あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

69

ユージンがベスを連れて帰ってからのクレメントは驚くほど大人しくしていた。どうやら、アリアナの脅しが効いたようだ。

約束の2週間を翌日に控えたその日、ケイビスが不意に訪れてきた。

「アリアナ殿、今よろしいでしょうか」

ノックと共に現れたケイビスにアリアナは驚く。

「ケイビス様、突然どうされましたの？」
「いえ…実は弟君から連絡を貰い、明日には領地への手配が全て終わると伺いまして。改めてお礼を申し上げたいと思い…」

決まり悪そうに答えるケイビスを見て、アリアナは内心、舌打ちしそうだった。
おおよそ、ユージンがケイビスとアリアナの間に何か起これば面白い、くらいの感覚で教えたに違いない。
アリアナは美しい笑みを浮かべて答えた。

「そんな。私もハンゼ公爵家の一員ですもの。お役に立てたなら幸いです。ケイビス様には明日の納品を確認してからお伝えしようと思っていましたのに、弟が先走ってしまったようで申し訳ございません」
「いえ。それであの…ユージン殿からもう一つ話を聞いたのですが」

言いづらそうに周囲を確認してから話し出す様子にアリアナは嫌な予感を感じた。

「兄があなたのメイドに関心を持っていたとか。しかもあなたと結婚する前から他に女性がいた、と」

あのバカ。
そう口に出さなかった自分を褒めて欲しいとアリアナは思った。
おおよそ堅物のケイビスに聞かせて良い話ではない。
アリアナは曖昧な笑みを浮かべたまま、答える。

「ええ。メイドの方は誘われたとクレメント様が勘違いなさっただけですし、女性ともお別れになられたようですが」
「アリアナ殿がいらっしゃるにもかかわらず、申し訳ありません」

義弟から誠実に謝られて、アリアナも苦笑いするしかなかった。

「いいえ。どうぞお気になさらず」
「あの、兄とは上手くいっているのでしょうか」

突拍子もない質問に、アリアナが思わず凍りつくとケイビスは重ねて続けた。

「このようなことお聞きするべきではないのは重々承知しています。
ですが、アリアナ殿のおかげで領民達は飢えずにすむでしょう。きっと彼らにとって新しい公爵夫人は敬愛の対象だと思います。それがもし兄との不和で、この屋敷を出て行かれたりなどされたら、彼らはきっと絶望してしまうのではないかと」

大げさだ、とアリアナが笑ってかわそうとした瞬間、真面目な瞳でケイビスは続けた。

「私もです。領地や領民のことを一緒に考えてくれる方が、突然離れていってしまわないか…そう思ってしまうのです」

熱のこもった瞳で訴えられて、アリアナは観念した。

こうなった以上全て話すしかない、と。