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189話 報告書(1)
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「ボスー! 姫さんをお連れしましたよっと」
ルイスさんはノックもそこそこに、勢いよく扉を開け放った。王太子殿下のお部屋にこんなワイルドに入室する臣下は彼くらいではないだろうか。さっきまでの物々しい雰囲気はすっかりなりを潜めて、いつものルイスさんって感じだ。
「おい、ルイス。もっと静かに入ってこれないのか。殿下のお部屋だぞ」
「お待ちしておりました。クレハ様」
「クライヴさん、それにレナードさんも……」
部屋の中には『とまり木』の隊員であるクライヴさんとレナードさんがいた。彼らもレオンの命令で呼び出されたのだろう。部屋全体に視線を巡らす。おふたりの他には誰もいない。レオンはどこにいるのだろうか。
「殿下はジェラール陛下とのお話しが終わり次第いらっしゃいます。こちらにお掛けになっていて下さい」
私の内心を見透かしたように、クライヴさんがレオンがいない理由を教えてくれた。ソファに座って待っているよう勧められたので、ありがたくそうさせて頂こう。
「クレハ様。ルイスから聞かれたと思いますが、ジェムラート邸へ調査に行ったセドリックさんから報告書が送られて来ました」
「はい……」
今度はレナードさんが簡単に状況説明をしてくれる。レオンはエリスから報告書を受け取って目を通すと、すぐに陛下の元へ向かったらしい。レナードさん達にはこの部屋での待機……そして、私を連れてくるよう命じたのだと。
「私は殿下が報告書を確認された場に居合わせたのですが、あのご様子だと……なかなかに衝撃的なことが記されていたのだと推察致します。我々もいくらか心の準備をしておく必要がありそうですね」
心の準備……どんな内容であろうと冷静に受け止めてみせると言い切ってしまったのに、もうその決心が揺らぎそうになっている。緊張と不安で心臓がバクバクする。報告書には何と書いてあったのだろうか。話を聞くのが更に怖くなってきてしまった。膝の上に乗せた手が少し震えている。
「クレハ様……私達がついております。どうかお気を強く持って下さい」
朱色の優しい瞳が私を見つめていた。クライヴさんとルイスさんも気遣わしげにこちらの様子を伺っている。大きく息を吸って吐きだす。呼吸を整えて動悸が治まるのを待った。
「はい。ありがとうございます」
私には側で支えてくれる心強い味方がいる。決してひとりではない。ルイスさんの言葉を心の中で繰り返した。私は大丈夫――
体の震えはいつの間にか消えていた。
レオンが戻ってきたのは、私が彼の部屋を訪れてから30分後くらいだった。報告書の内容に動揺していたと聞いたのに、目の前にいる彼からはそんな印象は受けなかった。時間が経って冷静になったのだろうか。
「待たせてすまない。クレハも来てくれてありがとう」
私と向かい側のソファにレオンは腰を下ろした。いつもなら無理やりにでも隣に座ってくるのに……
この僅かな違い。彼が私と正面から向き合って大切な話をしようとしているのだと感じ取り背筋が伸びた。
「クレハはとても緊張しているね。呼び出した側が言うのもどうかと思うけど、このまま話をしても平気かな?」
「あのさ、ボス。とりあえず良い報せか悪い報せかだけでもさくっと教えてくれない? 姫さんに伝えるって決めたんだよね。俺も最初は心配だったけど、姫さんは俺達が思っているよりずっと強い。あまり引き延ばさない方がいいよ」
「ルイスさんっ……!?」
確かにこの重苦しい感じがずっと続くのもつらいですけど。さすがルイスさん……相手がレオンでもお構いなしにはっきりと物を言う。
「……そうだな、ルイスの言う通りだ。中断させてごめんね、クレハ。話を続けよう」
「はい」
レオンは自身の懐に手を伸ばした。そこから取り出されたのは四つ折りにされた紙。きっとこれがセドリックさんの報告書だ。
「それでは、できるだけ手短かに話す。先刻セドリックからジェムラート邸での調査報告が届いた。皆に集まって貰ったのは、その内容を踏まえた上でこれからすべきことを話し合うためだ」
折り畳まれた報告書を開きながら、レオンは先ほど投げかけられたルイスさんの問いに答えた。
「良いか悪いか……あくまでこの報告書から読み取れる範囲で判断するならば、決して良いとはいえないな」
もしかしたらと考えてはいた。しかし、レオンの口からはっきりと告げられることのショックは想像以上に大きかった。
「でも、良い報せだってある。クレハが1番気掛かりにしているであろうジェフェリーさんだけど、彼に対しての嫌疑はほぼ晴れたと言っていい」
「ほ、本当ですか!? レオン」
「うん。報告書にはそう書かれてるよ。ジェフェリー・バラードは問題ない。シロだろうって」
「……良かった」
強張っていた体から一気に力が抜けた。ソファに倒れ込みそうになってしまったけれど、横にいたレナードさんがすぐさま支えてくれる。そのおかげで何とか姿勢を維持することができた。
「ということは……ジェムラート邸にいた魔法使いの正体が明らかになったという事でしょうか?」
私を介抱しながらレナードさんは冷静にレオンに質問をする。そうか、ジェフェリーさんと例の魔法使いの間に何があったのか判明したってことになる……
「ああ、大まかにだけどな。まさかこの短期間でここまで新しい情報が出てくるとは思わなかったよ」
ジェフェリーさんが無実だと分かっただけでも、私の心にずっしりとのしかかっていた重りのような物が無くなっていく。しかし、総合的に見て良くないと判断された報告書の中身だ。これからどんな内容が出てくるのかと考えたら、浮かれてはいられない。
「出来ればこのまま良い報せだけを聞いていたいのですが……そういうわけにはいきませんよね」
「残念だな、クライヴ。これから先は頭を悩ませるような話ばかりだぞ」
私を少しでも安心させるために、ジェフェリーさんの事を最初に教えてくれたのか。一体私の家で何が起きているのだろうか。お父様たちや調査に行ったみんなが危ない目にあっていなければ良いのだけど……
ルイスさんはノックもそこそこに、勢いよく扉を開け放った。王太子殿下のお部屋にこんなワイルドに入室する臣下は彼くらいではないだろうか。さっきまでの物々しい雰囲気はすっかりなりを潜めて、いつものルイスさんって感じだ。
「おい、ルイス。もっと静かに入ってこれないのか。殿下のお部屋だぞ」
「お待ちしておりました。クレハ様」
「クライヴさん、それにレナードさんも……」
部屋の中には『とまり木』の隊員であるクライヴさんとレナードさんがいた。彼らもレオンの命令で呼び出されたのだろう。部屋全体に視線を巡らす。おふたりの他には誰もいない。レオンはどこにいるのだろうか。
「殿下はジェラール陛下とのお話しが終わり次第いらっしゃいます。こちらにお掛けになっていて下さい」
私の内心を見透かしたように、クライヴさんがレオンがいない理由を教えてくれた。ソファに座って待っているよう勧められたので、ありがたくそうさせて頂こう。
「クレハ様。ルイスから聞かれたと思いますが、ジェムラート邸へ調査に行ったセドリックさんから報告書が送られて来ました」
「はい……」
今度はレナードさんが簡単に状況説明をしてくれる。レオンはエリスから報告書を受け取って目を通すと、すぐに陛下の元へ向かったらしい。レナードさん達にはこの部屋での待機……そして、私を連れてくるよう命じたのだと。
「私は殿下が報告書を確認された場に居合わせたのですが、あのご様子だと……なかなかに衝撃的なことが記されていたのだと推察致します。我々もいくらか心の準備をしておく必要がありそうですね」
心の準備……どんな内容であろうと冷静に受け止めてみせると言い切ってしまったのに、もうその決心が揺らぎそうになっている。緊張と不安で心臓がバクバクする。報告書には何と書いてあったのだろうか。話を聞くのが更に怖くなってきてしまった。膝の上に乗せた手が少し震えている。
「クレハ様……私達がついております。どうかお気を強く持って下さい」
朱色の優しい瞳が私を見つめていた。クライヴさんとルイスさんも気遣わしげにこちらの様子を伺っている。大きく息を吸って吐きだす。呼吸を整えて動悸が治まるのを待った。
「はい。ありがとうございます」
私には側で支えてくれる心強い味方がいる。決してひとりではない。ルイスさんの言葉を心の中で繰り返した。私は大丈夫――
体の震えはいつの間にか消えていた。
レオンが戻ってきたのは、私が彼の部屋を訪れてから30分後くらいだった。報告書の内容に動揺していたと聞いたのに、目の前にいる彼からはそんな印象は受けなかった。時間が経って冷静になったのだろうか。
「待たせてすまない。クレハも来てくれてありがとう」
私と向かい側のソファにレオンは腰を下ろした。いつもなら無理やりにでも隣に座ってくるのに……
この僅かな違い。彼が私と正面から向き合って大切な話をしようとしているのだと感じ取り背筋が伸びた。
「クレハはとても緊張しているね。呼び出した側が言うのもどうかと思うけど、このまま話をしても平気かな?」
「あのさ、ボス。とりあえず良い報せか悪い報せかだけでもさくっと教えてくれない? 姫さんに伝えるって決めたんだよね。俺も最初は心配だったけど、姫さんは俺達が思っているよりずっと強い。あまり引き延ばさない方がいいよ」
「ルイスさんっ……!?」
確かにこの重苦しい感じがずっと続くのもつらいですけど。さすがルイスさん……相手がレオンでもお構いなしにはっきりと物を言う。
「……そうだな、ルイスの言う通りだ。中断させてごめんね、クレハ。話を続けよう」
「はい」
レオンは自身の懐に手を伸ばした。そこから取り出されたのは四つ折りにされた紙。きっとこれがセドリックさんの報告書だ。
「それでは、できるだけ手短かに話す。先刻セドリックからジェムラート邸での調査報告が届いた。皆に集まって貰ったのは、その内容を踏まえた上でこれからすべきことを話し合うためだ」
折り畳まれた報告書を開きながら、レオンは先ほど投げかけられたルイスさんの問いに答えた。
「良いか悪いか……あくまでこの報告書から読み取れる範囲で判断するならば、決して良いとはいえないな」
もしかしたらと考えてはいた。しかし、レオンの口からはっきりと告げられることのショックは想像以上に大きかった。
「でも、良い報せだってある。クレハが1番気掛かりにしているであろうジェフェリーさんだけど、彼に対しての嫌疑はほぼ晴れたと言っていい」
「ほ、本当ですか!? レオン」
「うん。報告書にはそう書かれてるよ。ジェフェリー・バラードは問題ない。シロだろうって」
「……良かった」
強張っていた体から一気に力が抜けた。ソファに倒れ込みそうになってしまったけれど、横にいたレナードさんがすぐさま支えてくれる。そのおかげで何とか姿勢を維持することができた。
「ということは……ジェムラート邸にいた魔法使いの正体が明らかになったという事でしょうか?」
私を介抱しながらレナードさんは冷静にレオンに質問をする。そうか、ジェフェリーさんと例の魔法使いの間に何があったのか判明したってことになる……
「ああ、大まかにだけどな。まさかこの短期間でここまで新しい情報が出てくるとは思わなかったよ」
ジェフェリーさんが無実だと分かっただけでも、私の心にずっしりとのしかかっていた重りのような物が無くなっていく。しかし、総合的に見て良くないと判断された報告書の中身だ。これからどんな内容が出てくるのかと考えたら、浮かれてはいられない。
「出来ればこのまま良い報せだけを聞いていたいのですが……そういうわけにはいきませんよね」
「残念だな、クライヴ。これから先は頭を悩ませるような話ばかりだぞ」
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