木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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最終章 木こりと騎士は……

第556話 裁きの時

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 涙を流しながら訴える娘の顔を見て、在りし日のことを思い出したノルベルトは顔を歪ませると静かに俯く。


「だが、それでも俺は、奪われたものを取り返すために……」
「あなた……」
「親父……」


 過去に囚われているノルベルトを見て、カルミアとリアンは揃って悔しそうに下唇を噛む。
 それを見たリュシアンは、小さく溜息をつくとダリア達に話しかける。


「もう分かっているかもしれないが、今のノルベルトにお前達の言葉は届いていない」
「パパ……」


 (私、パパの娘なのに)

 幼い頃からノルベルトとあまり会う機会が少なかったダリア。
 それでも、兄や自分の話を聞いてくれて、時には色んなことを教えてくれたノルベルトは、間違いなく尊敬する父だった。

 そんな父が改竄魔法を使って世界征服をしようとしていると知った時、ダリアは父の愚かな思惑を止めたくて、母や兄と共に帰ってきたばかりのノルベルトを説得しようとした。

 だが、レクシャから宰相の座を奪い、愉悦に浸っていたノルベルトは、煩わしい家族を黙らせようと問答無用で改竄魔法をダリア達にかけた。

 その結果、ダリアはリアンやカルミアと共に今日まで彼の駒として従順に従っていた。

 『改竄魔法』という闇魔法と忌まわしい過去に囚われたノルベルトのブツブツと何かを呟いている姿に、ショックを受けたダリアは気を失い、他の2人も悔し気に目を背けて口を噤んだ。


「ダリア……」


 涙に濡れた顔で気を失ったダリアに、フリージアが静かに胸を痛めていた時、小さく息を吐いたレクシャはリュシアンに目を向ける。


「リュシアン、この子たちを連れて戻ってくれ」
「良いのですか?」
「あぁ、大丈夫だ」


 いつになく真剣な眼差しを向けるレクシャに、僅かに眉を顰めたリュシアンはギュッと拳を握るとレクシャに背を向ける。


「……分かりました。お気をつけて」
「もちろんだ」


 父の返事を背に受けたリュシアンは、フリージア達に声をかけるとそのままアリーナの出入口まで戻って行った。
 それを見届けたレクシャは、ノルベルトに剣を向けているディロイスとアイコンタクトを交わすと国王の前で跪いて深く首を垂れる。


「陛下。『魔力干渉』を使用してもよろしいでしょうか?」


 その瞬間、周囲の空気が一気に張り詰めたものに変わる。

 魔力干渉。それは、相手の体に触れ、相手の体内にある魔力を全て無効化する術である。
 しかし、体内にある魔力を全て無効化するため、膨大な魔力が必要とされ、場合によっては相手だけでなく自分の命も賭してしまう。
 そのため、サザランス公爵家では当主しか使うことしか許されておらず、術を使う時は必ず国王の許可を得なければならない。

 臣下らしく粛々と願い出るレクシャに、僅かに眉を潜ませた国王は拳を握ると静かに目を閉じる。

 (本当はこのような術を使って欲しくない。だが、ここでノルベルトを放っておくわけにはいかない)

 深く息を吐いた国王は、覚悟を決めたように目を開けるとレクシャに向かって静かに頷く。


「もちろんだとも。そのために我がここにいるのだから」
「ありがとうございます」


 深々と頭を下げたレクシャは、静かに立ち上がるとノルベルトの前に立つ。


「俺は悪くない。俺は全てを取り戻しただけだ。俺は……」
「…………」


 (これは完全に壊れているな)


「改竄魔法という魔法は、やはり恐ろしい魔法だな」


 (相手だけでなく術者自身の心も壊してしまうのだから)

 改竄魔法の使い過ぎで完全に現実逃避をしているノルベルトに、憐れみの目を向けたレクシャは、歯で親指を切って血を出す。
 そして、その血でもう片方の手に小さく盾の絵を描くと、そのまま盾の絵を描いた手をノルベルトの肩に置く。

 これは、魔力干渉を使う際の儀式である。

 (待っていろ。今楽にしてやる)


「公爵様」
「あなた」
「あぁ」


 ディロイスとティアーヌの声に背中を押され、深く息を吐いたレクシャは、静かに目を閉じると魔力干渉用の詠唱をする。


「我が血を以って、この者の魔力を無効化せよ。《魔力干渉》」


 その瞬間、レクシャの体から膨大な透明な魔力が溢れ出して渦となり、ノルベルトとレクシャを包み込んだ。
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