婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

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00.前世の記憶

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00.前世の記憶




 前世の僕はラージャル侯爵家次男として生まれた。
 家は十違う長兄が立派に継いだ後で、跡取りのスペアとして育てるよりも、もっと家の為になるよう僕は育てられた。
 この時、王位第一継承者である立太子に子が産まれ、そして第二継承者である第二殿下の元にも目出度い話が舞い込んだ。
 内政がごたつくことを良しとせず、第三殿下には男である僕が婚約者として決まった。間違っても子供が生まれないように。
 前世の僕はこの時は十六歳で第二次性長期が始まってもそこまで容姿に変わりはなく、周りの男の子たちと比べても華奢で頼りなく、下手をしたら令嬢達よりか弱いと不名誉な噂を流されていた。
 声も高く、男らしい部分なんて皆無に等しかった。
 それが良かったのだろう、第三殿下は僕を拒絶することなく愛を呉れた。
 婚前交渉であったが、男同士だから周りは判らないと言いくるめられて色んな場所で第三殿下に手篭めにされた。
 第三殿下は夏の太陽のような鮮やかな橙色の髪と王族直系の証である黄金色の瞳を持っている。惚れた欲目なのか、僕には第三殿下は王家の中でも抜きん出て美形でこの世のありとあらゆる美しく輝かんばかりのものを集めて生まれたものが第三殿下なのだと思っていた。
 そんな美しい人が情欲に塗れた濡れた瞳でこちらを伺い、魅力的な低い声で「いいか?」なんて聞かれたら是非もない。僕は応えることしか出来ないのだ。
 人目を忍んでこっそりと行うそれの背徳感もあいまって僕も第三殿下も大いに盛り上がったのは余談だ。

 一年は第三殿下と仲むつまじくやれていた。
 あと一年か二年か、僕がきちんと王族の一員として滞りなく公務をこなせる様に組まれたカリキュラムを終了し、後に婚姻の儀を済ませば僕と第三殿下は“家族”になる筈だった。

 ある日、先視の能力を持つ神官がこの世界の精霊がいっせいに眠りにつく未来を予言した。
 精霊は世界の安寧をもたらす存在であり、バランスであり、僕達が魔法を使うために力を与えてくれる大切なものである。
 世界は精霊の加護によって成り立つ。
 精霊は無邪気な存在で、悪いものを嫌い良いものに加護を与える。
 その精霊が眠りにつくなんて世界が終わるも同然だ。
 力のある先読みの力を持つ神官が何人もその未来を視て未来が変わることがないかとあちこちで試しみたものの、未来は一向に変わる兆候はなかった。
 
 
 世界は滞りなく動いて、もう少しで精霊が眠りにつくなんて思えないくらい長閑だった。
 それでも時間は刻一刻と迫り、日に日に城内は緊迫感に包まれはじめた。
 宮廷魔術団の総団長が一つの文献を陛下に見せ、一縷の望みがありますと厳かな声で伝えた。
 それは古から伝わる秘術で、この世界が窮地に立たされた時に救世主である人物を呼び出す召喚魔法だと言う。
 魔力量が膨大な魔術師を集めそれと補うための魔法陣が用意された。この時、第三殿下の婚約者に過ぎない僕も呼ばれた。魔力量が膨大な魔術師の一人として呼ばれたので僕が位置する場所は魔術師達のそこだった。
 秘匿性の高い儀式だったので集められた魔導師は目深にローブを被り王族や上級貴族である彼らとは目が合わないよう処置された。
 儀式が始まりゴリゴリと削られる魔力に絶句した。ちらほらと気絶していく魔術師がいるから相当な魔力が魔法陣に吸われているんだろう。
 魔法陣の上に光が集結して、それが段々と人の形を形取り、光が一際輝いて一陣の風のように四散した。そして、魔法陣の上には一人の少女が立ち尽くしていた。

「…ここは…?」

 キョロキョロと周りを伺う少女はとても可愛らしい容姿をしていた。
 黒く見える髪は光を纏いキラキラと輝いている。肌は健康的な色をしており、この世界の女性ではありえないくらい露出したスカートが軽やかに靡いていた。
 その少女に真っ先に手を差し伸べたのは僕の婚約者でもある第三殿下だった。

「はじめまして、この世界の救世主様」

 まるで謡う様に優雅に美しい声で少女に話しかける。
 第三殿下の美しさに少女もポッと頬を染めた。
 僕の世界がガラガラと崩れるのが判った。



 あの日から僕の世界は色がなくなったように褪せていた。
 少女に寄り添う第三殿下の瞳は柔らかく、愛しいものを守るような表情を常に浮かべている。
 彼女が大切だと、彼女が自分の婚約者であるかのように。
 僕は第三殿下に会うことも手紙が届くこともなくなり、思案顔の父と母に今後のことを決めるようにとせっつかれ始めた。
 この世界の救世主となれば王家とて放っておけない。幸いにして少女は第三殿下に好意を寄せている。第三殿下とて同じだろう。そうなれば、僕が捨てられるのは道理だ。
 仕方ない。その一言で済ませられるものなのだろうか。
 人生で一番の幸せだったあの一年が僕の中から零れ落ちていく。一生懸命がんばったのに、僕にはなにも残らなかった。
 世界はどんどん朽ちていく。
 精霊は急くように眠りについていく。
 世界の退廃が進んでも、この王都の精霊は眠らない。それが救世主である少女がもたらした加護であると声高に第三殿下が告げる。
 日々、生きているのか死んでいるのか判らない僕に父上が死に行く領地視察へと行くように僕に命じた。兄の代わりに僕は領地に行く。
 身体がとてもだるい。
 瞼を持ち上げることすら億劫で、領地に向かう馬車の中でそっと瞳を閉じた。


 僕の“前世”はそこで途切れている。






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