木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第106話 嫌です!

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 リアスタ村から出てしばらく、初めて見る村の様子を見て呆然としているメストに、少しだけ胸が痛んだカミルは彼にお礼を言う。


「ステインと待っていてくださり、ありがとうございます」
「あ、あぁ。それは良いんだが……」


 (どうやら、メスト様にとって先程のやり取りは余程刺激的だったみたいね)
 
 村を離れても尚、困惑しているメストを見て、小さく溜息をついたカミルは周囲に誰もいないことを確認するとメストに話しかける。


「どうして村人達が私のことを嫌っているか、気になりますか?」
「そう、だな。随分前に来た時も思ったが」


 困惑顔で俯くメストに、カミルは視線を前に戻すと村のことを簡単に話す。
 すると、顔を上げたメストの表情が困惑したものから怒りのものに変わった。


「なんだ、それは! そんなの、いくら何でも無茶苦茶すぎないか!?」


 (『村の外から来たから』という心底くだらない理由でカミルを嫌っている癖に、村に無い移動手段を持っているからこき使うって、あまりにも横暴すぎるじゃないか!)


「こんなの、王都で平民に手をあげる馬鹿騎士共のなんら変わらない!」


 (王都では平民として騎士達から蔑まれ、村に戻れば余所者として村人達から蔑まれ……カミルの居場所は一体どこにあるというんだ!)

 怒りを露わにしたメストが御者台の椅子に拳を叩きつけると、再び小さく溜息をついたカミルは視線を前に向けたまま口を開く。


「それでも、今の私には住む場所があの場所しかないのです」
「それは、君が天涯孤独の元孤児だったからか?」
「そう、ですね……」


 (そう、今の私は孤独。だから……)

 手綱を握ったまま僅かに目を伏せるカミルに、メストは少しだけ考え込む素振りをするとあることを閃く。


「そうだ! カミル!」
「な、なんですか?」


 満面の笑みを浮かべたメストは、少しだけ驚いた顔をするカミルにそっと顔を近づける。

 
「もし、君が良かったらヴィルマン侯爵家の使用人にならないか?」
「えっ?」


 (私が、侯爵家の……メスト様のご実家の使用人に?)

 突然の提案に啞然とするカミルをよそに、メストは嬉々とした表情でつい先程思いついたことを話す。


「前々から思っていたが……カミルは、平民とは思えないくらい物腰も丁寧で、知識も豊富だ!」
「そう、なのですか?」
「あぁ! それに、カミルの家に泊まったから気づいたが、カミルは仕事や家事もテキパキこなしている」
「そう、でしょうか? 平民なら誰でも出来ることをしているだけなのですが?」


 (私は、執事の仕事を引退したエドガスから教えてもらったことをしているだけ。それもレイピアと魔力以外は、平民だったら出来て当然のことばかり。そんな私が貴族の使用人なんて……)

 話を聞いているうちに困惑さの増すカミルが小首を傾げると、メストは嬉々とした表情のまま小さく頷く。

 
「それでも俺は、カミルの力を是非とも我が家の使用人として役立てて欲しいと思った! カミルの作るシチューは美味しかったし、カミルが用意してくれた風呂や布団はとても温かくて気持ちよかった!」
「そう、ですか……」


 (でも、私は……)


「それに、我が家の使用人は大半が平民出身なんだ。だから、我が家の使用人になれば村人達から冷遇されることは……」
「嫌です!!」


 手綱を強く握ったカミルが突然声を荒げ、それを聞いて驚いたステインが慌てて足を止めた。
 すると、ハッと気がついたカミルが、驚いているメストとステインに向かって慌てて謝る。


「申し訳ございません、いきなり大声をあげてしまい」
「い、いや……いいんだ」
「ステインもごめん。驚かせてしまって」


 『大丈夫だよ』と軽く嘶いたステインは、何事もなかったかのように荷台を止まっていた足を動かし始めた。
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