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78話 空の……(1)
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「セディから聞いてはいたけどさ……ほんと、よく食うね」
その後、予定通り昼食を共にするレオン様とルーイ先生。俺は給仕をしながらその様子を見守っていた。おふたりは、ぽつぽつと雑談をしながら料理を口に運んでいる。先生はレオン様の食べっぷりを実際に目の当たりにして、驚きを隠せないようだ。大量に用意していたサンドウィッチは、もう半分近く無くなっている。その大半はレオン様が食された。毎度の事ながら、その体のどこに入っていくのだろうと不思議になる。
「レオンって結構豪放だよね。そんないかにもお上品ですって感じのなりしてるくせに」
「すみません、不快でしたか?」
「いんや、ちょっと驚いただけだよ。俺も堅苦しいのは嫌いだから、むしろ歓迎。育ち盛りのお子様は、食べれる時に好きなだけ食べたらいいさ」
決してレオン様のマナーが悪いとか、食べ方が汚いとかではない。けれど、サンドウィッチを手掴みで大口を開けて頬張る主の姿は、食べる量の多さも輪をかけてインパクトがある。もし店内に客がいたら、おふたりが座っているテーブルは注目の的だっただろうな。
「それで、俺に話って何? 言っとくけど、クレハの惚気なら聞かねーぞ」
ご自身とクレハ様の関係を突かれるのは、本当にうんざりしてるんだな。先生は先手を打った。
「違いますよ、至って真面目な話です。セドリックも一緒に聞いておいてくれるか?」
「はい」
レオン様は俺にも会話に参加するよう命じると、懐に手を差し入れた。そこから取り出されたのは、折り畳まれたハンカチだ。それを手の平に乗せ、慎重に開いていく。
「これについて……先生にご意見を賜りたく存じます」
「何だこりゃ」
「蝶ですね……」
蝶の形に切り取られた薄くて白い紙。これだけでは何がなんだかさっぱりだけれど、レオン様は蝶の詳細を語り出した。
「クレハの警護に就かせた部下が発見しました。今でこそただの紙切れですが、発見当時は黄色の光を纏いながら、まるで本物の蝶のように空中を浮遊していたそうです。王宮内で見つかったのはこの1匹だけで、具体的に何かあったという事は無いのですが、少々不気味でして……先生なら正体をご存知ではないかと」
「ふーん……ちょっと見せて」
「どうぞ」
先生は蝶を受け取ると、それを指で摘み上げ自身の目の高さまで持っていく。至近距離で凝視しながらひっくり返したり、質感を確かめるように指で擦ったりしている。
「ちなみにレオン君の見解は?」
「俺が最初に思ったのは、クレハの魔法です。蝶がいたのも彼女の近くだったので。しかし、本人に直接確認しましたところ、あっさりと否定されてしまいました。それに……光の色が違う」
「今のあいつなら、この蝶を浮かせるくらい簡単だろうね。でも、クレハの魔力光は白……蝶が黄色く発光していたのならクレハの力ではないな。あっ! 見せてやれなくて残念だけど、俺は緑色だよ」
ディセンシア家の人間はメーアレクト様から力を受け継いでいる。そこは同じなのに、発する光の色は個々に違う。レオン様が雷や水を扱うのに長けているのに対して、クレハ様は風を操る……そんな所にも個人差が出るのは面白い。
「そして、次に関係あるのではと思ったのは、ルーイ先生……あなたです」
「えぇっ!? 俺?」
「先生というか、先生のお知り合いの方ではないかと。あなたの上司だという神が王宮に現れたのは、10日ほど前のことです。警戒するのは当然でしょう?」
「……絶対に無いとは言い切れんけど、可能性は低いよ。お上はそこまでアクティブじゃない。それに、何か事を起こすなら、真っ先に俺のとこだろう」
先生は悲愴感の漂う暗い顔で俯いた。上司って何だ……まだ上がいるのか。しかし、先生の表情からして、手放しで歓迎できる方ではないようだ。後でレオン様から詳しく聞こう。
「最後に、クレハや神々の仕業でないのなら……後は」
「外部の……他国の人間によるものですね」
「そう。俺が知る限り、うちの血縁で紙の蝶を空中で自在に操るような力を保持しているのは、クレハだけだからな。そうなると、外から来た人間の関与を疑わざるを得ない」
指先で蝶をいじりながら、先生は話を聞いている。レオン様は、この不思議な蝶の正体を明らかにする為に、先生を訪ねて来られたのだな。
「どうでしょうか、ルーイ先生。色々な可能性を考えてはみたのですが、俺の乏しい知識では答えを導き出すに至っていません。先生のお力を拝借したいのです。その蝶の出どころ……俺に教えて頂けませんか?」
「そうねぇ……残念だけど、今の俺には蝶の持ち主を特定することは難しいね」
先生は蝶をレオン様に返すと、ティーカップに手を伸ばした。カップの中の紅茶を一口啜る。
「でも、ある程度当たりをつけてやる事はできる。お前達には世話になってるし……ひとつ協力してやろうじゃないか」
『先生らしくな』と彼はにこやかに微笑んだ。そして、カップを持っている手とは反対側の手で、天井付近にある明り取りの窓を指差した。
「まず、その蝶だけどさ……それ紙じゃないよ。『フラウム』っていう木の葉っぱだ。光に翳して透かしてみな。薄く葉脈が見えるはずだ」
レオン様は弾かれたように、手元の蝶を天井に向けた。俺も側に駆け寄り、一緒に下から覗き込む。すると、蝶の表面に網目状に張り巡った、いくつもの筋が確認できた。
「全く気付かなかった……ただの白い紙だとばかり」
「元の葉は可愛いハート形で、大人の手の平くらいのサイズなんだけどね。お前達が分からないのも無理ないよ。コスタビューテに『フラウム』はないしね。この木があるのは、世界に一か所だけだ」
「一か所……どこなんですか? それは……」
「ニュアージュの『ジェナシティ』だよ」
「ニュアージュって……」
「メーアレクト様と同じ……三神がひとり、天空の支配者『シエルレクト』が住まう土地ですね」
レオン様はやはりというか、どこか納得したような顔で呟いた。
その後、予定通り昼食を共にするレオン様とルーイ先生。俺は給仕をしながらその様子を見守っていた。おふたりは、ぽつぽつと雑談をしながら料理を口に運んでいる。先生はレオン様の食べっぷりを実際に目の当たりにして、驚きを隠せないようだ。大量に用意していたサンドウィッチは、もう半分近く無くなっている。その大半はレオン様が食された。毎度の事ながら、その体のどこに入っていくのだろうと不思議になる。
「レオンって結構豪放だよね。そんないかにもお上品ですって感じのなりしてるくせに」
「すみません、不快でしたか?」
「いんや、ちょっと驚いただけだよ。俺も堅苦しいのは嫌いだから、むしろ歓迎。育ち盛りのお子様は、食べれる時に好きなだけ食べたらいいさ」
決してレオン様のマナーが悪いとか、食べ方が汚いとかではない。けれど、サンドウィッチを手掴みで大口を開けて頬張る主の姿は、食べる量の多さも輪をかけてインパクトがある。もし店内に客がいたら、おふたりが座っているテーブルは注目の的だっただろうな。
「それで、俺に話って何? 言っとくけど、クレハの惚気なら聞かねーぞ」
ご自身とクレハ様の関係を突かれるのは、本当にうんざりしてるんだな。先生は先手を打った。
「違いますよ、至って真面目な話です。セドリックも一緒に聞いておいてくれるか?」
「はい」
レオン様は俺にも会話に参加するよう命じると、懐に手を差し入れた。そこから取り出されたのは、折り畳まれたハンカチだ。それを手の平に乗せ、慎重に開いていく。
「これについて……先生にご意見を賜りたく存じます」
「何だこりゃ」
「蝶ですね……」
蝶の形に切り取られた薄くて白い紙。これだけでは何がなんだかさっぱりだけれど、レオン様は蝶の詳細を語り出した。
「クレハの警護に就かせた部下が発見しました。今でこそただの紙切れですが、発見当時は黄色の光を纏いながら、まるで本物の蝶のように空中を浮遊していたそうです。王宮内で見つかったのはこの1匹だけで、具体的に何かあったという事は無いのですが、少々不気味でして……先生なら正体をご存知ではないかと」
「ふーん……ちょっと見せて」
「どうぞ」
先生は蝶を受け取ると、それを指で摘み上げ自身の目の高さまで持っていく。至近距離で凝視しながらひっくり返したり、質感を確かめるように指で擦ったりしている。
「ちなみにレオン君の見解は?」
「俺が最初に思ったのは、クレハの魔法です。蝶がいたのも彼女の近くだったので。しかし、本人に直接確認しましたところ、あっさりと否定されてしまいました。それに……光の色が違う」
「今のあいつなら、この蝶を浮かせるくらい簡単だろうね。でも、クレハの魔力光は白……蝶が黄色く発光していたのならクレハの力ではないな。あっ! 見せてやれなくて残念だけど、俺は緑色だよ」
ディセンシア家の人間はメーアレクト様から力を受け継いでいる。そこは同じなのに、発する光の色は個々に違う。レオン様が雷や水を扱うのに長けているのに対して、クレハ様は風を操る……そんな所にも個人差が出るのは面白い。
「そして、次に関係あるのではと思ったのは、ルーイ先生……あなたです」
「えぇっ!? 俺?」
「先生というか、先生のお知り合いの方ではないかと。あなたの上司だという神が王宮に現れたのは、10日ほど前のことです。警戒するのは当然でしょう?」
「……絶対に無いとは言い切れんけど、可能性は低いよ。お上はそこまでアクティブじゃない。それに、何か事を起こすなら、真っ先に俺のとこだろう」
先生は悲愴感の漂う暗い顔で俯いた。上司って何だ……まだ上がいるのか。しかし、先生の表情からして、手放しで歓迎できる方ではないようだ。後でレオン様から詳しく聞こう。
「最後に、クレハや神々の仕業でないのなら……後は」
「外部の……他国の人間によるものですね」
「そう。俺が知る限り、うちの血縁で紙の蝶を空中で自在に操るような力を保持しているのは、クレハだけだからな。そうなると、外から来た人間の関与を疑わざるを得ない」
指先で蝶をいじりながら、先生は話を聞いている。レオン様は、この不思議な蝶の正体を明らかにする為に、先生を訪ねて来られたのだな。
「どうでしょうか、ルーイ先生。色々な可能性を考えてはみたのですが、俺の乏しい知識では答えを導き出すに至っていません。先生のお力を拝借したいのです。その蝶の出どころ……俺に教えて頂けませんか?」
「そうねぇ……残念だけど、今の俺には蝶の持ち主を特定することは難しいね」
先生は蝶をレオン様に返すと、ティーカップに手を伸ばした。カップの中の紅茶を一口啜る。
「でも、ある程度当たりをつけてやる事はできる。お前達には世話になってるし……ひとつ協力してやろうじゃないか」
『先生らしくな』と彼はにこやかに微笑んだ。そして、カップを持っている手とは反対側の手で、天井付近にある明り取りの窓を指差した。
「まず、その蝶だけどさ……それ紙じゃないよ。『フラウム』っていう木の葉っぱだ。光に翳して透かしてみな。薄く葉脈が見えるはずだ」
レオン様は弾かれたように、手元の蝶を天井に向けた。俺も側に駆け寄り、一緒に下から覗き込む。すると、蝶の表面に網目状に張り巡った、いくつもの筋が確認できた。
「全く気付かなかった……ただの白い紙だとばかり」
「元の葉は可愛いハート形で、大人の手の平くらいのサイズなんだけどね。お前達が分からないのも無理ないよ。コスタビューテに『フラウム』はないしね。この木があるのは、世界に一か所だけだ」
「一か所……どこなんですか? それは……」
「ニュアージュの『ジェナシティ』だよ」
「ニュアージュって……」
「メーアレクト様と同じ……三神がひとり、天空の支配者『シエルレクト』が住まう土地ですね」
レオン様はやはりというか、どこか納得したような顔で呟いた。
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