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第2章 木こりと騎士は鍛錬する
第102話 平民の魔道具
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鍛錬で掻いた汗を流し、メストと一緒に朝食を食べたカミルは、手早く片付けてステインのご飯を準備すると、メストと2人で外に出る。
「では今から、仕事を始めます」
「はい、よろしくお願いします!」
そして、いつものようにステインのご飯をあげたカミルは、律儀に頭を下げるメストに小さく笑みを零すと、馬小屋近くに置いてある使い込まれた斧を持つ。
すると、カミルの持っている斧に興味を持ってメストが腰を屈ませる。
「これが、カミルが毎日使っている斧か。でも、俺が知っている斧とは少し違う気がする」
(まぁ、俺が知っている斧は所謂『戦斧』って呼ばれるものだが、それにしては明らかに作りの違う気がする)
まじまじと斧を見つめるメストに、カミルが斧の持っている手とは反対の手でズボンのポケットから何かを取り出すと、それをメストに見せる。
「それは、これを使うからでしょう」
「魔石?」
(それも、汎用性の高い無色透明の魔石だ)
「はい。恐らく、あなた様を知っている斧は、魔力を必要とする物だと思います。主に騎士様が実践や訓練用に使う」
「あぁ、そうだ」
(でも、どうしてそれを平民のカミルが知っているんだ?)
メストの中でカミルの謎が更に深まっているとは知らず、カミルは刃と柄の接合部分の窪みに魔石を嵌め込む。
「ですが、魔力が少ない平民は、そのような物を扱えませんので、このような魔石を嵌めて使う斧を使っています。これなら、魔力の少ない平民でも効率良く木を切ることが出来ますので」
「なる、ほど」
(でも、カミルが保有している魔力量は、俺の知っている平民に比べたら明らかに多いはず……あれっ?)
カミルの説明に納得しつつも別の疑問が浮かび、メストは内心首を傾げていると、不意に斧の柄に刻まれている国旗が目に入った。
「なぁ、カミル」
「何でしょう?」
「この斧って、もしかして隣国で作れられたものなのか?」
「はい。どうやら隣国では、平民に優しい魔道具が数多く開発されているらしいので、この国の平民の間では隣国で作られた魔道具が広く普及されています」
「そう、なんだな」
(確か、隣国のフィアンツ帝国は、ペトロート王国と同じく魔法技術が発展している大国だ。そのため、フィツアン帝国とペトロート王国は古くから友好関係である……いや、『だった』か)
「だが、どうしてペトロート王国の魔道具を使わないんだ? こう言っては何だが、隣国から輸入された物より自国で作った物の方が安く手に入るんじゃないのか?」
何の気なしに言ったメストの疑問に、カミルは一瞬顔を強張らせる。
そして、心底呆れたように大きく溜息をつく。
「あなた様は、本当にお貴族様なのですね」
「は?」
突然、カミルから冷たく貴族であることを貶されて、眉を顰めてメストが思わず顔を上げる。
すると、冷たい目で見下ろすカミルと目が合い、息を呑んだメストは顔を引き攣らす。
そんな彼を見て、小さく溜息をついたカミルは視線を斧に戻す。
「あなた様はご存知ないでしょうけど、この国では王族や貴族向けにしか魔道具が作られていないのです」
「は?」
(我が国では王族や貴族向けにしか魔道具が作られていないだと?)
言葉を失うメストに、カミルは話を続ける。
「あなた様が、この魔道具の存在を知らなかったのは、あなた様がこの国で作られた魔道具しか見たことが無かったからだと思われますが……ですので、平民は隣国の比較的安価な魔道具を使うしかないのです」
「そう、なのか……でもなぜ、この国で平民向けの魔道具が作られないんだ?」
(魔道具を家具や装飾品程度にしか思っていない貴族に比べたら、平民の方が圧倒的に魔道具を使っているから需要があるはずなのだが……)
眉間の皺が深くなるメストを一瞥し、『本当に知らないのね』と小さく肩を竦めたカミルは、どこか遠い目をしながら木々の隙間から見える空を仰ぐ。
「さぁ、平民の私にはよく分かりませんが……恐らく、平民に売るより貴族や王族に売った方が、確実に儲けが出るからでしょう」
「そんな……」
(そんなの、あんまりすぎるだろうが)
淡々とした口調で語られたカミルの推測を聞いて、悔しそうに顔を歪ませたメストはゆっくりと拳を握った。
「……本当、あなた様は優しい方ですね」
(騎士であり貴族であるはずなのに、平民が受けている理不尽をまるで自分のことのように怒っている)
怒りを滲ませる彼に、蚊の鳴くような小声で呟いたカミルは一瞬笑みを零すと斧を持ったまま彼に背を向ける。
「さて、お喋りはここまでにして仕事を始めましょう。でないと、王都に持って行く時間が無くなってしまいますから」
「あ、あぁ……分かった」
(どうして、カミルは……いや、この国の平民はここまで虐げられないといけないんだ)
凛とした姿勢で森の中を歩いていくカミルを見て、こみ上げてきた荒ぶる感情を拳に込めたメストは、小さく息を吐くとカミルについて行った。
「では今から、仕事を始めます」
「はい、よろしくお願いします!」
そして、いつものようにステインのご飯をあげたカミルは、律儀に頭を下げるメストに小さく笑みを零すと、馬小屋近くに置いてある使い込まれた斧を持つ。
すると、カミルの持っている斧に興味を持ってメストが腰を屈ませる。
「これが、カミルが毎日使っている斧か。でも、俺が知っている斧とは少し違う気がする」
(まぁ、俺が知っている斧は所謂『戦斧』って呼ばれるものだが、それにしては明らかに作りの違う気がする)
まじまじと斧を見つめるメストに、カミルが斧の持っている手とは反対の手でズボンのポケットから何かを取り出すと、それをメストに見せる。
「それは、これを使うからでしょう」
「魔石?」
(それも、汎用性の高い無色透明の魔石だ)
「はい。恐らく、あなた様を知っている斧は、魔力を必要とする物だと思います。主に騎士様が実践や訓練用に使う」
「あぁ、そうだ」
(でも、どうしてそれを平民のカミルが知っているんだ?)
メストの中でカミルの謎が更に深まっているとは知らず、カミルは刃と柄の接合部分の窪みに魔石を嵌め込む。
「ですが、魔力が少ない平民は、そのような物を扱えませんので、このような魔石を嵌めて使う斧を使っています。これなら、魔力の少ない平民でも効率良く木を切ることが出来ますので」
「なる、ほど」
(でも、カミルが保有している魔力量は、俺の知っている平民に比べたら明らかに多いはず……あれっ?)
カミルの説明に納得しつつも別の疑問が浮かび、メストは内心首を傾げていると、不意に斧の柄に刻まれている国旗が目に入った。
「なぁ、カミル」
「何でしょう?」
「この斧って、もしかして隣国で作れられたものなのか?」
「はい。どうやら隣国では、平民に優しい魔道具が数多く開発されているらしいので、この国の平民の間では隣国で作られた魔道具が広く普及されています」
「そう、なんだな」
(確か、隣国のフィアンツ帝国は、ペトロート王国と同じく魔法技術が発展している大国だ。そのため、フィツアン帝国とペトロート王国は古くから友好関係である……いや、『だった』か)
「だが、どうしてペトロート王国の魔道具を使わないんだ? こう言っては何だが、隣国から輸入された物より自国で作った物の方が安く手に入るんじゃないのか?」
何の気なしに言ったメストの疑問に、カミルは一瞬顔を強張らせる。
そして、心底呆れたように大きく溜息をつく。
「あなた様は、本当にお貴族様なのですね」
「は?」
突然、カミルから冷たく貴族であることを貶されて、眉を顰めてメストが思わず顔を上げる。
すると、冷たい目で見下ろすカミルと目が合い、息を呑んだメストは顔を引き攣らす。
そんな彼を見て、小さく溜息をついたカミルは視線を斧に戻す。
「あなた様はご存知ないでしょうけど、この国では王族や貴族向けにしか魔道具が作られていないのです」
「は?」
(我が国では王族や貴族向けにしか魔道具が作られていないだと?)
言葉を失うメストに、カミルは話を続ける。
「あなた様が、この魔道具の存在を知らなかったのは、あなた様がこの国で作られた魔道具しか見たことが無かったからだと思われますが……ですので、平民は隣国の比較的安価な魔道具を使うしかないのです」
「そう、なのか……でもなぜ、この国で平民向けの魔道具が作られないんだ?」
(魔道具を家具や装飾品程度にしか思っていない貴族に比べたら、平民の方が圧倒的に魔道具を使っているから需要があるはずなのだが……)
眉間の皺が深くなるメストを一瞥し、『本当に知らないのね』と小さく肩を竦めたカミルは、どこか遠い目をしながら木々の隙間から見える空を仰ぐ。
「さぁ、平民の私にはよく分かりませんが……恐らく、平民に売るより貴族や王族に売った方が、確実に儲けが出るからでしょう」
「そんな……」
(そんなの、あんまりすぎるだろうが)
淡々とした口調で語られたカミルの推測を聞いて、悔しそうに顔を歪ませたメストはゆっくりと拳を握った。
「……本当、あなた様は優しい方ですね」
(騎士であり貴族であるはずなのに、平民が受けている理不尽をまるで自分のことのように怒っている)
怒りを滲ませる彼に、蚊の鳴くような小声で呟いたカミルは一瞬笑みを零すと斧を持ったまま彼に背を向ける。
「さて、お喋りはここまでにして仕事を始めましょう。でないと、王都に持って行く時間が無くなってしまいますから」
「あ、あぁ……分かった」
(どうして、カミルは……いや、この国の平民はここまで虐げられないといけないんだ)
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