婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

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01.トリックア…し、召喚?!

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01.トリックア…し、召喚?!





 午前11時40分。
 大学のキャンパス内は色んな仮装をした生徒で盛り上がっている。
 ただ猫耳をつけただけの仮装や頭にお面をつけただけの簡易な生徒が居る中、完璧な衣装で学内を練り歩く生徒が矢張り多い。
 イベントが大好きなこの大学は、ハロウィンのイベントにも勿論寛容で仮装したまま授業を受けてもなにも言われない。寧ろバッチコイ! であり、教授達も仮装をしている。
 近くの商店街もハロウィンイベントをしていて、歩行者天国もあり大学からそのままの仮装で遊びに行っても今日はお咎めがない。
 終始お祭りモードで開いた時間に僕、春波 湯江(はるなみ ゆえ)はサークル顧問である多門(たもん)教授の下に訪れた。多門教授は異色の履歴を持っている人物で、海外で特殊メイクアートを習い国内、国外共に名声を得ているとんでもない人物だ。
 映研である我がサークルで時たま腕を振るってくれるが、いつ見ても鮮やかな出来に感嘆する。魔法がなくったって、この世界は輝いている。
 大学生になって二年目の僕は多門教授に特殊メイクを振舞ってもらうのも二回目だ。去年は初めてということもあって、大人しく魔女っ子(これを推したのは学友)だった。特殊メイクというよりは、普通に詐欺メイクというものをしてもらいどこからどう見ても女の子という出来栄えになった。
 浮かれた学内で詐欺メイクの僕は目立ったようで、あちこちから声をかけられ辟易したので今年はガツンと特殊メイクを施してもらうべく色々と持参した。

「春波君は、ゾンビがいいのかい? 去年の魔女っ子も壮絶な人気だったし、今年は妖精とかいいかなぁって思っていたんだが」

「その衣装は仕舞ってください。僕は今年、ゾンビになるつもりなんで、緑でお願いします」

 多門教授の私物にゾンビのマスクがあった筈。それはハロウィン当日貸し出しされていて、その醜悪なマスクを使う生徒はいなかった。
 ハロウィンはお祭り騒ぎでナンパをするチャンスであって、あまり弄りすぎるものはパスされている。
 僕はそれを借りるつもりで来ていたし、衣装もばっちりだ。
 教授は僕に着せる予定だったのかぴらぴらした虹色のティンカーベルのような透明な羽のついたその衣装をがっかりとした様子で片付けた。今年還暦という多門教授だが、意外に可愛いものが大好きで、僕にそれを着せたがるのが難点だ。
 大学に来る前にシャンプーで落せる染色剤で髪も緑に染めたし、ボロの服もネットでコスプレ衣装として用意した。さぁ、ゾンビになる準備はばっちりだと多門教授に声高に告げた。

「周りがドン引くくらいの仕上げにしてしまうよー」

「寧ろ、それでお願いします」

 上はボロい黄ばんだ色みのシャツと、下は茶色いカーゴズボン。腕は出さない方が良かったかなと思ったが、完ぺき主義の多門教授は手もばっちり同じ皮膚色で作ってくれた。
 目の前の僕がどんどんと違和感のないゾンビの顔になっていくのをワクワクしながら見ていると「出来たよ」の声でこれが完成なのだと感嘆した。
 多門教授は偶にその技術を買われ映画の特殊メイク係りに抜擢される程の腕前だ。今回は一時間とメイクを施した本人から言わせれば入り口に過ぎない軽いものらしいが、実際にこれが自分だと思うと感慨深いものがある。
 緑の髪に、醜い顔の自分。
 肌も緑色で、シャツから覗く首や腕もちゃんと緑色だ。
 でこぼことした顔は異形の言葉がピッタリ来るほどで、灰色の自分の瞳が異様にマッチしている。

「ああっ多門教授っこれはすごいです! 新たな自分を見つけました!」

「その容貌で自分にうっとりとする様はさすがと言うか、君らしいよね」

 テンションがどんどん上がる僕に多門教授は「これを片付けてくるね」とメイク道具を指差し部屋を出て行った。
 マスクはちょっと蒸れるが気候も穏やかになったからあと数時間は行けるだろうと顔にそっと指を当てた瞬間、ブォンと何かの機会が起動するような音が聞こえた。

「え?」

 何の音かと振り向いて、自分の足元が光っていることに気がついた。
 足元には光る円陣が徐々に描かれ始めた。

「なに…?!」

 慌てて円の外に出ようとするが円は僕を点にするように付いて回る。
 逃げられないと悟った瞬間、僕はその円陣が魔法陣であることに気付いた。
 これはあの日、僕の人生が変わったあの日の、魔法陣に酷似していた。





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