木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第1章 木こりと騎士は再会する

第58話 いざ、手合わせ!

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「どういうことだ?」


 冷たい目をした木こりからの安い挑発に、険しい顔したメストが地を這うような低い声で威嚇するように問い質す。
 そんな彼を見て、少しだけ胸を痛めた木こりは、無表情を保ったままメストとシトリンから距離をとる。


「言葉を通りです。私には、近衛騎士のあなた様が私からレイピアを抜けさせる実力がある人とは思えないのです」
「……つまり、俺がアルジムやリースタと同じくらいの騎士だと思っているのか?」
「そうですね」
「クッ!」


 (あいつらと同じくらいだと思われていたとは……随分と嘗められたものだな)

 木こりから屈辱を受けて、思わず下唇を噛んだメストは、木こりを睨みつけると鞘から両手剣を引きに抜いた。

 (そう、そうやって私のことを嫌いになって。そして、これを最後に2度と関わらないで。そうじゃないと、私は……)

 殺気を放つメストに一瞬笑みを浮かべた木こりは、表情を無に戻すとシトリン目を向けた。


「では、始めましょうか?」
「そうだね。君の安い挑発のお陰で、うちの隊長様がやる気十分になったし」


 そう言って、シトリンは片手を大きく上げた。

 
「ルールはさっき言った通りなんだけど、追加ルールとして決闘中は魔力の使用は禁止。使った時点でその人は負けってことで。2人とも、それで良いかな?」
「大丈夫です」
「あぁ、さっきは文句を言ったが……彼が良いなら問題ない」


 (騎士としては大変不服だが……彼がそれで良いなら構わない! それに、俺は最初から剣一本で挑むつもりだ!)

 無表情で相手を見つめる木こりに、メストは僅かに笑みを浮かべると剣を構えた。


「悪いが、さっきの言葉で手加減が出来なくなった」
「良いですよ。それであなたが私からレイピアを抜けるなら」
「フッ、言ってくれるな」


 鬱蒼とした森に陽光差し込み心地よい風が吹く。
 そんな穏やかな時間が流れる場所で、殺気が溢れ出る木こりとメストは互いに相手から目を逸らず静かに姿勢を低くする。
 

「すぐ倒れるなよ」
「もちろん。私としては、あっさり降参していただけるとありがたいのですが」
「そんな無様なこと、するわけない」


 無表情のまま武器を持たない木こりと、獲物を狙う野獣のようなぎらついた表情で剣を構えるメスト。
 その2人の間に少しだけ沈黙が流れた瞬間、シトリンの手を叩く音が響き渡る。


「それでは、はじめ!!」


 ◇◇◇◇◇

 
「フッ!」
「っ!?」


 シトリンが合図を告げると同時に、大きく踏み込んだメストが前に出ると、木こりとの距離を一瞬で詰め、無駄の無い動きで両手剣を振り下ろす。

 (は、早い!)

 一瞬の隙も許さない彼の俊敏な動きに、思わず目を見開いた木こりは、咄嗟に体を横にして振り下ろされた剣を間一髪で躱すと距離を取る。


「やりますね。今の攻撃で、あなた様が今まで出会った騎士様達と段違いの強さを持っていることは理解しましたよ」
「それはどうも。そっちこそ、あの初撃を躱すとはさすがだな。あの一撃で仕留めるつもりだったはずが……あぁ、一応言っておくが強化魔法は使ってないぞ」
「分かっています。あなた様が魔法陣は出していないことは分かっていましたから」
「そうか」

 
 苦笑しながら剣を構えるメストに対し、無表情の木こりは内心冷や汗を掻いた。

 (踏み込みからの距離の詰め方、そこから迷いのない剣裁き。一瞬でも躱すタイミングを見誤っていたら、今の一撃で決着がついていたわ……彼の勝利で)

 1つの部隊を任されるに相応しい、洗練された無駄のない一撃を繰り出すメストに、危機感を覚えた木こりは彼から更に距離を取ろうと一歩だけ下がる。


「だが、これからは距離を取る余裕を無くすほど攻めていくからな!」
「っ!」


 一瞬笑みを浮かべたメストは、再び木こりとの距離を詰めると両手剣を振りかざす。

 (クッ、この攻撃も無駄がない。でも、さっきの一撃である程度掴めたから大丈夫)

 たった一撃でメストの攻撃パターンを掴んだ木こりが、振りかざされた剣を余裕で躱すと距離をとろうとした。
 だが……


「言ったはずだ、『距離は取る余裕を無くす』と!」
「っ!?」


 攻撃を躱されたメストが、すぐさま体勢を立て直して追撃を入れたのを皮切りに、メストは鋭い剣裁きで木こりを肉薄にしていく。


「フッ! ハッ! ハアッ!!」
「っ!!」


 (今まで無駄の多い騎士達の攻撃を難なく躱し続けてきたけど……これが、本物の騎士の実力ってこと?)

 過酷な鍛錬や幾多の任務をこなしているメストの剣裁きは、騎士団内でもトップクラスの強さを誇っている。
 そんな情報を知らない木こりは、無表情から少しだけ苦悶の表情をしながら紙一重で躱し続ける。


 そうして暫くの間、辺り一帯には剣を振る音と2人の息遣いが支配した。
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