リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき

文字の大きさ
78 / 294

77話 採用

しおりを挟む
 昼食の準備をあらかた終え、俺は軽く店内の掃除をしていた。クレハ様がお気に入りの窓際奥の席……この場所は特に念入りに掃除をしてしまう。こういった所に差を付けるべきではないのだけど、多少の贔屓は許して欲しい。そんな事を考えながら、テーブルと椅子を磨いていると……背後から僅かに人の気配を感じた。作業をする手を止め、静かに振り返る。

「お待ちしておりました、レオン様」

 バックヤードへ繋がる扉の無いアーチ状の入り口……そこに、もたれかかるようにして金髪の少年が立っていた。我が主、レオン様だ。

「やあ、セドリック。手紙に書いた俺のお願いは叶えて貰えたのかな?」

 レオン様は預けていた体を起こすと、こちらに向かって歩き出す。装飾を抑えたお召物に腰に携えた剣。レオン様が外出する時の基本スタイルだ。供を同行させず、好き勝手出歩く方なので、その奔放さに周囲は振り回され気味である。

「もちろんです。ルーイ先生は、お部屋でお待ちですよ。すぐにお呼び致しましょう」

「先生との生活はどうだ、上手くやれているか?」

「現状、問題無しと言った所でしょうか。先生は我々に対しても気さくに接して下さいますので、必要以上に気負わなくて良いのは、非常に助かっております」

 今日レオン様がいらしたのは、俺達の様子を見にくる為だったのだろうか。一応書面で報告はしていたのだが……今更ではあるけど、俺に丸投げしたことを少しは悪いと思っていらっしゃったのかな。

「あの、レオン様。本日は先生と一緒にお食事をされるそうですが……こちらに何か気がかりなことでも?」

「いや、お前と先生に関しては特に心配していない。報告もきちんと受けていたしな。今日訪れたのは別件だ」

 ですよねー……いや、分かってましたけどね。でも、本音としてはもうちょっと気にかけて欲しいんですよ。レオン様のせいで、俺は神さまと同居してるんですからね……

「……不満気な顔だな、セドリック」

「いーえ。それで、そのご用件とは? もしかして、クレハ様に何か……」

「違うよ、クレハは元気だ。フィオナ嬢の事も伝えた」

「……とうとう、お話しされたのですね」

「包み隠さずという訳にはいかなかったけどな。聞いた直後は多少取り乱したが、今は落ち着いている。自分なりに姉の状態を分析して、納得したようだけど……解決には時間がかかりそうだ」

 明後日、クレハ様はご実家へ一時帰宅される。そうなると、もう隠しておくことはできない。フィオナ様がお屋敷に不在の理由くらいは説明しておかないと……レオン様もさぞ苦心なさったことだろう。

「その話はまた後日……ミシェルの報告を受けてからにしよう。そろそろ腹も減ったしな。先生をお呼びして、昼食にしようか」

「はい。では、配膳に取り掛からせて頂きます」

「場所はここでいい。このテーブルに用意してくれ」

「かしこまりました」

 場所は応接室を希望されると思っていた。しかし、予想に反してレオン様は店内で食事をすると言う。窓のカーテンは閉められていて、外からは見えないので問題は無いが……。指定された席は『クレハ様のお気に入り』……こんな細かい所でまで、クレハ様の存在を感じていたいのか……この方は。

「話し声がすると思ったら……レオン来てるじゃん」

 レオン様と同じく、バックヤードへ通じる入り口からひょっこりと顔を出したのはルーイ先生。呼びに行く手間が省けたな。

「ご機嫌よう、ルーイ先生。申し訳ありません、突然に……先生っ! その髪……」

 先生と顔を合わせたレオン様は、即座に彼の短くなった髪の毛に気が付いた。それなりに驚いたようで、声が幾分か上擦っている。先生は待っていましたとばかりに、散髪の理由を語る。

「似合うでしょ。俺、仕事しようと思ってさ。思い切って短くしたんだ」

「仕事?」

 レオン様は先生から俺の方へ視線を移す。その顔には『聞いてないぞ、説明しろ』と書いてある。そんな顔されても……俺だって昨日、いきなり宣言されたんですけどね……












「働くなんておっしゃるから何事かと……うちの店を手伝うという意味だったのですね。分かりました、先生のお好きなようになさって下さい」

「レオン様!?」

「やったー! レオンは話分かるねぇ」

 レオン様に促され、おふたりはテーブルに向かい合わせで着席した。その後、詳しく事情を聞いた主の言葉に驚愕する。絶対反対なさると思っていたのに……レオン様は先生が働くことに肯定的なようだ。いいのか、神さまだぞ。

「実は、おもだって店を手伝ってくれていた部下を王宮へ……クレハの護衛に配属してしまったんです。その関係で、今までのように気軽にこちらへ来れなくなってしまいました」

「つまり、店は人手不足?」

「ええ。求人をかけても良いのですが、うちの店は少々特殊なので……。内部事情を把握していらっしゃる先生が手伝って下さるのなら、下手に一般人を雇うより安心です。何より、先生はセドリックとも気が合うようですしね」

「セディ、聞いた? お前のご主人様がOKなら問題無いね」

「レオン様、本当によろしいのですか……先生は神なんですよ」

「よろしいも何も……その神ご本人がやると言ってるんだぞ。それに、先生は神様休業中だからな。退屈していらっしゃるんだろう」

 先生はレオン様の言葉に頷いている。またしても俺に全部押し付ける気ですね。とは言え、店が人員不足なのは事実……そして先生は、他の従業員や馴染み客とも交流を深めつつあるし、対人スキルが高い。接客に向いているのではないか? いや、しかしなぁ……

「ですが、先生……恐れながらこれだけは事前に言わせて頂きます。うちの店を本業の片手間にやっている適当なものだと思わないで下さい。決して手を抜かず、店の一員として真摯に仕事に取り組んで頂きたい」

「当然。見ただろ、この髪。気合いとやる気は十分だよ」

 短くなった髪の毛を指で摘んで引っ張りながら、先生は不敵に笑う。

「それでしたら、これ以上ローレンス……オーナーとして言うことは何もございません。よろしくお願い致します」

 俺の意見は無視され、先生の採用が決定する。俺と先生の関係……『同居人』に更に『仕事仲間』が加わってしまった。

「セドリック、引き続き先生のことは頼んだぞ」

「よろしくねー、セディ」

 この感じ……10日前と同じだ。あの時も俺を置き去りにして、先生との同居が決められていたのだった。俺の中で何かが吹っ切れた。

「あー!! もうっ、分かりましたよ。でも、仕事に関しては手加減致しませんからね! 神様であろうがビシビシ指導させて頂きます!!」
 
「やだ……セディ激しい。俺、体力もつかなぁ」

「手始めに料理の運び方からです。よく見ていて下さいね」

「ふっ、くっ……セドリック、意気込むのはいいが、先生への指導は明日からでいいんじゃないかな。今日は俺との会話に集中して頂きたいからね」

「そ、そうですね! 申し訳ありません。では、先生……明日から、よろしくお願い致します」

 そう言い残し、俺はおふたりが座る席から離れた。そういえば、まだレオン様がこちらにいらした理由も聞いていなかったな。レオン様は笑っていた。変に先走り、主を呆れさせてしまった……不覚。慣れたと思っていたが、自分はまだまだ先生に翻弄されている。俺は気まずさを振り切るように、早足はやあしで厨房に向かうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!

皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!

男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来
恋愛
ルーシュ・サウザント・ドラゴニアは公爵家の第8子だった。 武で名をはせたドラゴニア家には上に7人の姉。 待望の男児が生まれなかったドラゴニア公爵はルーシュを男児として育てる。 男として育てられたルーシュは剣と魔法の才能を発揮し12歳にして国家聖騎士団の一員となり功績を積むが、父より届いた手紙で全てを失う。 『待望の男児が生まれたから明日から女として生きろ』 こうしてルーシュは神殿仕えの身となって聖女の侍女となった。 ウザい聖女に絡まれながらもルーシュは今日も侍女としても務めを果たす。 侍女として働く一方で魔獣の王都侵入を防いだり、曲者の親友が家出してきたせいで何故か大帝国の王子に見初められたりと第2の人生は波乱万丈だった。 ※聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~とリンクしています。 ※ちょっぴり題名変えました。  カテゴリ【恋愛】に変えました。  ファンタジーだけど恋愛が中心になってきてしまったので(;^ω^)

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと
恋愛
愛娘にしか興味ない冷血の皇帝のお話。 小説家になろう様でも掲載しております。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

処理中です...