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09.他愛のない一日
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討伐依頼を終え、街の外れにあるギルドの出張所に魔獣の一部を納め、証明書を貰う。シシェルは最高ランクのカードを持っているので、依頼消化をする必要もなく獲物全てを僕の取り分にしていいとのことだったので遠慮なく貰った。
お世話よりも、僕は此方の方が嬉しい。一週間、討伐の手伝いをしてくれたらお世話は要らないと申し出たが、それはそれで世話の一部として遂行するからと却下された。
シシェルが雑貨屋で追加で欲しいものがあるからと店に寄った際に僕も二つ購入して鞄に仕舞った。
宿屋に戻れば午後六時をちょっと回った所で、食堂はぼちぼち込み始めていた。
開いているテーブルに座ろうとして、邪魔された。
「さぁ、部屋に戻ろう。欲しいものがあれば、後で私が持ってこよう」
「えぇ…今食べて上に行った方が早いし楽だし」
「大丈夫だ。ここでは私が落ち着かない」
シシェルのその言葉に、この見目じゃ確かにそうだろうな、と遠い目になる。街でもすごく目立っていたし、集まる視線がすごかった。
ただ歩いているだけで人の目線って釘付けになるんだなって知った。
気にしていない風だったけどやっぱり気にしていたんだ。
「僕のことなら気にしないで、食べたら上に行くし」
腕をグイと引かれるけど、上で食べる気は一切ないので動くつもりもない。
「そうではない。お前は自分に向けられるものに些か鈍すぎやしないか?」
「は?」
シシェルが変なこと言うからメニューから顔を上げて食堂内を見れば、あちらこちらから視線が注がれており、僕と目が合った途端サッと目が逸らされる。
「?」
シシェルに向けられた視線だと思って居たが、こちらにも向けられてもいたようだ。あのイケメンと一緒に居る芋は誰だという感じだろうか。
それならシシェルが部屋に戻ればこの視線も落ち着くと思うのだけれど。
再び視線をメニューに戻そうとして、メニューがシシェルに奪われた。
「あっ!」
「さぁ、行くぞ」
動く気のない僕をまた軽く抱え、宿屋に続く階段に強制的に連れて行かれた。
「ちょっと、なに勝手に!」
ジタバタと暴れる僕なんか大した抵抗でもないのか、シシェルの歩幅は一定だ。
魔法を使えば動きなんて簡単に止められるけど、ここで暴れたら女将さんに叱られてしまう。それに、二階に上がった途端階下から野太い男泣きが聞こえた。
「?」
この宿屋であまり聞かない騒ぎが下から聞こえるけど、今日は宿で酒を飲んでいる人が多いのかな。
部屋まで運ばれた。ムッスリと不機嫌な僕の頭を撫でて「何が食べたい?」なんて優しい声を出しても僕は騙されないぞ。
無言を貫きたいけど、無視をすることの危険性は昼間知っている。あれの二の舞は御免だ。
何をされるのか判らないから、視線はシシェルから離さない。
椅子に座った僕にシシェルが近寄るたびにジリジリと椅子ごと移動するとそれ以上シシェルは近づいてこず、一つ溜息をついて部屋の外に出て行った。
警戒し過ぎたかな? と思ったけど、すぐにシシェルは戻ってきた。
手にメニューを持って帰ってきた。
「今日はどれが食べたい?」
ニコニコしているからさっきの僕の態度は一切気にしていないみたい。気にするだけの存在でもないだろうから当たり前か。
手渡されたメニューを見て、渋々料理を選べばシシェルは満足そうに頷いて扉を半分開けてなにやら話をしてすぐ戻ってきた。今日は食堂まで行かないようだ。部屋の外にシシェルの護衛か侍従かいるのだろう。
「そう警戒するな」
扉を背にしてシシェルが此方の様子を窺ってくるが、近づいてはこない。きっと僕に扉に近づいてほしくないんだろう。
「お前は誰かと付き合っていたりするのか?」
「………」
唐突に尋ねられて、なにを聞いてくるのだと眉間に皺が寄った。僕が付き合ったことがあるのは前世でも今世でもたった一人。
ジトリとシシェルを睨めば軽く肩をすくめられた。
「お前は何も聞かないが、知っているようだ。異世界から来たはずなのに、不思議なものだ」
「………」
「私が何かする度に意外そうな顔をするし、お前は私を“殿下”と呼んだ」
追求する言葉ではあるが、あまり気にしていないのがその態度から判る。食事が運ばれるまで僕が外に出るのを阻止するためか。
十分後くらいにドアがノックされ、シシェルが少しだけ扉を開けて身体を少し外に出す。
そしてそこで食事を手渡されたのか、器用に両手でお盆を一つずつ持って扉を閉めた。
テーブルにそれぞれお盆を置かれたが、カトラリーはまた一組だ。
ギリィっとシシェルを睨んで、僕はさっき雑貨屋で買ったカトラリーを取り出した。
「!」
一瞬だけ目を見開いたシシェルにふふんと得意げにナイフとフォークを持って小さく頂きますをして魔獣バラ肉の生姜焼きもどきを口にした。味は豚に近く、あっさり目で美味しい。勿論、カトラリーは鞄から出して浄化魔法を掛けてある。
「してやられた」
悔しそうにしながらシシェル席に着いた。今日の夕飯は厚切りのステーキだった。野菜より肉メインが好きみたい。
生姜焼きについていたピラフも一緒に食べる。おいしい。
もくもく食べていたら小さくカットされたステーキを油断していた口に放り込まれた。
してやられたくやしい。
どうあっても僕に給餌したいらしい。
止めろといってもきかないし、半ば諦めて今回もあれこれと世話を焼かれながら食事を終え、風呂の準備をされ、マッサージまでされてしまった。
うつらうつらとしている僕にシシェルが問いかける。普段より低い声はどうしてだろう。緊張をしているのか、シシェルも疲れたのか。
疲れてるんだったら彼も寝てしまえばいいのにと思うけれど、眠気が勝っている僕はマッサージに使われているオイルをなんとかして服を着るのも億劫だ。オイルは浄化魔法でなんとかなるが、寝巻きはシシェルが用意して彼のベッドの上に置かれている。
「お前のことを聞かせてくれないか?」
「僕の?」
「宿でもギルドでも、街でも色んな人間がお前に好意を寄せていた。…付き合っている人間などが居るのか?」
第三殿下とコイバナをすることになろうとは。
前世での僕だったらあたふたして、満足な返事なんて出来なかっただろうが、人生二度目。それなりにベリーハードだったからか、楽しければなんでもいいけど恋なんて二度とするものかと懲りている。トラウマレベルだ。
あっちの世界でも、こっちでもぼちぼちと付き合ってみないかなんて言われたけど、お断りだ。
ぼんやりする頭で、シシェルに問われた答えを纏めようとするけど、思考は散らかっていく。
「…僕、婚約者に捨てられて、恋なんてこりごりなんです」
「…なんと…」
なんと、その相手があなたなんですー、とは口が裂けても言えない。
ゆっくりとコリをほぐすように足を揉まれ、ポカポカと身体が温まる。それにつれて瞼は持ち上げることも困難なくらい重くなって、僕はその日ものんきに眠ってしまった。
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