなたにおすすめの小説
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです
hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。
ルイーズは伯爵家。
「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」
と言われてしまう。
その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。
そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。
【完結】冷遇された私が皇后になれたわけ~もう貴方達には尽くしません~
なか
恋愛
「ごめん、待たせた」
––––死んだと聞いていた彼が、私にそう告げる。
その日を境に、私の人生は変わった。
私を虐げていた人達が消えて……彼が新たな道を示してくれたから。
◇◇◇
イベルトス伯爵家令嬢であるラシェルは、六歳の頃に光の魔力を持つ事が発覚した。
帝国の皇帝はいずれ彼女に皇族の子供を産ませるために、婚約者を決める。
相手は九つも歳の離れた皇子––クロヴィス。
彼はラシェルが家族に虐げられている事実を知り、匿うために傍に置く事を受け入れた。
だが彼自身も皇帝の御子でありながら、冷遇に近い扱いを受けていたのだ。
孤独同士の二人は、互いに支え合って月日を過ごす。
しかし、ラシェルが十歳の頃にクロヴィスは隣国との戦争を止めるため、皇子の立場でありながら戦へ向かう。
「必ず帰ってくる」と言っていたが。
それから五年……彼は帰ってこなかった。
クロヴィスが居ない五年の月日、ラシェルは虐げられていた。
待ち続け、耐えていた彼女の元に……死んだはずの彼が現れるまで––
◇◇◇◇
4話からお話が好転していきます!
設定ゆるめです。
読んでくださると、嬉しいです。
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。
妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。
その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。
家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。
ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。
耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる