リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき

文字の大きさ
58 / 294

57話 カミサマ(1)

しおりを挟む
 メーアレクトに待ち合わせの場所として指定されたのは、王宮の敷地内にある温室だ。目立たない所にあり、王族以外の立ち入りを禁じているので、俺みたいな訳あり相手と落ち合うにはもってこいだという。
 温室の中には、メーアレクトの好きなバラの花が所狭しと植えられていた。充満する甘い香りに当てられ酔いそうになる。しかし、丹精込めて育てられたであろう、それらの花々は実に見事だった。花に興味など全く無い俺ですら目を奪われてしまうほどに。美しいバラを眺めながら温室内を歩いていくと、奥から話し声が聞こえてくる。その一つは聞き覚えのある少女のものだった。








「やっほー! クレハちゃん、ご機嫌いかが?」

「ルーイ様!!? どうして……」

 クレハは大きな瞳をこぼれそうなほど見開いて驚いている。元気そうで安心した。しかし、この反応からして今日俺がここに来ることを全く知らなかったようだ。
 クレハの隣に寄り添っている金髪の少年……こいつが婚約者の王子様だな。おっと、瞳の色が紫色だ。力の強さからいって当然だが、まさか人間が俺達と同じ色の瞳を有しているなんてな……つくづく規格外な奴だ。

「ルーイ様っ……あの、えっと……」 

 本当にこの子には何も説明していないんだな……。王子がいるのに普通に姿を現している俺を見て、今更ながらにクレハが焦りだした。状況が分からずテンパってるさまは愉快だけど、スムーズに話をするのにあまりよろしくないな。

「心配すんな、クレハ。王子様には予め俺のことは知らせてある。当初は、お前が家に帰ってから話を聞かせて貰うつもりだったんだけど……クレハの婚約者があまりにも面白そうな奴だったから待ちきれなくなっちゃった」

「面白そうって……。レオンは知っていたのですか?」

 クレハは王子の腕を掴みながら顔を覗き込む。どうして黙っていたんだとでも言いたげな表情で……けれど、呼びかけているその声は不安そうに揺れていた。王子はそんなクレハを安心させる為か、彼女の頭を優しい手つきでそっと撫でた。

「うん、大丈夫だよ。あの方の正体……そして君との関わりも最低限は理解してるつもりだ」

 腕を掴んでいるクレハの手を降ろさせると、王子は俺の方へ向き直り、ゆっくりと近づいてくる。互いの距離が1メートル程になると、王子は立ち止まり恭しく礼をした。

「初めてお目にかかります。コスタビューテ王国王太子、レオン・メーアレクト・ディセンシアです」

「まぁ、そう畏るな。俺の名はルーイ。メーアレクトから粗方の事情は聞いているようだな」

「はい。知らぬ事とはいえ、身辺を探るような真似をしてしまい申し訳ありません」

 例のクレハへのストーキング行為だな。うーん……見た目だけなら、そんな事をするような奴には見えんのだがなぁ……物語にでも登場しそうな綺麗な王子様って感じだ。メーアレクトの話から窺うに、性格の方もなかなかに型破りみたいだから楽しみではあるが……

「それはいい。お前が俺を見つけられたのは、偶然によるところが大きいようだし……そもそも、俺を探っていたわけではないのだしなぁ?」

 暗にこちらは全部知っているのだと、したり顔で伝えてやる。すると、レオンは一瞬だけ表情を引きつらせた。クレハの周辺を逐一監視していた事は、本人の前では指摘して欲しくないようだ。当のクレハはというと、話についていけず、きょとんとしている。

「……最初は、彼女の家族に他に力を持っている者がいるのかと思いましたが……人間からは感じた事の無い不思議な気配に戸惑っていたのです。メーアレクト様に話を伺ったものの、こうやって実際にお会いするまでは信じられませんでした。まさか、クレハの近くにメーアレクト様より上位の神がいるなんて……」

「俺はコイツ……クレハにとある借りがあってな。成り行きで時々行動を共にしていた。こちらも人間に存在を察知されるとは思っていなかったから驚いたよ。とにかく、俺は怪しいもんじゃない。クレハに危害を加える事は無いから、そこは認識しておいて欲しい。茶飲み友達のようなものだと思ってくれ」

 お前とメーアレクトみたいになと続けて言ってやると、レオンは毒気を抜かれたように目をパチクリとさせた。

「レオン、私に魔法を教えてくださったのはルーイ様なんですよ。私の先生でもあります」

「先生?」

「はい。何も知らなかった私に丁寧に教えてくださいました。今、私が僅かでも魔法が扱えるのは、ルーイ先生のおかげです」

「そうそう。お前も今後は、俺のことを気軽にルーイ先生と呼べ」

「ルーイせん……せい?」

「おう! そんなに気を張る必要はないぞ。今日俺がここに来たのだって、言ってしまえば唯の好奇心だからな」

「……メーアレクト様からも心配するなと言われていましたが……万が一、クレハとの婚約を反対されたらどうしようかと……。神相手にどう対抗すべきか、気を揉んでいたのですよ」

「ははっ、俺はそこまでお節介じゃないよ。クレハ本人が嫌がっていないものを、俺がとやかく言う理由は無いからな」
 
 先程までの張り詰めていた空気が僅かに緩んだ。メーアレクトから俺の正体を聞いていたにも関わらず、今の今まで物怖じもせず一切警戒を解かず対峙していたのだから大したものだ。歳は確か10だったか……

「それでは、ルーイ先生……ひとつだけ……お聞きしておきたい事があるのですが、よろしいですか?」

「うん、なんだ?」










『キミのお仕置き期間は、まだ終わっていないはずだけど……どうして外に出ているのかな?』




「!!!!?」

 とっさに目の前の少年から距離を取った。全身の毛が逆立つような、ぞわりとした感覚に襲われる。

「ルーイ様!?」

「クレハ!! ここから離っ……」

 離れろと叫ぼうとした声は、途中で飲み込んでしまった。クレハは俺の名を呼んだ時の体勢のまま静止している。瞬きも呼吸さえも行わない……まるで彫像のようだ。もちろん自らの意志でそうなっているのではない……クレハのこの状態は、俺にとって既視感があり過ぎるものだった。それは、自分も得意とする魔法の1つで……時を操るもの。クレハは……いや、クレハだけではない。周囲を見渡すと、俺を除外した全ての物の時間が止められている。恐らく、目の前の少年の手によって。

『うーん……寝起きだからかな。ちょっとぼんやりするな』

 突然豹変したレオン王子。違う……これはレオンじゃない。レオンの姿をしたそれは、組んだ両手を頭上に上げ、伸びをしながら欠伸をしている。そして、俺の方へ細めた瞳を向けてニヤリと笑った。

『キミに会うのは300年振りだね。でも、勝手に出てきちゃ駄目だろう。悪い子だねぇ……ルーイ?』

 このねっとりとした、いやらしい話し方は……

「おかみ……いや、リフィニティ様。お久しぶりです」

 俺は微かに震える唇で、当分の間会うことは無いと思っていた、上司の名を口にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと
恋愛
愛娘にしか興味ない冷血の皇帝のお話。 小説家になろう様でも掲載しております。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来
恋愛
ルーシュ・サウザント・ドラゴニアは公爵家の第8子だった。 武で名をはせたドラゴニア家には上に7人の姉。 待望の男児が生まれなかったドラゴニア公爵はルーシュを男児として育てる。 男として育てられたルーシュは剣と魔法の才能を発揮し12歳にして国家聖騎士団の一員となり功績を積むが、父より届いた手紙で全てを失う。 『待望の男児が生まれたから明日から女として生きろ』 こうしてルーシュは神殿仕えの身となって聖女の侍女となった。 ウザい聖女に絡まれながらもルーシュは今日も侍女としても務めを果たす。 侍女として働く一方で魔獣の王都侵入を防いだり、曲者の親友が家出してきたせいで何故か大帝国の王子に見初められたりと第2の人生は波乱万丈だった。 ※聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~とリンクしています。 ※ちょっぴり題名変えました。  カテゴリ【恋愛】に変えました。  ファンタジーだけど恋愛が中心になってきてしまったので(;^ω^)

お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。  初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。 それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。 時はアンバー女王の時代。 アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。 どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。 なぜなら、ローズウッドだけが 自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。 ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。 アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。 なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。 ローズウッドは、現在14才。 誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。 ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。 ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。 その石はストーン国からしか採れない。 そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。 しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。 しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。 そして。 異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。 ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。 ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。  

《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!

皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

処理中です...