木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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最終章 木こりと騎士は……

第547話 ノルベルト・インベック⑤

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 ※ノルベルト視点です。



 ――親父の言葉で、タウンハウスの奴らも俺の傀儡にすることに決めてから数日後。

 ついに俺がインベック伯爵家を継ぐ日が来た。

 夜会の時にしか使われない大広間に温かな日の光が差し込み、それが俺と親父と立会人である弟を照らす。

 貴族にとって、爵位継承は最も重大な儀式。

 そのため、大半の貴族は当主の交代が行われる際、新たな当主の顔合わせと兼ねて屋敷の使用人達やその家と関わりがある貴族を呼んで、立会人を執事に任せている。

 だが、親父の意向で爵位継承の儀式を俺たち3人だけで済ませ、使用人達や他の貴族には継承を済ませた後で顔合わせをすることになった。

 きっと、俺の改竄魔法を恐れてのことだろう。

 全く、親父にバレたあの日から領地にも行っていないし、改竄魔法なんて使っていない。

 とはいえ、それも今日で終わりだが。

 ちなみに、おふくろとダリアは使用人達と一緒にインベック家に来る貴族をもてなす準備をしている。


「ノルベルト・インベック。お前を新たなインベック伯爵家当主とする」


 爵位継承の際に使われる誓約書が置かれた小さなテーブルを挟み、当主らしい威厳たっぷりの声で俺を新たなインベック家当主に任命し、誓約書にサインをした親父。

 その顔には、不安と不満が入り混じっていた。


「はい、このノルベルト・インベック。『王国の陰』として、インベック家の当主として、この家を守ると同時に、国の忠臣として尽くすことを誓います」


 親父と弟に冷たい目を向けられる中、深々と頭を下げた俺は、数日前に親父から叩き込まれた口上をつらつらと口にすると、頭を上げて誓約書にサインをする。

 する、誓約書が淡く光り、テーブルの上から儚く消えた。

 実は、爵位継承の際に使われる誓約書には転移魔法が付与されており、新旧の当主が誓約書にサインした瞬間、王城へ送られる仕組みになっている。

 そして爵位継承の翌日、新旧当主は謁見の間を訪れ、旧当主は最後の仕事として国王に当主が代替わりしたことを報告し、新当主は最初の仕事として顔合わせを兼ねて国王に挨拶をするのだ。

 テーブルの上から誓約書が消えた瞬間、強ばっていた親父の表情が一気に緩む。


「フゥ、これで一先ず終わりだな。本当は、お前にインベック家を継がせたくは無かったのだが」
「フッ、言われてた通りちゃんと大人しくしたんだからいい加減認めろよ」
「クッ、相変わらず口の減らない奴め」
「ハッ、それが新当主に対する態度なのかよ。この隠居ジジイが」


 すると、親父が鋭く俺を睨む。


「爵位はお前に譲った。だから、さっさと部屋を出ろ。これから、お前の弟に大切な引継ぎをしないといけないからな」
「チッ!」


 苛立ちを露にする親父に言われ、少しだけムカつきつつ、大人しく外に出る。

 すると、部屋の外に控えていた執事が俺と入れ違いで部屋に入り、内側から鍵がかけられた。

 本当に用心深い親父だな。だが、甘い。

 ニヤリと笑みを浮かべた俺は、足音を立てながら自分の部屋に戻ると、気配遮断魔法が付与されたローブに身を包み、そそくさと外に出る。

 そして、足音を立てずに大広間の扉の前に戻ると、そっと耳を澄ませた。

 すると、扉の向こうから親父の声が聞こえた。

 俺の愚痴を一通り零した親父は、執事から結界の管理に関する誓約書を渡すように指示を出す。

 よし、今だ!

 闇商人から買ったピッキング用の魔道具を使い、厳重に閉じられた扉の鍵を開けた俺は少しだけ扉を開ける。

 そして、親父と愚弟が誓約書にサインをし終えたタイミングで部屋に押し入った。


「ノルベルト! どうしてここに!?」
「なぁ、それって結界の引継ぎだよなぁ!?」
「「「っ!?」」」


 3人の唖然とする顔を見て、笑みを浮かべた俺は、驚いて動けなくなっている3人に向かって黒い魔法陣を展開する。


「兄さん!」
「ノルベルト! 何をしている!」
「『何を』ってもちろん、その魔法陣を俺のものにするんだよ! バーーカ!!」


 この日を、この時をずっと待っていた!!


「ノルベルト! 貴様、分かっているのか!? 闇魔法使いは同じ闇魔法使いに闇魔法をかけることは出来ないことを!」
「それに、ここで僕たちを傀儡にしたら、インベック家が管理している結界がどこにある一生分からなくなるよ!」


 そんなこと、最初から分かっている。

 だから、俺はこの瞬間を待っていたんだ!
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