2 / 13
1 始まりの日一
しおりを挟む
珍しく街へのお出かけに誘われて私はいつになく心が浮き立つのを感じた。
ヴァンは私と違って出不精だ。そう言うと怠惰に聞こえてしまうけれど、図書室で彼から面白かった歴史書の解説を聞いたり、庭園で見つけた花の名前や育て方を教えてくれたりする彼との時間は、公爵令嬢として忙しい日々を送る私にとっては何よりの癒しの時間だった。
珍しく思いながらも私はすぐに身支度に取り掛かった。美しいシルエットに上品な色合い、それでいて馬車の乗り降りに邪魔にならないような動きやすい服。いつもほど華美ではない私のドレス姿を見て、彼はにっこり微笑んだ。
「そういう清楚なドレスもよく似合うよ」
「ありがとう。街へのお出かけだと聞いて」
「アレネの横を歩けるのは光栄だけれど、周りの男の視線が怖いな」
彼は戯けて言った。私はよく派手な顔立ちだと言われるけれど、ヴァンはどちらかというと大人しい顔立ちだ。でも切れ長の目もすっと通った鼻筋も薄い唇もどれも面長の顔と調和が取れていて、とても整った顔立ちだ。
「あら、ヴァンこそ。目が合った女の子の視線を片っ端から釘付けにしてるくせに。」
私がわざと拗ねて見せると、くすりと笑って肩をすくめる仕草をした。
「関係ないな。アレネ以外の女性には興味ない」
彼の愛情表現はいつもとてもまっすぐだ。私のくだらない嫉妬心などすぐに溶かしてしまう。
「ふふ。行きましょうか」
「そうだな」
街に着くと彼は開口一番私に告げた。
「一緒に来て欲しい場所があるんだ」
「ええ。もちろんよ」
新しい本でも見に行くのだろうか、私がそう思った瞬間、彼は照れた様子で口元を手で覆いながら続けた。
「宝石店だが、いいか」
「ええ。お義母様に?」
私への婚約指輪はすでに買ってもらっている。だから義母へのプレゼントを一緒に選んで欲しい、そういうことだと思ったら、彼は先ほど口を覆っていた手を額に当てて、天を仰いでいた。
「どうしたの?」
「母へのプレゼントに君を連れ出したりしない。君へのプレゼントだ」
「婚約指輪なら頂いたわよ?結婚指輪はまだ先でしょう?」
「違う。普通に君の誕生日に贈ろうかと…」
がっくりと肩を落とした様子で告げてくるヴァンに私は申し訳ない気持ちになる。
「あの、ごめんなさい…自分の誕生日のこと、すっかり忘れてて…」
「はは、気にするな」
気持ちを立て直して、爽やかに笑う彼に安心する。貴族といえど男爵位のオレガ家は、プレゼントのたびに宝飾品を贈れるような経済状況にはないことを知っている。だからこそ私へのプレゼントではなく、結婚して25年を迎えたオレガ夫人への贈り物だと思ったのだ。
「嬉しいわ!何を選んでくれるのかしら」
私が甘えたように言うと、彼は苦笑いしながら答えた。
「公爵家で扱うような最高級のものではないかもしれないが…良い店がある」
ヴァンは私と違って出不精だ。そう言うと怠惰に聞こえてしまうけれど、図書室で彼から面白かった歴史書の解説を聞いたり、庭園で見つけた花の名前や育て方を教えてくれたりする彼との時間は、公爵令嬢として忙しい日々を送る私にとっては何よりの癒しの時間だった。
珍しく思いながらも私はすぐに身支度に取り掛かった。美しいシルエットに上品な色合い、それでいて馬車の乗り降りに邪魔にならないような動きやすい服。いつもほど華美ではない私のドレス姿を見て、彼はにっこり微笑んだ。
「そういう清楚なドレスもよく似合うよ」
「ありがとう。街へのお出かけだと聞いて」
「アレネの横を歩けるのは光栄だけれど、周りの男の視線が怖いな」
彼は戯けて言った。私はよく派手な顔立ちだと言われるけれど、ヴァンはどちらかというと大人しい顔立ちだ。でも切れ長の目もすっと通った鼻筋も薄い唇もどれも面長の顔と調和が取れていて、とても整った顔立ちだ。
「あら、ヴァンこそ。目が合った女の子の視線を片っ端から釘付けにしてるくせに。」
私がわざと拗ねて見せると、くすりと笑って肩をすくめる仕草をした。
「関係ないな。アレネ以外の女性には興味ない」
彼の愛情表現はいつもとてもまっすぐだ。私のくだらない嫉妬心などすぐに溶かしてしまう。
「ふふ。行きましょうか」
「そうだな」
街に着くと彼は開口一番私に告げた。
「一緒に来て欲しい場所があるんだ」
「ええ。もちろんよ」
新しい本でも見に行くのだろうか、私がそう思った瞬間、彼は照れた様子で口元を手で覆いながら続けた。
「宝石店だが、いいか」
「ええ。お義母様に?」
私への婚約指輪はすでに買ってもらっている。だから義母へのプレゼントを一緒に選んで欲しい、そういうことだと思ったら、彼は先ほど口を覆っていた手を額に当てて、天を仰いでいた。
「どうしたの?」
「母へのプレゼントに君を連れ出したりしない。君へのプレゼントだ」
「婚約指輪なら頂いたわよ?結婚指輪はまだ先でしょう?」
「違う。普通に君の誕生日に贈ろうかと…」
がっくりと肩を落とした様子で告げてくるヴァンに私は申し訳ない気持ちになる。
「あの、ごめんなさい…自分の誕生日のこと、すっかり忘れてて…」
「はは、気にするな」
気持ちを立て直して、爽やかに笑う彼に安心する。貴族といえど男爵位のオレガ家は、プレゼントのたびに宝飾品を贈れるような経済状況にはないことを知っている。だからこそ私へのプレゼントではなく、結婚して25年を迎えたオレガ夫人への贈り物だと思ったのだ。
「嬉しいわ!何を選んでくれるのかしら」
私が甘えたように言うと、彼は苦笑いしながら答えた。
「公爵家で扱うような最高級のものではないかもしれないが…良い店がある」
5
あなたにおすすめの小説
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
今さら泣きついても遅いので、どうかお静かに。
有賀冬馬
恋愛
「平民のくせに」「トロくて邪魔だ」──そう言われ続けてきた王宮の雑用係。地味で目立たない私のことなんて、誰も気にかけなかった。
特に伯爵令嬢のルナは、私の幸せを邪魔することばかり考えていた。
けれど、ある夜、怪我をした青年を助けたことで、私の運命は大きく動き出す。
彼の正体は、なんとこの国の若き国王陛下!
「君は私の光だ」と、陛下は私を誰よりも大切にしてくれる。
私を虐げ、利用した貴族たちは、今、悔し涙を流している。
妹を愛した男は、もうじき消えます。
coco
恋愛
私には、可愛い妹がいる。
彼女はいつだって、男たちを魅了する。
それが、私の恋人であっても。
妹の秘密、何も知らないくせに。
あの子を好きになる男は、みんな消えるのよ。
妹を愛した男たちの末路と、捨てられた私の行く末は-?
【完結】愛してたと告げられて殺された私、今度こそあなたの心を救います
椿かもめ
恋愛
伯爵家令嬢のオデットは嵐の晩、慕っていた青年ジョナに殺された。最期の瞬間、ジョナはオデットに「愛していた」と告げる。死んだオデットは気づけば見知らぬ場所にいた。そしてそこでもう一度人生をやり直す選択肢が与えられることになり──。【全7話完結】
※カクヨムでも公開中
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる