173 / 294
172話 同類
しおりを挟む
「びっくりしたぁ……」
「みんなの熱量凄かったね。私もびっくりしちゃった」
女性使用人達からの質問タイムをなんとか切り抜け、私とカレンは中庭に向かっていた。ジェフェリーさんにお屋敷に飾るお花を分けて貰うためだ。せっかく戻ってきたのだから、数日くらいゆっくりしていたらとモニカさん達にも気遣われたけれど、生憎とそうはいかない。私にとってはここからが本番なのだから。可能な限り普段通りに行動して、さり気なく……怪しまれずに情報を集めるのだ。
花を貰ってくるよう頼まれたのはカレンだったけれど、それに付き添いがてらジェフェリーさんに挨拶をするのはどこもおかしくはない。私だってジェフェリーさんとは親しくしている。お屋敷に帰っているというのに、全く顔を見せない方が不自然だ。これくらいは大丈夫……だと思う。思うけれど……でも、やっぱりまずはミシェルさん達と合流して指示を仰いだ方がいいのかな。素人判断で勝手な事をしたらまずいかも。すでに中庭に向かって歩を進めていながらも、頭の中はごちゃごちゃと迷っていた。考えごとに没頭していた私を引き戻すように、カレンが話しかけてくる。
「そんなに素敵なんだね。その先生と護衛の人って」
「ルーイ先生とセドリックさん? そりゃもう」
「私はまだお会いしていないの。ちょっとだけ見てみたいかも」
カレンもやはり女の子……格好良い男性と言われたら気になってしまうようだ。あれだけ皆が騒いでいるのだから興味を引かれてしまうのは仕方ないよね。
王宮にはおふたりの他にも素敵な殿方がたくさんいること。特にレオン殿下周辺がこれでもかというほど美形揃いなんだと教えてあげた。
「王太子殿下もとても聡明で綺麗な方って聞いたことあるよ。確か、ルーイ先生は王家と親戚だって言ってたよね。おふたりは似てるの?」
「そうだなぁ……雰囲気は似てるかも。でも顔はそこまででもないかな。どっちも美形だけどね。王宮でキラキラした方達を見過ぎて、私の目はもうしょぼしょぼになっちゃった。まだ全然慣れないの」
「ふふっ、なにそれー。リズ面白い」
とりとめのない会話をしながら、私とカレンはお屋敷の廊下を歩いていく。ミシェルさんはどこにいるのかな。もうすぐ中庭に着いてしまうのに。私はいまだ迷っていた。
「でも、王太子様の先生がどうして突然ジェムラート家のお屋敷に? 公女様のお使いで戻ってきたリズとは別の理由なんでしょ」
「ルーイ先生はね、魔法について調べているの」
「魔法?」
「うん。少し前の話なんだけど、ジェムラートのお屋敷の近くで、外国から来た魔法使いが目撃されたんだって。使用人の中にも見た人がいるかもしれないでしょ? だからみんなに話を聞くために私達に付いてきたそうよ」
事前に打ち合わせをしていた先生の訪問理由。完全に嘘というわけでもないので、動揺することなくすらすらと言うことができた。
「……先生はその魔法使いを探しているの? なぜ? 見つけてどうするの? 少し前っていつ頃?」
カレンは歩みを止めて私を凝視した。さっきまでにこやかに会話をしていた彼女と同じ人とは思えない。鋭い目付き……瞳孔が完全に開いている。
「なぜって……魔法使いは珍しいから。それも外国の魔法使いだなんて、見れる機会そう巡ってはこないだろうし……。よその国のことを学ぶためにも必要だと思われたんじゃないかな。えっと……たしか半年くらい前」
怖い。カレンの刺すような視線に恐怖で身がすくんでしまう。私はその場から動けなくなってしまった。しかし、途切れ途切れになりながらも必死に会話を続ける。
「どっ、どうしたの? カレン。私、なにかあなたの気に触るようなことを言っちゃったのかな」
「ううん、なーんにも。驚かせてごめんね。私もその外国の魔法使いさんが気になって……前のめりになり過ぎちゃった」
「そう……なんだ。急に怖い顔で見つめてくるから、知らないうちに何かしたのかと思った」
『失敗、失敗』なんて言いながら、ちゃらけてみせるカレン。さっきまでのひりつくような緊張感は無くなっていた。
カレンのように、別人ではないかと錯覚をしてしまうくらい突然雰囲気が変わる人を……私は何度か見たことがあった。それは、セドリックさんやミシェルさんを始めとした『とまり木』の方達だ。
普段は温厚でとても優しい。しかし、彼らが時折見せる射抜くような鋭い視線……凄みを利かせた表情に、幾度となく心臓が縮み上がりそうになった。そして、ひと度剣を握れば、相手がどんな得体の知れない化け物であろうが勇猛果敢に挑んでいくのだ。そう……全ては彼らが主と仰ぐレオン殿下のために――――
彼らは常日頃から訓練をして鍛えられた軍人。更に『とまり木』の面々は、その中でも選りすぐりの精鋭だと聞いた。その辺の一般人とは違うのだ。
「リズ、早くお花貰いに行こう」
「うん」
カレンは私よりちょっぴり背が高くて……歳は4つ上の13歳。最初に会った時はおどおどして大人しそうな子って感じだった。でも徐々に慣れていき、向こうからも話をしてくれるようになった。柔らかく微笑みながら私の手を引いてくるカレンは、どう見ても普通の女の子。
だからきっと……私の考え過ぎなんだ。
さっきのカレンの様子が……醸し出す空気が……『とまり木』の方達と被って見えたなんて。
「みんなの熱量凄かったね。私もびっくりしちゃった」
女性使用人達からの質問タイムをなんとか切り抜け、私とカレンは中庭に向かっていた。ジェフェリーさんにお屋敷に飾るお花を分けて貰うためだ。せっかく戻ってきたのだから、数日くらいゆっくりしていたらとモニカさん達にも気遣われたけれど、生憎とそうはいかない。私にとってはここからが本番なのだから。可能な限り普段通りに行動して、さり気なく……怪しまれずに情報を集めるのだ。
花を貰ってくるよう頼まれたのはカレンだったけれど、それに付き添いがてらジェフェリーさんに挨拶をするのはどこもおかしくはない。私だってジェフェリーさんとは親しくしている。お屋敷に帰っているというのに、全く顔を見せない方が不自然だ。これくらいは大丈夫……だと思う。思うけれど……でも、やっぱりまずはミシェルさん達と合流して指示を仰いだ方がいいのかな。素人判断で勝手な事をしたらまずいかも。すでに中庭に向かって歩を進めていながらも、頭の中はごちゃごちゃと迷っていた。考えごとに没頭していた私を引き戻すように、カレンが話しかけてくる。
「そんなに素敵なんだね。その先生と護衛の人って」
「ルーイ先生とセドリックさん? そりゃもう」
「私はまだお会いしていないの。ちょっとだけ見てみたいかも」
カレンもやはり女の子……格好良い男性と言われたら気になってしまうようだ。あれだけ皆が騒いでいるのだから興味を引かれてしまうのは仕方ないよね。
王宮にはおふたりの他にも素敵な殿方がたくさんいること。特にレオン殿下周辺がこれでもかというほど美形揃いなんだと教えてあげた。
「王太子殿下もとても聡明で綺麗な方って聞いたことあるよ。確か、ルーイ先生は王家と親戚だって言ってたよね。おふたりは似てるの?」
「そうだなぁ……雰囲気は似てるかも。でも顔はそこまででもないかな。どっちも美形だけどね。王宮でキラキラした方達を見過ぎて、私の目はもうしょぼしょぼになっちゃった。まだ全然慣れないの」
「ふふっ、なにそれー。リズ面白い」
とりとめのない会話をしながら、私とカレンはお屋敷の廊下を歩いていく。ミシェルさんはどこにいるのかな。もうすぐ中庭に着いてしまうのに。私はいまだ迷っていた。
「でも、王太子様の先生がどうして突然ジェムラート家のお屋敷に? 公女様のお使いで戻ってきたリズとは別の理由なんでしょ」
「ルーイ先生はね、魔法について調べているの」
「魔法?」
「うん。少し前の話なんだけど、ジェムラートのお屋敷の近くで、外国から来た魔法使いが目撃されたんだって。使用人の中にも見た人がいるかもしれないでしょ? だからみんなに話を聞くために私達に付いてきたそうよ」
事前に打ち合わせをしていた先生の訪問理由。完全に嘘というわけでもないので、動揺することなくすらすらと言うことができた。
「……先生はその魔法使いを探しているの? なぜ? 見つけてどうするの? 少し前っていつ頃?」
カレンは歩みを止めて私を凝視した。さっきまでにこやかに会話をしていた彼女と同じ人とは思えない。鋭い目付き……瞳孔が完全に開いている。
「なぜって……魔法使いは珍しいから。それも外国の魔法使いだなんて、見れる機会そう巡ってはこないだろうし……。よその国のことを学ぶためにも必要だと思われたんじゃないかな。えっと……たしか半年くらい前」
怖い。カレンの刺すような視線に恐怖で身がすくんでしまう。私はその場から動けなくなってしまった。しかし、途切れ途切れになりながらも必死に会話を続ける。
「どっ、どうしたの? カレン。私、なにかあなたの気に触るようなことを言っちゃったのかな」
「ううん、なーんにも。驚かせてごめんね。私もその外国の魔法使いさんが気になって……前のめりになり過ぎちゃった」
「そう……なんだ。急に怖い顔で見つめてくるから、知らないうちに何かしたのかと思った」
『失敗、失敗』なんて言いながら、ちゃらけてみせるカレン。さっきまでのひりつくような緊張感は無くなっていた。
カレンのように、別人ではないかと錯覚をしてしまうくらい突然雰囲気が変わる人を……私は何度か見たことがあった。それは、セドリックさんやミシェルさんを始めとした『とまり木』の方達だ。
普段は温厚でとても優しい。しかし、彼らが時折見せる射抜くような鋭い視線……凄みを利かせた表情に、幾度となく心臓が縮み上がりそうになった。そして、ひと度剣を握れば、相手がどんな得体の知れない化け物であろうが勇猛果敢に挑んでいくのだ。そう……全ては彼らが主と仰ぐレオン殿下のために――――
彼らは常日頃から訓練をして鍛えられた軍人。更に『とまり木』の面々は、その中でも選りすぐりの精鋭だと聞いた。その辺の一般人とは違うのだ。
「リズ、早くお花貰いに行こう」
「うん」
カレンは私よりちょっぴり背が高くて……歳は4つ上の13歳。最初に会った時はおどおどして大人しそうな子って感じだった。でも徐々に慣れていき、向こうからも話をしてくれるようになった。柔らかく微笑みながら私の手を引いてくるカレンは、どう見ても普通の女の子。
だからきっと……私の考え過ぎなんだ。
さっきのカレンの様子が……醸し出す空気が……『とまり木』の方達と被って見えたなんて。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます
りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。
初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。
それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。
時はアンバー女王の時代。
アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。
どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。
なぜなら、ローズウッドだけが
自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。
ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。
アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。
なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。
ローズウッドは、現在14才。
誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。
ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。
ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。
その石はストーン国からしか採れない。
そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。
しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。
しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。
そして。
異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。
ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。
ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる