木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第1章 木こりと騎士は再会する

第36話 騎士の矜持と協力者

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「それにしても、駐屯地近くに小さな村があるんですね」


 グレアが地図に記載されていた村を指差すと、書類から顔を上げたフェビルが小さく頷く。


「あぁ、確か『リアスタ村』という村で、農業が盛んなのどかな村らしいだぞ」
「そうなんですね。駐屯地からも近いですし、村からの物資提供を事前に依頼しておけば、万が一、駐屯地の物資が尽きたとしても問題なさそうですね」
「おいおい、行く前から物資が尽きること前提かよ」


 酷くつまらなそうな顔をするフェビルを見て、僅かに眉を顰めたグレアは小さく眼鏡を上げる。


「あくまでもです。最初から物資提供を前提に訓練に行く人がいますか」


 呆れたような顔で肩を竦めたグレアに、持っていた書類を静かに置いたフェビルは、そっと笑みを潜めると突然前かがみの姿勢になった。


「それが、残念なことにいたようだ」




「それは、本当なのですか? 団長」


 (騎士と認められた者が、他人に頼ること前提に駐屯地で訓練に行くなんて)

 団長の話を聞いたグレアは、思わず言葉を失う。
 そんな彼に、酷く苦い顔で頷いたフェビルが口を開いた。


「何でも、村に住んでいる平民達を甚振りたいがために、わざと1日分しか用意せず、残りの訓練日数は村から物資を提供……いや、強奪して訓練をこなしていたらしい」
「何たることを!」


 (騎士の風上にもおけない愚かな所業だ!)

 怒りで顔を歪ませるグレアに対し、そっと目を伏せたフェビルは話を続ける。


「それも、その駐屯地で訓練がある度に行われていたらしい」
「……つまり、彼らは訓練目的ではなく娯楽目的で駐屯地に行ったってわけですか?」
「そういうことだな」
「くっ!!」


 強く拳を握ったグレアは、ソファーから立ち上がるとそのまま部屋を出て行こうとした。


「おい、待て。打ち合わせはまだ終わってないぞ」
「ですが!」


 (こいつ、冷静沈着のように見えるけど実は俺以上に正義感に溢れているやつなんだよな)

 普段は団長の無茶無謀にも冷静に対応しているグレア。
 だがフェビルは、グレアこそが誰よりも騎士としての熱い心を持っていると確信していた。

 (実際、こいつが組んだ訓練メニューは団長である俺でも勘弁して欲しいと思うくらいキツイからな。だからこそ、魔物相手でも容易に戦える騎士が出来るのだろうが)

 故にフェビルは、ぬるま湯のような訓練をこなしながら、嬉々とした顔で平民を甚振っている王都の騎士達を、グレアが許すはずがないと容易に想像がついた。


 今すぐにでも王都の騎士達全員に鉄槌を下さんと息巻いているグレアに、フェビルは深く溜息をついた。


「お前の気持ちは分かる。俺もヴィルマン侯爵様からこの話を聞いた時は怒りで我を忘れた」
「ヴィルマン侯爵からこの話を聞いたのですか?」
「あぁ、実は今回の訓練にあたり、ヴィルマン侯爵様に訓練場所の相談をしていたんだ」
「そうだったのですね。その時に、村の話を……」
「そうだ」


 いつになく真剣な表情をするフェビルを見て、怒りに身を任せてそうになったグレアは冷静さを取り戻す。

 (いつもは大雑把で、細かいことは気にしない団長が怒りを露にするなんて)

 扉に背を向けたグレアに、フェビルはニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「だから言っただろ? 『騎士達の根性を叩き直すための訓練だ』って」




「ところでお前、どうしてこの場所を今回の訓練場所にしたか分かるか?」


 ソファーに戻ったグレアが再び書類に目を通していると、フェビルが突然、グレアに質問を投げた。


「いえ、全く。そもそも、このような辺境近くに駐屯地があったことすら知りませんでしたし」


 (第二騎士団にいた頃は、毎日のように魔物討伐に明け暮れていたから、ペトロート王国の駐屯地を把握する余裕がありませんでした)

 首を横に振ったグレアに、小さく溜息をついたフェビルが書類に視線を戻す。


「まぁ、俺も王都に来てから知ったから、お前が知らなくても無理もないだろうが……実は、この駐屯地近くにある森が、この国で一番魔物が出没しない場所らしい」
「えっ、それは本当ですか!?」


 (国の周りを森に囲まれたペトロート王国でそんな場所があるのですか!?)

 驚きの声をあげたグレアが顔を上げると、視線をグレアに向けたフェビルが静かに頷いた。


「さっき、『ヴィルマン侯爵様に訓練場所を相談した』って話をしただろ?」
「そうでしたね」


 (本当は、ヴィルマン侯爵よりも先に陛下に相談をして欲しかったのですが)


「その時に、この駐屯地をおすすめされたんだ」
「なるほど。『王国の盾』であるヴィルマン侯爵様からの推薦なら間違いありませんね」
「そうだな」


 王国建国当初から仕えているヴィルマン侯爵家は、フェビルの実家であるシュタール辺境伯家と同じく武に秀でている家で、王族と国に深い忠誠を誓っている王侯貴族である。
 そして、歴代近衛騎士団長は大半がヴィルマン侯爵家からの出身であることから、貴族の間では『王国の盾』と呼ばれている。
 ちなみに、ヴィルマン侯爵家はメストの実家でもあり、フェビルを近衛騎士団長に推薦したのはヴィルマン侯爵である。


「ヴィルマン侯爵様も騎士団の愚行には頭を悩ませていたようだ。まぁ、俺としては前の場所にしたかったんだが」
「それだと、王都勤めの騎士達が全員魔物の餌食になって、こちらの負担が増えるだけです」
「だろうな。それを加味して、騎士団の再教育の場にこの駐屯地を出したのだろう」


 心底疲れた顔をするフェビルをよそに、納得した表情のグレアが再び地図に視線を落とすとあることに気づく。
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