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ベスは目を伏せる。アリアナの依頼に応えるためとはいえ、確かにクレメントに気のある素振りを見せた自覚があるからだ。ベスの様子を見て、クレメントは勝ち誇った表情をする。

「アリアナ、この女は君のメイドでありながら主人を差し置いて私に色目を使ってきたんだ。」

手に入らないと分かった瞬間、ベスを貶めることにしたらしい。あまりの下劣さにアリアナは顔を歪めた。

「ベス、そうなの?」

目で否と言うように、と伝えながら問いかける。ベスはしっかりと気づいたようで、湿り気を帯びた声で答えた。

「アリアナ様。どうか私を信じてください。そのようなことは断じて…」

その言葉を聞いて、アリアナはわざとらしく頷きながらクレメントに告げた。

「クレメント様、私のメイドが勘違いさせてしまったようで申し訳ございません。彼女は見目の美しさで多くの殿方を魅了してしまうようでして…本人にその気がなくとも勘違いする男性が今までも多くいたのです」

お前の勘違いだ、と言われクレメントは怒りと羞恥で頬を染める。 

「誘ってきたのはベスの方だ!」

なおも言い募ろうとしたクレメントにアリアナはにっこり微笑んで尋ねた。

「万が一そうだったとして…あなたはその誘いを喜ばれたのですか」
「…」
「クレメント様は私のメイドから誘われてお応えになるおつもりだったのですか?私はクレメント様をお慕いしているからこそ、私財を投げ打ってもハンゼ公爵家のお役に立ちたいと考えております」

ユージンがせっかくお膳立てしてくれたのだから、とかけらもないクレメントへの愛情と共に自分の価値を再度クレメントに印象づける。

「ですが、私ではなく私のメイドを愛されるのでしたら、悲しいことですが私は身を引かなければいけないようです。もちろん相応の慰謝料…まぁ、実質私の私財を引き上げる形になるのでしょうけれど…もいただきます。私が去った後にハンゼ公爵家に体面を保てるだけの資産が残れば良いのですが」

さっと顔色を変えたクレメントへアリアナはダメ押しの一言を付け加えた。

「もちろん、ベスがあなたを選ぶかどうかは別問題です。なんなら今お聞きになっては?」

ぱっと顔をあげたクレメントは流石に観念した表情で答えた。

「アリアナ、すまない。私が愛しているのは君だけだ。ベスの件は私の勘違いだったようだ。ベスも怖がらせてしまったようだ。ユージン殿、ベスを頼む。」

絞り出すような答えにアリアナが満足気に頷こうとした瞬間、ユージンが冷ややかな様子で答えた。

「あなたに頼まれる筋合いはありません。姉さん、ベスのことは任せてね」

わざとらしくアリアナに声をかけてきたユージンに苦笑しながらアリアナは答えた。

「ええ。ベスをよろしくね。ベス、ありがとう」
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