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第六章
6-18.心当たり
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時はメルニールの鳳雛亭から仁が姿を消した直後まで遡る。突如浮かび上がった魔法陣が仁と共に消え去り、部屋に再び夜の帳が降りた。
「仁くん……」
玲奈の伸ばした手が力なく垂れ落ち、放心状態の玲奈が呟く。玲奈の脳が目の前で起きた現象を受け入れるのを拒否するかのように思考を停止し、玲奈の心を大きな喪失感が襲う。
「ジンお兄ちゃん……?」
目の前で仁が消えるのを見ていたミルが目を瞬かせる。赤紫の瞳が、仁の姿を探して細かく動いた。
「ジンお兄ちゃん、どこ……?」
ミルがベッドから降り、頼りない足取りで仁が直前まで存在した場所に歩み寄る。ミルの視線がゆっくりと床にへたり込む玲奈に向いた。
「レナお姉ちゃん。ジンお兄ちゃんはどこに行ったの……?」
玲奈はビクッと肩を震わせ、顔を床に向けたまま答えない。
「レナお姉ちゃん」
「わからない。わからないの……」
玲奈の消え入るような震える声が、固まったまま動けないでいたロゼッタに再起動を促す。ロゼッタは放心状態の玲奈とミルの姿を痛々しく思いながら、自らの頬を自分の両手で挟み込むように叩いた。
「レナ様、特殊従者召喚を!」
ロゼッタの声に、玲奈が弾かれたように顔を上げた。玲奈は自身を見つめるロゼッタに大きな頷きを返す。
「仁くん……!」
玲奈は目をきつく閉じて祈るように両手を胸の前で組み、強く強く心の内に仁を思い浮かべる。
「仁くん! お願い!」
玲奈の懇願するような声が鳳雛亭の一室に響くが、いつまで待っても青白い光が生まれることはなかった。
「どうして……」
普段であれば玲奈の心をぽかぽかと温かくしてくれる特殊技能だったが、玲奈の心にぽっかりと開いた穴をより一層広げるだけの結果に終わり、玲奈の双眸から涙が溢れ出す。ロゼッタは端正な顔を歪め、ミルがその場に崩れ落ちて涙で床を濡らした。
玲奈とミルの泣き声だけが支配する灰色の部屋が、荒々しいノックの音によって色を取り戻す。泣きはらした顔で音のした方を向く玲奈とミルの代わりに、ロゼッタがドアを開けた。
「ジンさん! 皆さん! 何かあったんですかっ!」
勢い込んで部屋に入ってきたのはツインテールを揺らしたリリーだった。
「窓からすごい光が見えましたけど、あれは――」
リリーは廊下から差し込む光を頼りに、薄暗い部屋の中に目を凝らす。部屋の中央に座り込んだ玲奈とミルの姿を認め、リリーはドアの脇に立つロゼッタに顔を向けた。
「あの、ジンさんは?」
リリーの素朴な疑問が、再び玲奈とミルの涙腺を刺激する。泣き声を上げる玲奈とミルに、リリーは困惑の表情を浮かべた。
「話をまとめると、突然現れた魔法陣のようなものがジンさんを連れ去ったということですね。そして、レナさんの技能でもジンさんを呼ぶことができなかったと」
照明の魔道具に照らされる明るい部屋の中で、玲奈が弱々しく頷く。
「酔いに任せて、皆さんが寝静まった頃を見計らって、こっそりジンさんのベッドに潜り込もうと外から様子を窺っていたら窓から強い光が見えたので慌てて駆けつけましたが、そんなことになってたなんて……」
リリーが冗談なのか本気なのかわからないことを口にしていたが、玲奈たちにはツッコミを入れる気力すら残っていなかった。
「その魔法陣に心当たりはないんですか?」
リリーが玲奈たち3人に目を向けると、ミルとロゼッタが首を横に振り、玲奈は小さく体を揺らした。
「レナさん?」
玲奈の視線が何度もリリーと床を往復する。玲奈の迷うような素振りに、リリーは大きく息を吐いた。
「レナさん。今更隠し事なんてなしですよ。何が手掛かりになるかわかりませんし、どんな些細なことでも気になることがあるなら教えてください」
リリーの真摯な瞳が玲奈を射抜く。玲奈は考え込むようにゆっくりと目を閉じる。しばらくして、閉じたときと同じくらいゆっくり瞼を開いた玲奈が、リリーをジッと見つめた。玲奈の目から迷いが消えていた。
「リリー。今から話すことは、既に知っている人たちか、私たちが認めた人にしか話さないって約束できる?」
「はいっ」
「うん。じゃあ、心当たりについてと、それに付随して仁くんと私のことを話すね」
「じゃあ、ジンさんとレナさんが勇者っていう噂は本当だったんですね。ジンさんとレナさんが異世界から召喚されて来たっていうのには驚きましたけど、仁さんが奴隷なのも、お二人が強いのにも納得がいきました。勇者はともかく、仁さんに魔王のイメージはなかったですけど」
玲奈は自身と仁が帝国によって異世界から召喚されてから今までのこと、そして自身が召喚された際の様子と先ほどの現象が酷似していることをリリーに話して聞かせた。
リリーは何度も頷きながら、話しているうちに落ち着きを取り戻した玲奈の様子に内心で安堵の息を吐いた。
「ということは、ジンさんはまた誰かに召喚されちゃったんでしょうか?」
「確証はないけど、そうだと思う」
玲奈は答えながら顔を歪める。
「レナさんの技能が失敗した理由はわかりますか?」
「ちょっと待ってね」
玲奈が瞼を閉じ、すぐに開く。玲奈の黒い双眸が悲しみで濡れていた。
「今ステータスを確認してみたけど、仁くんが私の奴隷じゃなくなってるみたい。特殊従者召喚が失敗したのは、仁くんが私の従者、奴隷じゃなくなったからだと思う」
「そうですか。今わかるのはそのくらいですね。では、早く着替えてください。行きますよっ」
サッと立ち上がるリリーに、玲奈は目を丸くする。
「どこに?」
「何を言ってるんですか。ジンさんとレナさんをこの世界に召喚した、魔法陣に詳しい人が今、メルニールにいるんですよね?」
玲奈はリリーが誰のことを言っているのか察して目を見開く。
「もう、しっかりしてくださいっ。わたしだけじゃ、きっとジンさんを見つけられないんですからっ」
「う、うん。あ、でも、仁くんしか屋敷の場所を知らなくて……。冒険者ギルドで聞けば教えてくれると思うけど、もう締まってるよね」
「大丈夫です。話に聞いたところ、初代様のお屋敷ですよね。それなら私が知ってます。さぁレナさん、皆さん。皇女殿下が寝る前に突撃ですっ。もし眠っちゃってても、叩き起こしちゃいましょう!」
赤髪を揺らして高らかに宣言するリリーを、玲奈はとても頼もしく思った。
「仁くん……」
玲奈の伸ばした手が力なく垂れ落ち、放心状態の玲奈が呟く。玲奈の脳が目の前で起きた現象を受け入れるのを拒否するかのように思考を停止し、玲奈の心を大きな喪失感が襲う。
「ジンお兄ちゃん……?」
目の前で仁が消えるのを見ていたミルが目を瞬かせる。赤紫の瞳が、仁の姿を探して細かく動いた。
「ジンお兄ちゃん、どこ……?」
ミルがベッドから降り、頼りない足取りで仁が直前まで存在した場所に歩み寄る。ミルの視線がゆっくりと床にへたり込む玲奈に向いた。
「レナお姉ちゃん。ジンお兄ちゃんはどこに行ったの……?」
玲奈はビクッと肩を震わせ、顔を床に向けたまま答えない。
「レナお姉ちゃん」
「わからない。わからないの……」
玲奈の消え入るような震える声が、固まったまま動けないでいたロゼッタに再起動を促す。ロゼッタは放心状態の玲奈とミルの姿を痛々しく思いながら、自らの頬を自分の両手で挟み込むように叩いた。
「レナ様、特殊従者召喚を!」
ロゼッタの声に、玲奈が弾かれたように顔を上げた。玲奈は自身を見つめるロゼッタに大きな頷きを返す。
「仁くん……!」
玲奈は目をきつく閉じて祈るように両手を胸の前で組み、強く強く心の内に仁を思い浮かべる。
「仁くん! お願い!」
玲奈の懇願するような声が鳳雛亭の一室に響くが、いつまで待っても青白い光が生まれることはなかった。
「どうして……」
普段であれば玲奈の心をぽかぽかと温かくしてくれる特殊技能だったが、玲奈の心にぽっかりと開いた穴をより一層広げるだけの結果に終わり、玲奈の双眸から涙が溢れ出す。ロゼッタは端正な顔を歪め、ミルがその場に崩れ落ちて涙で床を濡らした。
玲奈とミルの泣き声だけが支配する灰色の部屋が、荒々しいノックの音によって色を取り戻す。泣きはらした顔で音のした方を向く玲奈とミルの代わりに、ロゼッタがドアを開けた。
「ジンさん! 皆さん! 何かあったんですかっ!」
勢い込んで部屋に入ってきたのはツインテールを揺らしたリリーだった。
「窓からすごい光が見えましたけど、あれは――」
リリーは廊下から差し込む光を頼りに、薄暗い部屋の中に目を凝らす。部屋の中央に座り込んだ玲奈とミルの姿を認め、リリーはドアの脇に立つロゼッタに顔を向けた。
「あの、ジンさんは?」
リリーの素朴な疑問が、再び玲奈とミルの涙腺を刺激する。泣き声を上げる玲奈とミルに、リリーは困惑の表情を浮かべた。
「話をまとめると、突然現れた魔法陣のようなものがジンさんを連れ去ったということですね。そして、レナさんの技能でもジンさんを呼ぶことができなかったと」
照明の魔道具に照らされる明るい部屋の中で、玲奈が弱々しく頷く。
「酔いに任せて、皆さんが寝静まった頃を見計らって、こっそりジンさんのベッドに潜り込もうと外から様子を窺っていたら窓から強い光が見えたので慌てて駆けつけましたが、そんなことになってたなんて……」
リリーが冗談なのか本気なのかわからないことを口にしていたが、玲奈たちにはツッコミを入れる気力すら残っていなかった。
「その魔法陣に心当たりはないんですか?」
リリーが玲奈たち3人に目を向けると、ミルとロゼッタが首を横に振り、玲奈は小さく体を揺らした。
「レナさん?」
玲奈の視線が何度もリリーと床を往復する。玲奈の迷うような素振りに、リリーは大きく息を吐いた。
「レナさん。今更隠し事なんてなしですよ。何が手掛かりになるかわかりませんし、どんな些細なことでも気になることがあるなら教えてください」
リリーの真摯な瞳が玲奈を射抜く。玲奈は考え込むようにゆっくりと目を閉じる。しばらくして、閉じたときと同じくらいゆっくり瞼を開いた玲奈が、リリーをジッと見つめた。玲奈の目から迷いが消えていた。
「リリー。今から話すことは、既に知っている人たちか、私たちが認めた人にしか話さないって約束できる?」
「はいっ」
「うん。じゃあ、心当たりについてと、それに付随して仁くんと私のことを話すね」
「じゃあ、ジンさんとレナさんが勇者っていう噂は本当だったんですね。ジンさんとレナさんが異世界から召喚されて来たっていうのには驚きましたけど、仁さんが奴隷なのも、お二人が強いのにも納得がいきました。勇者はともかく、仁さんに魔王のイメージはなかったですけど」
玲奈は自身と仁が帝国によって異世界から召喚されてから今までのこと、そして自身が召喚された際の様子と先ほどの現象が酷似していることをリリーに話して聞かせた。
リリーは何度も頷きながら、話しているうちに落ち着きを取り戻した玲奈の様子に内心で安堵の息を吐いた。
「ということは、ジンさんはまた誰かに召喚されちゃったんでしょうか?」
「確証はないけど、そうだと思う」
玲奈は答えながら顔を歪める。
「レナさんの技能が失敗した理由はわかりますか?」
「ちょっと待ってね」
玲奈が瞼を閉じ、すぐに開く。玲奈の黒い双眸が悲しみで濡れていた。
「今ステータスを確認してみたけど、仁くんが私の奴隷じゃなくなってるみたい。特殊従者召喚が失敗したのは、仁くんが私の従者、奴隷じゃなくなったからだと思う」
「そうですか。今わかるのはそのくらいですね。では、早く着替えてください。行きますよっ」
サッと立ち上がるリリーに、玲奈は目を丸くする。
「どこに?」
「何を言ってるんですか。ジンさんとレナさんをこの世界に召喚した、魔法陣に詳しい人が今、メルニールにいるんですよね?」
玲奈はリリーが誰のことを言っているのか察して目を見開く。
「もう、しっかりしてくださいっ。わたしだけじゃ、きっとジンさんを見つけられないんですからっ」
「う、うん。あ、でも、仁くんしか屋敷の場所を知らなくて……。冒険者ギルドで聞けば教えてくれると思うけど、もう締まってるよね」
「大丈夫です。話に聞いたところ、初代様のお屋敷ですよね。それなら私が知ってます。さぁレナさん、皆さん。皇女殿下が寝る前に突撃ですっ。もし眠っちゃってても、叩き起こしちゃいましょう!」
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