3 / 24
02.知っている、知らない世界
しおりを挟む02.知っている、知らない世界
突然魔法陣の光に包まれ、あまりの眩しさに目を閉じた。
瞼を閉じても痛烈な光は続いて、足元がぐらつく。まるで掃除機で吸われたような不思議な感覚に陥り、やっと瞼の外の光が落ち着いたのだと判りそっと瞼を開けた。
「…!」
知っているこの光景。
魔法陣をぐるりと囲むように目深に被ったローブを着た魔導師、ほぼ倒れている魔導師を更にぐるりと貴族が囲み、その奥、階段の上に設えられた椅子に座り此方を眺める王族。
そして、僕のすぐ隣に居る…フワフワのピンク色のドレスを着た救世主の少女。
あの時と一緒だ…!
僕が前世と呼んでいるあの時と。
ゾワリと鳥肌が立つ。
そして、脇に控えていた騎士が少女を守る様に周りを固め、僕に抜き身の剣を向ける。
「……?」
ポカンとしていると、見覚えのある騎士が僕に向かって吼えた。
「この、化け物が!!」
「緑色の化け物だ!」
そして納得した。
僕、今、ゾンビのコスプレの真っ最中だった。
僕を速攻排除しようとする騎士に魔導師の総団長は焦ったように声を上げた。
「お待ちください! 精霊の加護を受ける救世主を呼ぶこの場所で殺生などとんてもございません! お考え直し下さい!」
必死の叫びに陛下も何事か考えたのか、見覚えのある第三殿下に指示を下した。
第三殿下は階段を降り、魔法陣を踏み此方にやってきた。
少女を騎士同様背に庇い、僕に向かって口を開いた。
「この場で王都から去ればなにもしない。言葉が通じるのならさっさと去れ」
僕は今、知性を問われているのだろうか。
コクリと頷いてこの広間の扉から出た。ザワザワとざわめきが聞こえる。僕を追うべきだという声も聞こえた。
人払いがしてあったのだろう、長く続く廊下は誰もいない。後ろから追っ手がきそうではあるが、今はない。
「風生来(フアトル)」
久しぶりの詠唱だったが魔法は問題なく作動した。
撫でるような風が吹き、僕の下に精霊がやってきた。
あの時も召喚時には精霊は起きていた。これから眠りにつくのだろうか。
風の精霊が僕に頬ずりするように肩に乗る。
「僕はこれから王都を去り、北のギルドに行くけれど着いてきてくれるかい?」
精霊に尋ねてみる。
親指サイズの精霊は現代で例えるとコロボックルのような見た目で大変癒される。前世ではここまではっきり妖精の姿を視認することはできなかったのに、どういうことだろう。前は色の着いた丸い玉が僕の周りをふよふよ飛んでいた。
風の魔法を使ってやってきたということは、風の精霊なのだろう。
僕が問えば精霊はふわりと愛嬌よく笑い、僕の背に精霊の加護をつけた。表情が判るから、歓迎されているってことが可愛らしい笑顔から確認できる。
「わわっ!」
廊下の窓を指差され、大きなその窓を開けば背に大きな翼が現れグゥンと空に舞う。
翼の動かし方が判らず一旦中庭に足を着けたら、そこにいた精霊が僕の肩にまた乗ってきた。色合い的に花の精霊かな。
降りた反動でもう一度ジャンプすれば問題なく空を飛べた。
空を飛ぶゾンビ…新しい。
北のノアトル地方には世界最大のギルドが存在する。
そして広大な森と難攻不落のダンジョンと、大小様々なダンジョンがあるノアトル地方は今の僕には魅力的だ。
ノアトルはダンジョンや資源豊富な森を所有し王都と並ぶ程の街でもある。領地を経営しているのは王族直系の公爵家だ。しかし、大半が冒険者である荒くれ者なので、街は上品とは言えない。
公爵様もこの土地を上手く御することも出来ないので、ギルドに全てを任せている。
ここが重要だ。
ギルドは国が違えど階級は固定で、身分証明にもなる。
階級が上がれば平民でもそれなりに優遇される。
僕は魔力量が多いし、貴族とは切り離されたこの地ならやり直せる気がした。
ギルドに登録して、それなりに稼いでこの地で落ち着こう。グルグル回る僕が精一杯に弾き出した案だった。
この召喚は一方通行で、あちらの世界に戻れないのは以前魔術師として参加したので知っている。
帰れないのなら、この世界で生きるために全力を尽くさないとまた前世のようになってしまう。それだけはごめんだ。
535
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
追放されたので路地裏で工房を開いたら、お忍びの皇帝陛下に懐かれてしまい、溺愛されています
水凪しおん
BL
「お前は役立たずだ」――。
王立錬金術師工房を理不尽に追放された青年フィオ。彼に残されたのは、物の真の価値を見抜くユニークスキル【神眼鑑定】と、前世で培ったアンティークの修復技術だけだった。
絶望の淵で、彼は王都の片隅に小さな修理屋『時の忘れもの』を開く。忘れられたガラクタに再び命を吹き込む穏やかな日々。そんな彼の前に、ある日、氷のように美しい一人の青年が現れる。
「これを、直してほしい」
レオと名乗る彼が持ち込む品は、なぜか歴史を揺るがすほどの“国宝級”のガラクタばかり。壊れた「物」を通して、少しずつ心を通わせていく二人。しかし、レオが隠し続けたその正体は、フィオの運命を、そして国をも揺るがす、あまりにも大きな秘密だった――。
『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。
春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。
チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。
……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ?
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――?
見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。
同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
無能と追放された宮廷神官、実は動物を癒やすだけのスキル【聖癒】で、呪われた騎士団長を浄化し、もふもふ達と辺境で幸せな第二の人生を始めます
水凪しおん
BL
「君はもう、必要ない」
宮廷神官のルカは、動物を癒やすだけの地味なスキル【聖癒】を「無能」と蔑まれ、一方的に追放されてしまう。
前世で獣医だった彼にとって、祈りと権力争いに明け暮れる宮廷は息苦しい場所でしかなく、むしろ解放された気分で当てもない旅に出る。
やがてたどり着いたのは、"黒銀の鬼"が守るという辺境の森。そこでルカは、瘴気に苦しむ一匹の魔狼を癒やす。
その出会いが、彼の運命を大きく変えることになった。
魔狼を救ったルカの前に現れたのは、噂に聞く"黒銀の鬼"、騎士団長のギルベルトその人だった。呪いの鎧をその身に纏い、常に死の瘴気を放つ彼は、しかしルカの力を目の当たりにすると、意外な依頼を持ちかける。
「この者たちを、救ってやってはくれまいか」
彼に案内された砦の奥には、彼の放つ瘴気に当てられ、弱りきった動物たちが保護されていた。
"黒銀の鬼"の仮面の下に隠された、深い優しさ。
ルカの温かい【聖癒】は、動物たちだけでなく、ギルベルトの永い孤独と呪いさえも癒やし始める。
追放された癒し手と、呪われた騎士。もふもふ達に囲まれて、二つの孤独な魂がゆっくりと惹かれ合っていく――。
心温まる、もふもふ癒やしファンタジー!
悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される
木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる