木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第162話 仲裁者現る

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 木こりが立ち去った後、深く溜息をついたカトレアは眉を吊り上げて両腕を組む。
 

「結局、なぜこんなところにいたのか直接聞けなかったわね」


 (本当、どうしてこんな場所にいたのやら。それも、扱えもしないレイピアを持って……ただの平民がこんな場所にいても、魔物の餌にしかならないっていうのに)
 

「あ、そう言えばメスト様、あの平民とお知り合いだったようですけど……っ!?」


 魔物討伐の場にいた平民について聞こうと、カトレアが隣を見た瞬間、鬼の形相でカトレアを睨みつけるメストのアイスブルーの瞳とかち合った。

 (な、何!? なにか私、琴線に触れることをしました!?)
 

「あ、あの、メスト様? そんな怖い顔をされて、一体どうされたのですか?」
「『一体どうされたのですか?』だと?」
「ヒッ!」


 地を這うような低い声で問い質され、カトレアは思わず顔を引き攣らせる。

 (何々!? 本当に何をしたっていうのよ!? というか、そもそもどうしてメスト様がここにいるのよ!?)

 すると、メストの大きな手がカトレアの華奢な両腕を掴む。


「ヒャッ!」
「カトレア嬢。あなたさっき、自分が何をしたのか分かっていないのですか?」
「……はっ?」
「何をしたか分かっているのかと聞いているのです!」
「ヒィィ!!」


 (『何をした』って……)

 その時、平民に対して魔法を撃った光景が脳裏を過り、苦い顔をしたカトレアは怒っているメストに言い訳をする。


「あの場違いな平民に対して魔法を撃ちました。ですが、私はただ、話を聞きたかっただけで、最初から魔法を撃つつもりはありませんでした!」
「っ!?」


 (では本当に、最初から魔法を放つつもりは無かったというのか!?)

 カトレアのすぐ傍にいたメストは、カミルに火球を放った直後に顔を青ざめたカトレアに、彼女が故意に魔法を放ったわけでないことはすぐ理解した。
 けれど、初対面のカミルに対して蔑むように問い質していた彼女が、本当に最初から魔法を放つつもりが無かったのか俄かに信じ難がった。

 そんなメストの疑念が、カトレアの両腕を掴んでいた手に力を入れてしまう。


「い、痛いです! メスト様、離して……」
「カトレア!」
「っ!」


 カトレアが苦痛で美しい顔を歪ませたその時、遠くからルベルの声が聞こえ、我に返ったメストが慌ててカトレアの両腕から手を離す。


「す、すまないカトレア嬢! つい、力が入ってしまった。本当にすまない!」
「い、いえ……」


 慌ててカトレアから距離を取り、深く頭を下げたメストを見て、困惑した顔のカトレアが気まずそうに視線を逸らして掴まれていた両腕を擦る。
 すると、遠くから走ってきたルベルがカトレアに声をかける。


「おい、カトレア。さっき巨大な火の玉が見えたが……ってあんた、もしかして近衛騎士か!?」


 カトレアの顔しか見えていなかったルベルは、深々と頭を下げているメストに気づくと大きく目を見張る。

 (どうして、近衛騎士がここに? そして、どうして近衛騎士がカトレアに頭を下げている?)

 2人の間に流れる気まずく重い空気を察し、小さく溜息をついたルベルは視線を逸らしているカトレアに目を向ける。


「とりあえず、話しを聞こうか」


 ◇◇◇◇◇

 
「……なるほど。つまり、メスト君と一緒に魔物討伐をしていた平民から話を聞こうと、カトレアが平民を引き止めようとしたその瞬間、意識を失い、気がついた時には平民に向かって火球が放っていたと?」
「はい」
「それで、火球が平民に当たる直前、平民が持っていたレイピアに透明な魔力を纏わせた直後、火球が消えて平民は無傷だったと。そういうことだな、カトレア?」
「……はい。平民に対して火球を放ったこと、本当に申し訳ございませんでした」
「カトレア、それは俺じゃなくて平民に対して言うことだ」
「っ!?……おっしゃる通りでございます」


 深々と頭を下げるカトレアの酷く悔しげな表情に、こめかみを抑えていたルベルが大きく溜息をつくとメストに視線を移す。


「それで、メスト君。君は、その平民とは知り合いなんだな?」
「はい」


 すると、急に元気を取り戻したカトレアが顔を上げると不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 
「フン! そもそも、平民が騎士と知り合いになるなんて、なんて烏滸がましい……」
「カトレア!」
「……すみません」


 (全く、相変わらずこいつは、宮廷魔法師団以外の平民に対して見下すような態度を取るなぁ)
 
 『王国の主砲』と謳われたティブリー家の令嬢であるカトレアは、宮廷魔法師と同じく貴族としての誇りを持っているからなのか、宮廷魔法師団に属している平民以外の平民を何かと見下す癖があり、その度にルベルから叱られている。
 
 それでも、平民をとことん見下し、宮廷魔法師団に働いている黒ローブの魔法師見習いを理不尽に虐げている宮廷魔法師達に比べれば遥かにマシな方である。
 
 (でもまぁ、貴族としては誰よりプライドが高い宰相家令嬢を親友に持っているから仕方ないのか……本当、『類は友を呼ぶ』とはよく言ったものだ)

 話しの腰を折ったせいで厳しく叱責され、落ち込んでいるカトレアを見て、ルベルは呆れたように溜息をつく。
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