木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第1章 木こりと騎士は再会する

第59話 させない!!

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「ハアッ!!」
「っ!」


 一切隙を与えない猛攻をギリギリで躱していく木こりに、メストは内心驚愕。

 メストは、今まで木こりの身のこなしは間近で3回見てきた。
 だが、初めて木こりと間近で対峙して剣を振ったメストは、木こりの回避技が身のこなしだけではないことに気づく。
 
 木こりが、攻撃を繰り出すメストの表情や体の動きを一瞬たりとも見逃さず、彼の体や目の動きから次の攻撃を予測し、どのように回避して距離を取るか考えて体を動かしている。
 
 これらは、騎士の求められる最低限のものであり、一朝一夕で身につくものではないものを知っているメストは、木こりが日頃から鍛錬をしていることを察した。
 
 (なるほど、だから王都勤めの騎士では歯が立たないのか。なにせ、相手は平民の皮を被った騎士なのだから。日頃の鍛錬を怠り、平民に暴挙を働いている彼らが勝てるはず相手ではない。それに、彼の回避技が、まるで揺れる木の葉か俊敏な猫みたいで手ごたえが全く……あれっ?)

 普段は無表情の木こりが、珍しく表情を露にしているところを見ながら、メストが鋭い剣裁きを繰り出していると、不意に幼い頃の記憶が脳裏に蘇る。


『お前、まるで俊敏な猫みたいだな』
『フフッ、それはどうも』


 (これは……俺が幼い頃に婚約者の屋敷の庭で鍛錬していた時の記憶だ。そして、木剣を持ったまま尻餅をついている俺に向かって、勝気な笑みで木剣の切っ先を向ける少女は……)


「銀髪の髪に、淡い緑色の瞳?」
「っ!?」


 一瞬だけ動きを止めたメストから大きく距離を取った木こりは、呆然とした表情でこちらを見る彼が零した言葉に思わず目を見開く。

 (まさか……ダメッ!!)


「やらせない、させないわ」


 険しい顔をした木こりが小さく呟くと、立ち尽くしているメストに向かって姿勢を低くしながら一直線で駆ける。

 (これ以上、奪わせない!!)

 メストの前で思い切り飛び上がった木こりは、彼の精悍な顔に向かって本気の飛び蹴りをかます。


「うわっ!!」


 木こりの飛び蹴りに気づいたメストが慌てて横に避けた。


「はぁ、もう少しで私の勝ちでしたのに」
「それにしたって、飛び蹴りで終わりは無いだろうが! しかも、顔面に向かって!」


 メストから飛び蹴りを躱され、華麗に着地した木こりは、立ち上がって手についた土を綺麗に払って振り返ると、顔を真っ赤にしているメストの声をかける。


「それは、あなた様が突然動きを止めましたから、『これは、あなた様なりの降参の仕方かな』と思いましたので」
「だからといって、飛び蹴りをするやつがいるかよ」
「いますよ。あなた様の目の前に」
「あ、あぁ……」


 (そう言えば、俺の目の前にいる人は、常日頃悪徳騎士と渡り合あっている人だった)

 レイピアを持ったワケアリ木こりが、騎士相手でも容易に飛び蹴りをかます人だと思い出したメストは、大きく溜息をつくと剣を持っていない手で頭を掻きむしった。


「まぁ、俺が剣を振るのを止めたのが原因だ。騎士として情けないところを見せてしまった。申し訳ない」
「良いですよ。負けを認めていただけましたら」
「それは出来ない。まだ戦えるからな」


 (あの時、俺は剣を振るのを止めたが……いや、今は目の前のことに集中しよう。こちらから手合わせをお願いしたんだ。このまま終わるわけにはいかない!)

 剣を止めた時、何を思い出したのかメストは、自分の落ち度を認めて木こりに向かって潔く頭を下げ、ゆっくりと顔を上げると再び剣を構える。

 (そう、あなたは今のままでいい……そんななんて忘れて)

 真剣な表情で剣を構えるメストを見て、一瞬笑みを浮かべた木こりは、表情を無に戻すと相手を見据える。


『良いか、対峙した時は絶対に相手から目を逸らしてはならない。例え、どんなに苦しい状況でも、相手から目を逸らさなければ必ず活路は見出せる』


 (分かっています、)


「行くぞ」
「いつでもどうぞ」


 幼い頃に言われた言葉を胸に、木こりは再開されたメストの猛攻を躱す。
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