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221話 好きです
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マジで誰もこないのかよ。いつもならこの辺で部屋の扉をノックする音が聞こえてくるのがお約束だっただろ。くそっ、モニカさん……もう少し遅く来てくれれば良かったのに。
彼女もまさかこんなところで文句を言われるとは想像もしていまい。無関係な侍女に八つ当たりをしてしまうほど余裕が失われていた。外部からの助けは期待できない。この状況から逃れるにはどうすればいい? 全然思いつかないな。
「屋敷の使用人はレオンたちに掛かり切りになってるだろうから、俺らのことを気にしてる余裕はないだろうね。毎度そんな都合良くいきません。残念だったね、セディ」
往生際が悪い俺の姿をルーイ先生は嘲笑うような目で見ていた。
先生の言い分はもっともだった。彼の好意を知っていながら拒絶もせず受け入れもしない自分は、狡いと詰られても仕方ないかもしれない。更には『ご褒美』だなんて、先生の気持ちを利用するような真似もしてしまった。だから俺はこんなにも追い込まれているのか。身から出た錆……自業自得だ。
「先生、仕事中にこういったことはおやめ下さいと何度も申し上げましたよね。お願いですから……」
捻り出した台詞のなんとも情けないことか。でも仕方がないじゃないか。実際これ以上どうすればいいんだよ。
ようやく自覚した恋心。己の中で向き合い認めたことで肩の荷が下りた気分だったのに……どうしてこうも思い通りにいかないのか。じわじわと内側を焦がして、まるで燻った炎みたいだ。俺は先生みたいに直情的にはなれない。だから必死にもがいている。心の奥底に追いやって蓋をして、鎮火させようとしているのに、ほんの少しでも気を緩めたらすぐに炎は勢いを吹き返してしまう。
「TPOは大事だものね。俺もそうしようと思ってたんだけどね……」
まるで小さな子供に言い聞かせるような優しい声。こんな扱いをされるのも悔しくてしょうがない。
「お前さ、気がついてた? 自分がどんな顔で俺を見ているのか」
「どんなって……」
先生は俺の耳元に顔を近づけた。彼の吐息が耳を掠める。ぞわりとした感覚が背筋を駆け上がり、全身が総毛立つ。
「俺のことが好きで好きで堪らないって顔してる」
思わず息を呑んだ。至近距離で呟かれた言葉が脳を揺さぶる。このひとはいつだってそうだったじゃないか。どうして白を切り通せると思ったのか。
彼への気持ちを自覚したのはつい昨日のことだ。戸惑って、持て余して、隠そうと躍起になった。表面上は今までと同じに振る舞えているつもりでも、聡い先生は僅かな変化すら見逃してはくれなかったのだ。
「ここで一気に畳み掛けなきゃいけないって思ったんだよね。後回しにしてお前に猶予を与えたらダメだってな。俺も切実なんだよ」
情緒が不安定なとこに付け込んですまないと、それほど悪いとは思ってなさそうな顔で告げられた。
彼はどうしても俺の口から言わせたいらしい。誰にも打ち明けることなく、これから先ずっと胸に秘めたままでいようと思っていた。だって声に出してしまったら後戻りができなくなる気がしたから――
「仮にっ!!!!」
「うわっ、びっくりした……急にでかい声出さないでよ」
俺の声量に驚いた先生は反射的に自身の両耳を塞いだ。そのおかげで拘束されていた顎が解放された。そこまで強く掴まれていたわけではないのに、彼の指先が触れていた場所が熱を持ってじんじんと疼く。
「仮に……私が、その……先生の主張する通りの状態だったとして、一体どうしろというのですか。私は国軍特殊部隊の隊長です。そして人間なんです。でも、あなたは……ヒトですらない。立場も身分も何もかも違いすぎる。そんなふたりが一緒になったところで上手くいくわけがない。恋情なんて……我々には最も不要な感情です」
俺と先生の間にはとても大きな壁がある。のぼせ上がった頭で勢い任せに挑んでしまうには大き過ぎる壁が。
種族の違いから生じる時間の流れる速度。生活環境や価値観の相違……ありとあらゆる問題がこれから先ずっと付き纏ってくるのだ。俺にはこれらを乗り越える勇気も気概もなかった。
「不要か……」
先生から発せられたとは思えない弱々しい声に激しく動揺した。自分が放った言葉で彼を傷つけてしまったのかと胸が痛む。でもこれだって俺の中にある本心だ。これ以上は望めない。自分なりに折り合いを付けたのだから放っておいて欲しい。
「セディにそんな風に思わせてしまったのは俺のせいだね。愛情表現をすることばっかり夢中になって、大事なことを見落としていたみたいだ」
『ごめんね』と先生が謝った。無礼な態度を取っているのはこちらの方なのに……。相手に謝らせてしまったことで自分の器の小ささが浮き彫りにされた気がした。
彼の大きな手が俺の頭を撫でる。目頭が熱くなった。自分から拒絶した癖に、先生がまだ俺を気にかけてくれることに喜びを感じてしまう。なんて身勝手なんだろう。
「セディってさ、ほんっとクソ真面目」
「バカにしてるんですか。人がこんなに悩んでいるというのに」
「そんなわけない。お前には悪いけど嬉しくてたまらないよ。そこまで真剣に俺との未来を考えてくれてたんだ。告白より先にプロポーズされた気分だ」
興奮していた頭が冷えて落ち着きを取り戻す。そうなると沸き上がるのは強烈な羞恥だった。しかし、もう今更だ。この際だから全部ぶちまけてやる。どうにでもなれだ。
「……要らないなんて嘘です。怖いのです。これ以上あなたの存在が私の中で大きくなっていくのが……」
「意地を張ってるだけだと思ってたよ。お前の不安に気づけなかった。最初に考えてやらなきゃいけなかったのに配慮が足りなかったね。浮かれ過ぎて思い至らなかったということで許して欲しい」
先生でもそんなことがあるのか。心読みができるのかと思うくらい鋭いのに。
「意地を張っていたというのも間違いではありません。私だって相当大人げなかった。申し訳ありませんでした」
「じゃあ、お互いごめんなさいだな。これからは自己完結しないで思ってることちゃんと言って。俺答えるから。ふたりで話し合って一緒に解決しよう」
「……はい」
頭を撫でていた手がまた頬に降りてきた。先生の体温が直に伝わってくる。くすぐったいけど、温かくて心地よい。
「セディ、あのさ……お前が心配してるあれこれだけど、多分どうにかなると思う。だから、その……まだ言う気にならない?」
「これ以上何か有るんですか? もう充分に本音をぶちまけさせて頂きましたが」
「そうだね。でも肝心なのが聞けてないというか……この際頷いてくれるだけでもいいんだけどさ」
先生がもじもじしてる。いまさら聞かなくても分かるだろうに。やはりどうしても俺から直接聞くことを諦められないらしい。
言わなきゃダメかぁ。もったいぶったみたいで、めちゃくちゃ恥ずかしいな。でも、俺は先生やレオン様のように思いの丈を言葉にするのが得意ではない。だから……この機会を逃したら、この先伝えることができないかもしれない。腹を括れ。
「ルーイ先生……」
「……」
「あなたが好きです」
「……」
一生声に出すことはないと諦めていた言葉は存外口に馴染んだ。そうだ。俺はこの人が好きなんだ。言ってしまえばあっけないものだったけれど、不思議と満ち足りた気分だった。
先生はどうだったのだろう。反応が無いのだが……。あれだけ要求したのだからもっとこう、何か言ってくれてもいいだろうに。
「……俺も」
聞こえるか聞こえないかギリギリの大きさで先生が呟いた。その直後、思い切り胸ぐらを掴まれる。いきなり何をするんだと反論する暇もなかった。
「せんっ……せ、ちょっと……待っ」
まるで噛み付くような乱暴な口づけ。言葉はおろか呼吸すらも飲み込もうとする激しくて深いそれに、俺は成す術がなく翻弄されてしまうのだった。
彼女もまさかこんなところで文句を言われるとは想像もしていまい。無関係な侍女に八つ当たりをしてしまうほど余裕が失われていた。外部からの助けは期待できない。この状況から逃れるにはどうすればいい? 全然思いつかないな。
「屋敷の使用人はレオンたちに掛かり切りになってるだろうから、俺らのことを気にしてる余裕はないだろうね。毎度そんな都合良くいきません。残念だったね、セディ」
往生際が悪い俺の姿をルーイ先生は嘲笑うような目で見ていた。
先生の言い分はもっともだった。彼の好意を知っていながら拒絶もせず受け入れもしない自分は、狡いと詰られても仕方ないかもしれない。更には『ご褒美』だなんて、先生の気持ちを利用するような真似もしてしまった。だから俺はこんなにも追い込まれているのか。身から出た錆……自業自得だ。
「先生、仕事中にこういったことはおやめ下さいと何度も申し上げましたよね。お願いですから……」
捻り出した台詞のなんとも情けないことか。でも仕方がないじゃないか。実際これ以上どうすればいいんだよ。
ようやく自覚した恋心。己の中で向き合い認めたことで肩の荷が下りた気分だったのに……どうしてこうも思い通りにいかないのか。じわじわと内側を焦がして、まるで燻った炎みたいだ。俺は先生みたいに直情的にはなれない。だから必死にもがいている。心の奥底に追いやって蓋をして、鎮火させようとしているのに、ほんの少しでも気を緩めたらすぐに炎は勢いを吹き返してしまう。
「TPOは大事だものね。俺もそうしようと思ってたんだけどね……」
まるで小さな子供に言い聞かせるような優しい声。こんな扱いをされるのも悔しくてしょうがない。
「お前さ、気がついてた? 自分がどんな顔で俺を見ているのか」
「どんなって……」
先生は俺の耳元に顔を近づけた。彼の吐息が耳を掠める。ぞわりとした感覚が背筋を駆け上がり、全身が総毛立つ。
「俺のことが好きで好きで堪らないって顔してる」
思わず息を呑んだ。至近距離で呟かれた言葉が脳を揺さぶる。このひとはいつだってそうだったじゃないか。どうして白を切り通せると思ったのか。
彼への気持ちを自覚したのはつい昨日のことだ。戸惑って、持て余して、隠そうと躍起になった。表面上は今までと同じに振る舞えているつもりでも、聡い先生は僅かな変化すら見逃してはくれなかったのだ。
「ここで一気に畳み掛けなきゃいけないって思ったんだよね。後回しにしてお前に猶予を与えたらダメだってな。俺も切実なんだよ」
情緒が不安定なとこに付け込んですまないと、それほど悪いとは思ってなさそうな顔で告げられた。
彼はどうしても俺の口から言わせたいらしい。誰にも打ち明けることなく、これから先ずっと胸に秘めたままでいようと思っていた。だって声に出してしまったら後戻りができなくなる気がしたから――
「仮にっ!!!!」
「うわっ、びっくりした……急にでかい声出さないでよ」
俺の声量に驚いた先生は反射的に自身の両耳を塞いだ。そのおかげで拘束されていた顎が解放された。そこまで強く掴まれていたわけではないのに、彼の指先が触れていた場所が熱を持ってじんじんと疼く。
「仮に……私が、その……先生の主張する通りの状態だったとして、一体どうしろというのですか。私は国軍特殊部隊の隊長です。そして人間なんです。でも、あなたは……ヒトですらない。立場も身分も何もかも違いすぎる。そんなふたりが一緒になったところで上手くいくわけがない。恋情なんて……我々には最も不要な感情です」
俺と先生の間にはとても大きな壁がある。のぼせ上がった頭で勢い任せに挑んでしまうには大き過ぎる壁が。
種族の違いから生じる時間の流れる速度。生活環境や価値観の相違……ありとあらゆる問題がこれから先ずっと付き纏ってくるのだ。俺にはこれらを乗り越える勇気も気概もなかった。
「不要か……」
先生から発せられたとは思えない弱々しい声に激しく動揺した。自分が放った言葉で彼を傷つけてしまったのかと胸が痛む。でもこれだって俺の中にある本心だ。これ以上は望めない。自分なりに折り合いを付けたのだから放っておいて欲しい。
「セディにそんな風に思わせてしまったのは俺のせいだね。愛情表現をすることばっかり夢中になって、大事なことを見落としていたみたいだ」
『ごめんね』と先生が謝った。無礼な態度を取っているのはこちらの方なのに……。相手に謝らせてしまったことで自分の器の小ささが浮き彫りにされた気がした。
彼の大きな手が俺の頭を撫でる。目頭が熱くなった。自分から拒絶した癖に、先生がまだ俺を気にかけてくれることに喜びを感じてしまう。なんて身勝手なんだろう。
「セディってさ、ほんっとクソ真面目」
「バカにしてるんですか。人がこんなに悩んでいるというのに」
「そんなわけない。お前には悪いけど嬉しくてたまらないよ。そこまで真剣に俺との未来を考えてくれてたんだ。告白より先にプロポーズされた気分だ」
興奮していた頭が冷えて落ち着きを取り戻す。そうなると沸き上がるのは強烈な羞恥だった。しかし、もう今更だ。この際だから全部ぶちまけてやる。どうにでもなれだ。
「……要らないなんて嘘です。怖いのです。これ以上あなたの存在が私の中で大きくなっていくのが……」
「意地を張ってるだけだと思ってたよ。お前の不安に気づけなかった。最初に考えてやらなきゃいけなかったのに配慮が足りなかったね。浮かれ過ぎて思い至らなかったということで許して欲しい」
先生でもそんなことがあるのか。心読みができるのかと思うくらい鋭いのに。
「意地を張っていたというのも間違いではありません。私だって相当大人げなかった。申し訳ありませんでした」
「じゃあ、お互いごめんなさいだな。これからは自己完結しないで思ってることちゃんと言って。俺答えるから。ふたりで話し合って一緒に解決しよう」
「……はい」
頭を撫でていた手がまた頬に降りてきた。先生の体温が直に伝わってくる。くすぐったいけど、温かくて心地よい。
「セディ、あのさ……お前が心配してるあれこれだけど、多分どうにかなると思う。だから、その……まだ言う気にならない?」
「これ以上何か有るんですか? もう充分に本音をぶちまけさせて頂きましたが」
「そうだね。でも肝心なのが聞けてないというか……この際頷いてくれるだけでもいいんだけどさ」
先生がもじもじしてる。いまさら聞かなくても分かるだろうに。やはりどうしても俺から直接聞くことを諦められないらしい。
言わなきゃダメかぁ。もったいぶったみたいで、めちゃくちゃ恥ずかしいな。でも、俺は先生やレオン様のように思いの丈を言葉にするのが得意ではない。だから……この機会を逃したら、この先伝えることができないかもしれない。腹を括れ。
「ルーイ先生……」
「……」
「あなたが好きです」
「……」
一生声に出すことはないと諦めていた言葉は存外口に馴染んだ。そうだ。俺はこの人が好きなんだ。言ってしまえばあっけないものだったけれど、不思議と満ち足りた気分だった。
先生はどうだったのだろう。反応が無いのだが……。あれだけ要求したのだからもっとこう、何か言ってくれてもいいだろうに。
「……俺も」
聞こえるか聞こえないかギリギリの大きさで先生が呟いた。その直後、思い切り胸ぐらを掴まれる。いきなり何をするんだと反論する暇もなかった。
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