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11.出立の時
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前日は準備があったり、睡眠をよくよくとった方がいいとシシェルをなんとか納得させて夜のお世話を断った。
ジトッと物言わぬ圧力というものを背中にヒシヒシと感じたが気付かないフリでベッドに入り花の精霊の力を借りて安眠を手に入れた。心地よい花の香りに包まれて目覚めも最高に良かった。が、やっぱりマッサージも魅力だ。
目が覚めたとき、今日もバッチリ朝の準備が整った後だった。
この王子、いつ起きているんだろう。僕だってそんなに寝汚いことはないのに、それよりも早く起きている。
ちゃんと寝ているか心配になってくる程だ。
精霊の守りが解けたことに気付いたのか、朝食の準備をしていたシシェルが此方を見る。
「おはよう。良く眠れたかい?」
ニッコリと朝から爆弾級の笑顔を返され、思わず枕に顔を埋めてしまう。
「どうした? 今日は朝から疲れた風だが」
ギッとベッドが軋み、シシェルが僕のベッドに腰掛けたことが判る。
ビクリと肩を揺らした所為か、僕の頭を撫でる指先がやけに優しい。怯えさせないよう、ゆっくりと触れてくる。
「…あ、」
ソロリと枕から顔をだし、そっと視線を上に上げれば優しく微笑むシシェルと目が合った。
「ん?」
「…おはよ…」
「ああ、食事の準備は整っている。起きておいで」
王族直系の金色のヒヤリと冷たく見えていた瞳が、トロリと柔らかく蕩けるようなハチミツのように感じた。
朝食を終え、シシェルが食器を配膳用のカートに乗せ部屋の前に置き、畳まれた服を持って僕のところへやって来た。
「さぁ、出立の準備を始めよう」
シシェルが持っていた服を貰おうと思った瞬間、ワンピース型のシャツがスポーンと脱がされた。
首元がゆったり目なのもあって、顔に引っかかることもなく一瞬で下着姿だ。
今日も今日とて第三殿下の手際の良さが光る。
ビックシルエット風の此方のシャツを腰でベルトで縛られそこに無限鞄を提げ、山道で安全に動けるよう黒のレギンスもどきを履かされ、生成り色のブーツを履いた。外套は枯葉色のダメージ系で結構地が厚く、こちらも利き手を出しやすいよう右手部分が少し短い。
その他に髪を飾られたり動きやすい範囲で装飾を施された。これはきっとシシェルの趣味だと思う。
シシェルは初日に会ったときと同じ服装だ。黒メインの旅衣装で装飾やラインの色は緑になっている。王族は金色の刺繍だけどお忍びだから色が違うのだろう。
帯刀した剣がずっしりと重そうだけど、こればかりは取り易いところに出しておかないといけないのでシシェルの唯一の手荷物になっている。
一ヶ月以上は王都なので、宿屋の部屋の荷物は片付けられている。僕は借りっぱなしにして行ってもいいかと思って居たが、もし塞がっていたとしてもシシェルがこの街で顔が利くらしくなんとか出来ると言うのでそれに従った。
誰も宿泊しない部屋を作るのは忍びないから、また戻ってきた時に女将さんにお願いしようとこの時は軽く考えていた。
女将さんに声をかけて、道中に食べなさいとお菓子を貰い、街を出た。
塀の外には鉄壁の装甲の馬車が留まっていた。その重厚な装いは戦車かな? と思わせるだけの威厳に満ちている。あの筋肉質な馬二頭は絶対に戦用の馬に違いない。
話を聞けば、これに乗って安全にヒディルの森へと向かうらしい。その間、あまり人に見られるのは不味いというので、こういったし様になったのだと。
驚くほどに速い馬車のクセに揺れが少ない。体感的に三十分程走らせたところで馬車が止まった。どうやらヒディル森の入り口に着いたらしい。
ヒディル森は滅多に人が入らない場所なので馬車が走る道はなく、ここからは徒歩に変わる。
森と言ってもそこまでの山道ではなく、獣道はゴツゴツと石が飛び出ていたりチョロチョロと湧き水が流れていたりする。難所ではないが、精霊の加護がなくなって一番荒れた場所なので魔獣があちらこちらに存在している。
冒険者として、僕よりも格上のシシェルが先を歩いてくれている。危ない箇所は注意をするように促してくれる。
「でも、ノアトルの地の…精霊は起きているわけですよね? …それを、不思議に思う人はいないのですか…?」
はぁはぁと喋りながら歩くには多少しんどいくらいの山道を進む。
僕が森に進めば進むほど、挨拶をしてくる精霊が増えていく。
ノアトルではどこにでも精霊はいて、それが当たり前だと思っていたけれど、世間ではそうではないらしかった。
「先にノアトル地方の精霊が目覚めたと告げたのは救世主と呼ばれた少女だった。自身の願いがノアトル地方の精霊を起こしたのだと。そして、神殿のものが調査をした結果、それが本当であったと通達がきた」
それだったら、どうして僕が精霊の加護を受けるものだと気付いたのか。普通だったら、救世主の少女の力のすごさに圧巻される場面だろうに。
「しかし、詳しく調べた結果…どうにも精霊の起きている場所がおかしい。誰かが歩いた場所をなぞる様に精霊が目を覚ましている」
「その少女が、はぁ…意識を飛ばした流れに沿っているのかも、しれないじゃないですか」
「それは可笑しなことだ。その少女には精霊が近づかない。寧ろ…いや、そこで不審に思った私が直々にやってきたというわけだ。城で精霊をみることが出来るのが私くらいだからな」
シシェルはひょいひょいと道を歩き、僕に危険がないか探りつつ、魔獣にすぐに対処出来るよう右手は剣をすぐに引き抜けるよう空けている。
息も整っていてこれが経験と体力差かと内心ガックリとくる。冒険者としてあの体格は羨ましくて仕方がない。
「そこでこのノアトルに新しくやってきた変り種はいないかとギルドで聞いたところ、お前の名が挙がった。そして、見つけた。精霊に加護されているお前の姿を」
その時、新しくやってきた精霊が僕の額にキスをしていた。
そっとシシェルの左手が僕の前髪に触れた。
「陛下は勿論のこと、私も王族の一員だ。お前には過酷を強いているが、もう少し辛抱してほしい」
左手がゆっくりと下がり、僕の頬を優しく包む。
まるで愛しいものをみるみたいな視線に耐えられなくなって、ささっとその手を避けるように道を進む。
目の前にいるのは地の精霊だろう。こっちと手招きをしているからそっちに休憩場所でもあるとみた。
そそくさとシシェルから離れて妖精が待っている場所へ足早に赴き、平たんな場所で休憩が取り易いそこでポシェットの中身を探った。
シシェルに食べさせたおにぎりは白米もどきを握って中に具をいれたもので、今回はダンジョンで採れた山菜もどきを混ぜ込んだ炊き込みご飯で旨味がぎゅぎゅっと詰まっている。
二人が座れるくらいの場所に敷物を敷いて、炊き込みご飯のおにぎりを手渡し更に鞄からお椀と固めたコンソメもどきを出して椀に入れ、水と風の合わせ技でお湯を出して注いだ。
「…これは…」
苦笑いして座ったシシェルはお湯に少し具が浮いているように思っていたのだろうが、これはコンソメスープだ。適度に運動して汗をかいた僕らに必要な栄養で、空いた腹には美味しく感じるものである。
いい塩梅のインスタントスープが出来上がってほくほく顔の僕にシシェルが「これはなんだ?」と尋ねてきた。
僕はお湯さえあれば簡単にスープが出来上がる固形だと説明して、それを幾つかシシェルに手渡した。一つを片手に取り四角いそれをまじまじと眺めている彼が子供のように興味心身で微笑ましい。
固形のそれの角を少し削り、それを口にしたシシェルは目をキラキラさせている。
「城に帰ったら調理方法を聞いてもいいだろうか?」
「ええ。気に入ったのでしたら、他にも幾つか似たようなものがあるのでそちらも説明しますね」
僕は魔法で簡易に作ったけど、普通の料理手順でだって固形スープは作れる。
「遠征をする部隊に持たせることが出来れば彼らの士気も上がる。簡易携帯食料は腹は満たされてもあまり美味いものではないからな」
「…部隊?」
おにぎりをペロリと一つ平らげ、二つ目に手を伸ばしたシシェルがケロリとした顔で「私の部隊だ」と爆弾発言を投下した。
「…え?」
「私は王位継承権を放棄して、騎士団に所属している。陛下の無理難題を押し付けられる小隊の隊長をしているから、遠征はよくあることなのでな。これは良い携帯食料だ」
「貴方自ら遠征に行くんですか?」
「そうだ。しかし、王族ということもあり、実力など求められることもない。見栄えのいい飾りとしての騎士にも飽きて、ギルドで名を挙げた。お陰で侮られることもなく、こうしてお前を迎えにこれた」
「僕を?」
「そうだ。王命により内密にことを運ばねばならなかった。だから、隠密と私の二人のみの特別部隊だ」
「あれ? そうだっけ?」
前世での第三殿下は王族の第三王位継承者だった筈。その為に僕は将来の殿下の妃として勉強をしていたのだ。殿下は公務をこなしていた。
ギルドランクがSなのも、王位継承権を放棄していることと言い、この世界は僕が居た前の世界とは違うようだ。
僕が救世主として呼び出されている時点で色々と食い違っている。
「…さて、もう少し歩こうか。予定より進んではいるが、この辺りは岩肌が見えている場所ばかりだ。テントを張るに適した場所があればいいのだが…」
広げていた荷物を片付け、午後の森歩きが再開した。
息が切れるけど、そこまで大した疲労じゃない。目を覚ました精霊達が加護を与えにやってくるから少しは疲れても癒えているのかもしれない。
てっぺんに昇っていた太陽が随分と下がり、そろそろ夕焼けになりそうな時間帯に漸くテントを張れるくらいに広くて、平たんで地面の岩も出ていない場所に出た。
シシェルが鞄から二人が寝るには些か大きすぎるんじゃないかというテントを取り出し、手際よく組み立てていく。外側が出来た後は、すぐに中に入ってあれこれと出しているようでテントがガタガタと揺れている。
僕はその間に辺りに散らばっている薪を拾い、焚き火を作る。魔法で火をつけて、昨日商店で買った冒険者便利グッズである鍋を設置する為のポットハンガーを置いて水を入れてインベントリに仕舞っていた魔獣の肉と野菜を取り出し、具沢山のポトフを作り、おにぎりに醤油を塗り串に刺して表面を炙って回りに突き刺して保温状態にしておいた。
醤油の焼ける匂いに釣られたのか、シシェルがテントからひょこっと顔をだして、香ばしい匂いの元を辿ろうとして、僕とパチリと目があった。
「もう少しでご飯出来ますが、どうします?」
「此方もあらかた終わった所だ。頂こう」
匂いに釣られたのか恥ずかしかったのか、少し俯き加減のシシェルだったがそれからの行動はとても早くて僕の隣に組み立てる簡易の小さな椅子を二つ置いた。
おにぎりが好きなシシェルは焼きおにぎりにも興味津々のようだ。
その可愛らしさに思わずコッソリ笑ってしまった。
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