木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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最終章 木こりと騎士は……

第557話 《魔力干渉》

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「うわぁ――――――――――――――!!」


 (痛い痛い痛い痛い!!! 苦しい苦しい苦しい!! 早く解放してくれ!!)


 レクシャの体から放出された透明な魔力がノルベルトとレクシャを包み込んだ瞬間、ノルベルトの体に無数の鋭利な針が突き刺さったかのような激痛が走り、ノルベルトは堪らずコロッセオに響き渡る絶叫を上げる。

 その声に国王達が思わず耳を塞ぐ中、目の前にいたレクシャは必死の形相でノルベルトの肩に手を置き続ける。

 (まさか、約300年前と同じことをすることになるとは)

 約300年前、有力貴族を操って帝国に攻め入ったとして、王城で指揮を執っていた当時の宰相が帝国騎士によって捕らえられた。

 その際、宰相に二度と魔法を使わせないよう、当時のサザランス侯爵家の次男であり、初代サザランス公爵家の当主が魔力干渉で宰相の魔力を全て無効化した。

 帝国では、大罪を犯した者に対して必ず魔力干渉で魔力を無効化してから留置所に入れられ裁判を受けている。

 サザランス侯爵家が『帝国の死神』と呼ばれ恐れられる所以も、魔力干渉が使えることが一端としてある。

 ちなみに、王国では国王の許可が降りた場合と王命があった場合に使うよう王族とサザランス公爵家の間で取り決めがされている。


「うぐっ」
「サザランス公爵様!」


 顔を歪めたレクシャに、ディロイスが慌てて声をかけると、レクシャがゆっくりと後ろを振り返る。


「大丈夫だ! だから、陛下と妻を守ってくれ!」
「は、はい!」


 ディロイスに2人を託したレクシャは、そっとディロイスの後ろにいる2人に目をやる。
 そこには、毅然とした表情でこちらを見つつも、手の震えを必死に抑えている妻と国王がいた。

 (お優しい陛下のことだ。本当は私がこの魔法を使うことを良しとしなかったに違いない)

 幼い頃から国王の側近として傍にいたレクシャは、国王が為政者としての冷酷さがありつつも、常に民のために……特に、平民のために尽力する心優しい人あることを知っていた。

 だからこそ、レクシャに魔力干渉を遣わせる判断は、国王としての最善の判断であり、友人のように親しくしていた者としての半田ではないことは分かっていた。

 (そして、ティアーヌ。君にそんな顔をさせてしまいすまない)

 学生時代に、勝気で負けず嫌いの淑女として強かなティアーヌに惹かれたレクシャは、彼女に猛アプローチをした末に婚約を結び、学園を卒業と同時に結婚した。

 当然、ティアーヌはレクシャが未来の宰相であり、無効化魔法しか使えないことを知っていた。

 けれど、彼の穏やかで優しい人柄と、誰よりも国のことを考えている真面目さ、そしてたまにおっちょこちょいをしてしまうところに惚れてしまい、侯爵令嬢だったティアーヌは彼と共に生きる決意をした。

 彼なら、どんなことがあっても妻や子ども達のことを大切にしてくれると思ったから。

 だからこそ、ティアーヌは宰相家の妻として、彼の最期になるかもしれない姿を見届ける。

 それが、サザランス公爵家に嫁いできた者の宿命であることは、レクシャと婚約を結んだ際に前サザランス公爵夫人から教えてもらっていた。

 (それでも、私はあなたに生きていて欲しい。私はあなたと一緒に最期を添い遂げたいから)

 苦しい表情の夫が無事に生還することを願い、ティアーヌは決して目を逸らすことなくレクシャを見守る。

 そんな妻と国王を見たレクシャは、小さく下唇を噛むと視線をノルベルトに戻す。

 すると、絶叫を上げていたノルベルトが急に大人しくなると静かに口を開く。


「俺が」
「えっ?」
「俺が、一体何をした?」


 顔を歪めながら呟いたノルベルトは、虚ろな目をレクシャに向ける。


「俺はただ、奪われたものを取り返したかった。ただ、それだけだったのに……!」


 魔力を奪われても尚、同じことを口にするノルベルトの頬に涙が伝う。

 その様子はまるで、親に𠮟られた後の幼子のようだった。

 そこでレクシャはようやく気がつく。

 (あぁ、こいつは改竄魔法を授かったと分かった時のまま成長してしまったのだな)

 物心ついた頃に改竄魔法のことを知ってから、ノルベルトは『改竄魔法のせいで奪われたものを取り戻す』という大いなる目的のために、ひたすら魔法を磨いて周囲にいる人間を巻き込んだ。

 それが、どのような厄災を招くのかよく分からないまま。

 (なんと哀れな男だ。『改竄魔法』という曰く付きの魔法を授かったばかりに、こいつの運命は大きく捻じ曲げられた。だからこそ……)


「もう休め。貴様が取り戻したいものはもうどこにもないことくらい、貴様自身がよく分かっているはずだ」
「うわぁ―――――――――――――――――!」


 (そうだ、本当は無かったんだ。こいつが……ノルベルト・インベック自身が取り戻したかったものなんてどこにも無かったんだ)

 レクシャは理解してしまった。

 彼はただ『改竄魔法』という闇魔法に踊らされ、過去の大罪が自分の宿命だと勘違いしてしまっただけだったのだと。

 それを取り戻したい気持ちは、全てを奪われたレクシャでも分からなくもなかった。

 だが、それは改竄魔法が見せた幻想であり、ノルベルト・インベック自身が望んだことでない。

 彼はただ、幻想に囚われてしまっただけだったのだ。

 ここにきてようやく、レクシャはノルベルトが『改竄魔法』という魔法に囚われていたのはノルベルト自身であったことを理解したのだった。

 (やはり、改竄魔法という魔法は末恐ろしい魔法だな)

 幼子を諭すレクシャが優しくノルベルトに話しかけた瞬間、レクシャを見たノルベルトが嬉しそうな笑みを浮かべる。
 そして、透明な魔力の渦が消えた瞬間、ノルベルトとレクシャは一緒に地面に伏した。
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