あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

88

一月後。
ベスと共に公爵領にある街を歩いていたアリアナは聞こえてくる声にびくりと肩を震わした。

「おい、聞いたか？ゾーイの出戻り娘、もう一回ここに嫁ぐらしいぞ」

目深に被ったフードからちらりと声のする方を見ると、商人のような出立ちの男が二人で酒を飲みながら歩いている。
おそらくゾーイ商会とは取引のない者達だろう、とあたりをつけてアリアナは耳を澄ませた。

「へぇ。まぁ、商人とはいえ貴族だしな。珍しくないだろ」

大した興味もなさそうに相手の男は答える。

「だが、赤髪だぞ？しかも嫁ぎ先は前夫の弟の現公爵様ときた」
「本当か」
「ああ。よくやるぜ」
「はは。出戻り娘が泣きついたのか？捨てないでください、って。赤髪なら二度と嫁げねぇかもしれないしな」
「噂では美人らしいが…赤髪の元兄嫁なんて現公爵様もよく娶られる気になったもんだぜ」

ベスが飛び出して殴りかかっていきそうな気配を察して、アリアナはベスの手を掴んだ。

「離してください、お嬢様」

小声で怒りを向けてくるベスをアリアナはおどけた調子で嗜めた。

「だめよ、ベス」
「なぜですか？お嬢様のことをあのように…何も知らないくせに」
「どちらかと言うと私もあちらよりの意見…」
「お嬢様！」
「まあ、それは冗談としても彼らの意見には一理あるもの。それに今飛び出してご覧なさい。先ほどまでの評価に更に、暴力的で短気とかが加わるわよ」
「ですが…」
「もとから万人に祝福されるなんて思ってないわよ。でも、ケイビス様にも領民のみんなにも、私が居て良かったと思って欲しいの。だからここで悪評立てるわけにはいかないのよ」

ぐっと押し黙ったベスを元気付けるように、アリアナはベスの背中をポンと軽く叩いた。
その瞬間強い風が吹き、アリアナのフードがぱさりと脱げた。
ふわりと真紅の髪が風にたなびき、道ゆく人々が物珍しそうにその光景を見る。

「おい、あれ…」
「赤髪の…」

アリアナが周りが見回すと、それまでアリアナを見ていた者たちは気まずそうに目を伏せる。
先ほどまでアリアナのことを悪様に言っていた男たちは、下卑た視線のままアリアナに近づいてきた。
その様子に気づいたベスは敵意を剥き出しで睨みつける。一方アリアナは口元にうっすら笑みさえ浮かべて、面白そうに男たちが近寄ってくるのを眺めた。

「あんただろ？ゾーイの赤毛娘って」
「へぇ、確かに面だけ見りゃ美人なのにもったいねーな」

黙ったままのアリアナとベスに相手は更に調子に乗る。

「義弟に嫁ぐなんて獣でもあるまいし」