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「お待たせしました。こちらが契約書になります。」

ベスが持ってきた契約書にざっと目を通すとクレメントはサインした。

「はい。では契約成立でございますね。それでは、塩ができるだけたくさん売れるよう祈っておいてください」
「ああ。楽しみだよ。アリアナ嬢のことだ、きっと今までの利益よりはるかに売れるだろう」

爽やかなクレメントの笑みを見て、アリアナも嬉しそうに微笑んだ。

「ええ、ご期待に添えるよう頑張りますわ!」
「それでは、知りたいことも聞けたし今日はそろそろ失礼する」

にこりと笑って言ったクレメントにアリアナも愛想よく答えた。

「ええ。わざわざありがとうございます。お顔を見れて幸せです。それでは、お気をつけてお帰りください」



バタンっとドアが閉まるとともに、それまで話したいのを我慢していたのであろう、ベスが声をかけてきた。

「ハンゼ公爵領にお金を入れるんですね」

アリアナを馬鹿にしているクレメントがアリアナのおかげで裕福な暮らしをするのが悔しいのだろう。

「ええ。もちろんよ」
「お嬢様を陰で悪様に言っておきながら…悔しいです」

言われたアリアナは笑いながら答えた。

「あら、ベス。契約書の内容目を通さなかったの?」
「いえ、通しましたが」
「なら、クレメント様とではなくハンゼ公爵と契約を結んだ旨が書いてあったの知ってるわよね」
「はい…ああ、そう言うことでしたか」
「ええ。クレメント様の私財としてではなくハンゼ公爵家のお金として扱うの。彼はそのあたりいい加減そうだから気づきもしてないでしょうけれど。でも彼のせいで領民達が要らない苦労してるのよ。ハンゼ公爵の妻としては家計管理をしっかり行った上で余剰金を領地の発展に回さないと」
「納得されるでしょうか」
「納得させるのよ。いざとなったら最初は彼の欲しがる物を私の私財から適当に買い与えておくわ。」
「でも、そのおつもりならば、わざわざ歩合か固定かなどと選ばせる必要はあったのでしょうか。お嬢様のおっしゃることにクレメント様は疑問を抱かれなかったようですが、お嬢様ほどの信頼があれば取引している商人達から保証金を確認されることなどないでしょう?」
「そうね。でも彼の愚かさを確認したかっただけだからどちらでもよかったの。商売を全く知らない癖に、自分を見限られる発言を嫌ったのよ。普通は私にあのように言われても、実際の利益が出てから決めると思わない?」
「はい、それは不思議でした。しかも見込みを100エランとかなり少なめの利益を仰ったにも関わらず歩合を取られたので」
「欲深いわよね。ご友人とやらに塩なら300エラン以上利益が出るとでも言われたんじゃないかしら。」

残念ね、と呟いてアリアナは冷笑した。
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