木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第119話 突然の呼び出し

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 ドンドンドン!!!!


「入れ」
「失礼致します!」


 けたたましい音にグレアは不快そうに少しだけ目を細めた隣で、僅かに眉を顰めたフェビルが返事をした時、険しい顔をした部下が慌ただしく入ってきた。


「団長に副団長、お話中のところ大変申し訳ございません!」
「構わん。それよりも何だ? 王都に魔物でも現れたか?」
「団長、その冗談は笑えないので止めてください」
「フン!」


 グレアに諫められ、少々不機嫌になったフェビルが持っていた書類をローテーブルに投げ捨てると、険しい顔の部下は敬礼をしたまま激しく首を横に振る。


「違います! 宰相閣下の使いを名乗る者からフェビル団長に対して『今すぐ謁見の間に来るように』と通達が届きました!」


 そう言うと、部下は使いの者から預かったのであろう通達文らしき手紙をフェビルに渡す。

 (はぁ、またこれか)

 酷く面倒くさそうな顔をしたフェビルは、手紙に目を通すと小さく溜息をつき、そのまま向かい側で座っているグレアに渡す。
 フェビルから手紙を受け取ったグレアは、フェビルと同じように手紙に目を通すと僅かに眉を顰め、目の前の上司に視線を戻す。


「団長、特別訓練が終わったタイミングで謁見の間に呼ばれたということは……」
「あぁ、訓練について一言物申したいんだろうよ」


 (とはいえ、物申したいのは陛下ではなくだと思うが)

 深く溜息をついたフェビルは、腕を組むと背凭れに深く体を預ける。
 そんな上司達の反応を見ていた部下は恐る恐る口を開く。


「あの、団長。通達の件ですが、お返事の方は……」
「そんなのもちろん……」
「フェビル・シュタール騎士団長」


 フェビルが手紙の返事をしようとしたその時、この部屋にいないはずの人の声が入口から聞こえた。

 (ん、誰だ?)

 聞き覚えの無い声に眉を顰めたフェビルは、グレアや部下と共に声が聞こえた方に視線を向ける。
 そこには、豪勢な装飾が施された服を身を筒でいる恰幅の良い男性がいた。


「誰だ、あんた? ここに招いた覚えはないぞ」


 (大方、奴の腰巾着でしかない貴族だってことは分かるが……一体誰だ?)
 
 見覚えの無い不審人物に、フェビルは警戒心を強めながら問い質す。
 すると、男は酷く不機嫌そうな顔で鼻を鳴らすと、何の断りもなく部屋に入ってきた。


「ふん! 辺境伯風情が、伯爵である私に指図するんじゃない」
「「何?」」
「ヒッ!」


 上司を貶められたことに怒りを覚えた2人の部下は、得物に手をかけて殺気を放つ。
 すると、横柄な態度を取っていた男が急に怯えた顔をして大きく後ずさる。


「やめろ2人とも。話が進まん。特にグレア。麻痺毒を仕込んだ短剣を今すぐしまえ」
「ハッ! 失礼いたしました」


 (全く、王都の仕事があまりにもぬるいせいで血の気が多い性格になったのか? それなら、久しぶりに魔物討伐でも行って鬱憤でも晴らすか?)

 招かれざる客に無礼を働いた部下達を咎めたフェビルは、そんなことを思いつつ小さく溜息をつくと男の方に視線を戻す。


「それで、あんたは誰だ? そして、何があってここに来た?」
「フン! 辺境伯風情が私に指図をするなと……」
「あぁ、分かったから。それで、あんたは誰だ? 言っておくが、今度は止めないからな」
「ヒッ!」


 再び殺気を放つ2人の部下に、男は一瞬で青ざめた表情をすると、気を取り直して軽く咳払いをし、フェビルに見下すような目を向ける。


「私は、宰相閣下の使い者だ。ここに来たのは、通達の返事をもらうためだ」


 すると、手紙を届けに来た部下が殺気を引っ込ませ、困惑した表情で男に説明する。


「そ、それは、『返事の方は私からお伝えするので、貴殿は騎士団の応接室に待機していて欲しい』と申し上げたはず……」
「フン! たかが男爵風情の貴様の指図に伯爵である私が従うと思ったのか! それに、高貴な私があんな豚小屋のような場所で待てるわけがない!」
「何だと!?」
「ヒィィ!」


 怒りの露にした部下が、感情のまま得物に手をかけたようとしたところを咄嗟にグレアが止める。
 それを見て、恐怖で顔を青くしていた男はその場で腰を抜かす。
 そんなカオスな様子を静かに見守っていたフェビルは大きくため息をつく。


「だからやめろ。グレアも、部下を止めるついでに、仕込んだ毒針で宰相閣下の使いの奴を指すようなことをするな」
「申し訳ございません。つい」


 (何が『つい』だ。部下が怒ったことを好機と捉え、使いの奴を亡き者にしようと思ったんだろうが)

 『これ以上、この男と2人の部下を同じ空間にいさせてはいけない』と判断したフェビルは男に手紙の返事をする。


「それよりも、返事だったな。返事は『分かった』だ。これで良いだろ?」
「フ、フン! 最初からそう言えばいいのだ! 全く、この私に恥を欠かせおって! 上司が野蛮なら部下も野蛮だな!」


 返事をもらって安堵した男は、立ち上がると用は済んだとばかりにフェビルに向かって威張り散らす。
 そんな彼に、フェビルは酷く呆れたような顔で深く溜息をつく。


「あぁ、そうかもしれないな。だが、さっき言ったはずだ。『今度は止めないぞ』と」
「ヒィィィィ!!」


 眼光を鋭くしたフェビルの前に、2人の部下が無礼を働いた男に向かって静かに得物を構える。
 その瞬間、顔面蒼白になった男は逃げるように部屋から出ていった。
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