3 / 13
2 始まりの日ニ
しおりを挟む
「あら楽しみだわ。どこでお知りになったの?」
「友人の店なんだ。彼のデザインはとても繊細で美しくて…アレネにつけて欲しい」
さらりと答えた中に店への信頼が感じ取れる。
店に着くと彼は親しげに声を店主に声をかけた。
「ジュード、今日はすまないな」
「ヴァンの頼みとあればもちろん、どんなものでも用意するよ。こちらのご令嬢が君の自慢の婚約者殿かい?」
「ああ。アレネ=フォーエン公爵令嬢だ。彼女に似合う指輪を作りたい」
私が微笑んで会釈すると、ジュードと呼ばれた店主は驚いたように、しばらく私を見つめた後、にこりと笑った。
「もちろんだよ。ところで彼女に私を紹介してくれないのか?」
からかう口調で催促されたヴァンは、苦笑を浮かべながら私に彼を紹介する。
「俺の友人で、ジュエリーデザイナーのジュード=ヘブンスだ。彼の作品はとても美しい…それと美しい女性を見れば口説かずにはいられない人間だから気をつけて」
「美を愛する私にとっては当然のことだ」
二人の軽口を聞きながら私は、ふと疑問に思ったことを口にしていた。
「ヘブンス?」
その一言でジュードがしまった、と言う表情をする。言い訳するようにヴァンは私に事情を話した。
「ヘブンス公爵家の三男なんだ。貴族の格式ばったやりとりに嫌気がさして逃げ出したらしい。あまり虐めないでやってくれ」
その言葉に私もジュードも思わず笑ってしまう。場を和ますのもヴァンの特技の一つだ。私はジュードに向き直ると不用意な一言を詫びた。
「ジュード様、失礼しました。ヴァンのご友人としてどうぞよろしくお願いいたします。」
「アレネ様、私に敬称は不要です。こちらこそお気遣い感謝いたします。
ところで本日はどのようなものをお探しですか」
問われた私は言葉に詰まる。先ほど聞かされたばかりで、欲しい指輪など全く考えていなかった。
「石は彼女の瞳に合わせた色のもので。モチーフは蝶。デザインは任せるがシルバーで頼む。」
ちらりと伺うようにこちらを見つめてきたヴァンと目が合う。
「なんだ、お前が決めるのか」
それを意に介した様子もなく、ジュードは揶揄う口調でヴァンに答えた。その言葉にヴァンはさっと顔を赤らめる。それでジュードには何か分かったらしい。お前らしいな、と呟くとジュードは私に向き直り、にやりと笑った。
「アレネ様。ヴァンの要望通りのものでよろしいでしょうか?」
訳も分からないまま頷くと、ジュードは笑顔のまま続けた。
「自分の贈りたい指輪があなたの趣味に合うか心配したのですよ。気に入らないようであれば、すぐにあなたの希望を聞けるようにあなたを連れてきたのでしょう。」
「友人の店なんだ。彼のデザインはとても繊細で美しくて…アレネにつけて欲しい」
さらりと答えた中に店への信頼が感じ取れる。
店に着くと彼は親しげに声を店主に声をかけた。
「ジュード、今日はすまないな」
「ヴァンの頼みとあればもちろん、どんなものでも用意するよ。こちらのご令嬢が君の自慢の婚約者殿かい?」
「ああ。アレネ=フォーエン公爵令嬢だ。彼女に似合う指輪を作りたい」
私が微笑んで会釈すると、ジュードと呼ばれた店主は驚いたように、しばらく私を見つめた後、にこりと笑った。
「もちろんだよ。ところで彼女に私を紹介してくれないのか?」
からかう口調で催促されたヴァンは、苦笑を浮かべながら私に彼を紹介する。
「俺の友人で、ジュエリーデザイナーのジュード=ヘブンスだ。彼の作品はとても美しい…それと美しい女性を見れば口説かずにはいられない人間だから気をつけて」
「美を愛する私にとっては当然のことだ」
二人の軽口を聞きながら私は、ふと疑問に思ったことを口にしていた。
「ヘブンス?」
その一言でジュードがしまった、と言う表情をする。言い訳するようにヴァンは私に事情を話した。
「ヘブンス公爵家の三男なんだ。貴族の格式ばったやりとりに嫌気がさして逃げ出したらしい。あまり虐めないでやってくれ」
その言葉に私もジュードも思わず笑ってしまう。場を和ますのもヴァンの特技の一つだ。私はジュードに向き直ると不用意な一言を詫びた。
「ジュード様、失礼しました。ヴァンのご友人としてどうぞよろしくお願いいたします。」
「アレネ様、私に敬称は不要です。こちらこそお気遣い感謝いたします。
ところで本日はどのようなものをお探しですか」
問われた私は言葉に詰まる。先ほど聞かされたばかりで、欲しい指輪など全く考えていなかった。
「石は彼女の瞳に合わせた色のもので。モチーフは蝶。デザインは任せるがシルバーで頼む。」
ちらりと伺うようにこちらを見つめてきたヴァンと目が合う。
「なんだ、お前が決めるのか」
それを意に介した様子もなく、ジュードは揶揄う口調でヴァンに答えた。その言葉にヴァンはさっと顔を赤らめる。それでジュードには何か分かったらしい。お前らしいな、と呟くとジュードは私に向き直り、にやりと笑った。
「アレネ様。ヴァンの要望通りのものでよろしいでしょうか?」
訳も分からないまま頷くと、ジュードは笑顔のまま続けた。
「自分の贈りたい指輪があなたの趣味に合うか心配したのですよ。気に入らないようであれば、すぐにあなたの希望を聞けるようにあなたを連れてきたのでしょう。」
4
あなたにおすすめの小説
【完結】傲慢にも程がある~淑女は愛と誇りを賭けて勘違い夫に復讐する~
Ao
恋愛
由緒ある伯爵家の令嬢エレノアは、愛する夫アルベールと結婚して三年。幸せな日々を送る彼女だったが、ある日、夫に長年の愛人セシルがいることを知ってしまう。
さらに、アルベールは自身が伯爵位を継いだことで傲慢になり、愛人を邸宅に迎え入れ、エレノアの部屋を与える暴挙に出る。
挙句の果てに、エレノアには「お飾り」として伯爵家の実務をこなさせ、愛人のセシルを実質の伯爵夫人として扱おうとする始末。
深い悲しみと激しい屈辱に震えるエレノアだが、淑女としての誇りが彼女を立ち上がらせる。
彼女は社交界での人脈と、持ち前の知略を駆使し、アルベールとセシルを追い詰める貴族らしい復讐を誓うのであった。
【完結】愛してたと告げられて殺された私、今度こそあなたの心を救います
椿かもめ
恋愛
伯爵家令嬢のオデットは嵐の晩、慕っていた青年ジョナに殺された。最期の瞬間、ジョナはオデットに「愛していた」と告げる。死んだオデットは気づけば見知らぬ場所にいた。そしてそこでもう一度人生をやり直す選択肢が与えられることになり──。【全7話完結】
※カクヨムでも公開中
妹に簡単になびいたあなたが、今更私に必要だと思いますか?
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるルーティアは、ある時夫の不貞を知ることになった。
彼はルーティアの妹に誘惑されて関係を持っていたのだ。
さらに夫は、ルーティアの身の周りで起きたある事件に関わっていた。それを知ったルーティアは、真実を白日の下に晒して夫を裁くことを決意する。
結果として、ルーティアは夫と離婚することになった。
彼は罪を裁かれるのを恐れて逃げ出したが、それでもなんとかルーティアは平和な暮らしを手に入れることができていた。
しかしある時、夫は帰ってきた。ルーティアに愛を囁き、やり直そうという夫に対して彼女は告げる。
「妹に簡単になびいたあなたが、今更私に必要だと思いますか?」
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
【完結】さよなら、馬鹿な王太子殿下
花草青依
恋愛
ビーチェは恋人であるランベルト王太子の傍らで、彼の“婚約破棄宣言”を聞いていた。ランベルトの婚約者であるニナはあっさりと受け入れて去って行った。それを見て、上手く行ったと満足するビーチェ。しかし、彼女の目的はそれだけに留まらず、王宮の平和を大きく乱すのだった。 ■主人公は、いわゆる「悪役令嬢もの」のヒロインのポジションの人です ■画像は生成AI (ChatGPT)
許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。
それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。
※全3話。
裏切者には神罰を
夜桜
恋愛
幸せな生活は途端に終わりを告げた。
辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。
けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。
あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる