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アリアナがちらりと横を見ると、ベスが燃える瞳で二人を睨みつけている。

「おい。なんとか言ったらどうだ赤毛。人の言葉を話せないのか?」

揶揄うような罵詈雑言に、アリアナは穏やかに微笑んで答えた。

「なぜ、私があなた達の程度の低い会話に加わらなければならないのかしら。」
「なんだと」
「赤毛のくせに生意気な」

顔を赤くして男達はアリアナに食ってかかる。

「あら、あなた達は赤毛でもないのに、随分みっともない真似されるのね。それこそ私の言葉が分からないのかしら」

困ったようにアリアナが頬に手を当てて首を傾げると、それがいたく気に障ったらしい。

「おい、図に乗りやがって」

ぐっとアリアナに近づこうとした瞬間、背後からぱっと男の腕が捻りあげられた。

「いてっ…何する…」

手を掴まれた男が振り返ると、そこには困惑した表情のケイビスが立っていた。

「アリアナ様、お怪我はございませんか」

心配そうな声で聞かれて、アリアナは苦笑しながら答えた。

「申し訳ございません。問題を起こすつもりはなかったのですが…」
「こいつらが悪いのです。反論一つしなかったお嬢様に執拗に食ってかかってきて…」

その言葉を聞いた瞬間、ケイビスの顔つきがガラリと変わる。男達を問いただす声には冷気すら感じられる。

「アリアナ様に何をした?」
「あ?なんだよお前。早く手を離せ」
「何をしたと聞いている」
「なんもしてねーよ」
「ああ。ちょっと赤毛に義弟に嫁ぐ不義理をからかっただけだ」

憮然とした表情でそう答えた二人の手をケイビスは思いっきり捻り上げた。くぐもった悲鳴が二人から上がるのも気にせずに淡々とケイビスは告げた。

「アリアナ様は、私が恋焦がれた上で公爵夫人にとお願いしたお方だ。無礼は許さない」

その言葉を聞いて捻りあげられた状態の二人の顔が瞬時に青ざめる。

「こ、公爵様ですか…大変失礼を…」

震える声で告げられた謝罪を興味無さそうに見やりながら、ケイビスは柔らかな声音でアリアナに問うた。

「それで、お求めだったものは買えましたか」
「はい、おかげさまで…あのケイビス様。そろそろ手を離して差し上げた方がよろしいのではないでしょうか」

アリアナが若干気の毒そうに進言すると、ケイビスは低い声で二人に何かを呟いた後に手を離した。
手を離された瞬間に、脱兎の如く逃げ出した二人を目で追いながらアリアナはケイビスに尋ねた。

「何をお伝えになったのですか?」
「ああ、大したことではありませんよ。今後は言動に気をつけるように、とだけお伝えしたまでです」
「そうですか」

そのやりとりを側で聞いていたベスは咽せた。

「あらベス大丈夫?」

心配そうに背中を摩るアリアナに、ベスは苦笑しながら答えた。

「申し訳ありません。アリアナ様、私はアリアナ様の側にケイビス様がいてくださるなら安心して嫁げそうです」
「そう?良かったわ」

アリアナがケイビスの顔を見ると困ったような、はに噛んだような顔をしていた。


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