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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる
第179話 ルベルの頼み事(後編)
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「それで、もう1つの頼み事なんだが」
「はい、何でしょう?」
笑みを潜めたルベルは、フェビルとグレアにもう1つの頼み事をする。
「シトリン君をうちに貸してもらえないだろうか?」
◇◇◇◇◇
「シトリン、ですか?」
(『ラピスを貸してほしい』という理由は理解出来た。だが、どうしてシトリンまで貸して欲しいとお願いしてきた?)
眉を顰めながら首を傾げるフェビルの後ろで、何かに感づいたグレアがルベルに対して警戒心を露にすると懐に手を伸ばす。
そんな2人に思わず笑みを零したルベルは、すぐさま笑みを潜めると前屈みの姿勢になる。
「あぁ、近衛騎士としてではなく、『時魔法』の使い手であるシトリン・ジャクロット君を」
「っ!?……それは、どういうことか分かっているのですか?」
『時魔法』という名前が出た瞬間、グレアは懐から暗器を取り出して構え、驚いた顔をしたフェビルは地を這うような声で静かに問い質す。
(まぁ、『時魔法』という言葉が出た時点で、この2人が俺を警戒するのは当然だよな)
部下を守ろうと殺気立つ2人を見て、小さく溜息をついたルベルは『危害を加えるつもりはない』と言わんばかりにゆっくりと両手を上げる。
「安心しろ。事前に陛下からはちゃんと許諾は得ている。『フェビルが良いなら構わない』と」
「そ、そうでしたか……それは、大変失礼致しました」
ルベルから『国王陛下から許可を得ている』という言葉を聞いて、纏っていた殺気を瞬時に解いたフェビルとグレアは、ルベルに向かって深々と頭を下げる。
「構わない。『時魔法』という言葉が出た時点で、お前たち2人が警戒するのは無理もないことだと、宮廷魔法師団団長として理解はしているつもりだ」
そう言うと、ルベルはぬるくなってしまった紅茶を一気に飲んで一息つく。
すると、ゆっくりと頭を上げたフェビルが困惑した表情でシトリンを貸して欲しい理由を聞く。
「では、どうしてうちのシトリンの……時魔法の力を借りたいのでしょうか? 時魔法だけでしたら、王家が保管している魔道具だけでも十分なはずでは?」
首を傾げるフェビルからの問いに、空になったティーカップを置いたルベルが静かに答える。
「それも考えた。知っているとは思うが、王家が保管している魔道具は全て闇魔法の付与された魔法。そして、時魔法は闇魔法に分類される。だから、王家の誰かに言えば借りることは可能だ」
「えぇ、そうですね」
王国から人に害を与える可能性があると認められ、使用を厳しく制限している非属性魔法……それが、闇魔法である。
ペトロート王国では、危険とされている闇魔法が付与された魔道具は全て王家が直々に管理をしており、必要に応じて貸し出している。
そのため、王家が管理している魔道具が借る際は、必ず立場が上の人間が王家の誰かに貸し出しのお願いしなければならないとされている。
「しかし、仮に宮廷魔法師団団長の俺が、王家の所有している魔道具を借りた場合、あいつが黙っていない」
「あいつとは……もしかしなくても、宰相閣下のことでしょうか?」
「あぁ、そうだ」
(そう言えば現在、王家の所有している魔道具を管理しているのって……)
「確か、王家所有の魔道具って現在は宰相閣下自らが管理していましたね」
「そうだ。なぜそうなったのかよく分からないが」
(きっと、奴が魔法でそうさせたのだろう)
誰に対しても見下したような態度を取るノルベルトを思い出し、フェビルはルベルと共に大きく溜息をつく。
「だから、時魔法が使えるジャグロット家出身のシトリンを貸して欲しいというわけですね?」
「そういうことだ。正直、陛下に『時魔法を使わせてくれ』と書簡を通してお願いするのもかなりの綱渡りだったが」
「そうでしょうね」
(万が一バレた場合、国家反逆罪として捕らえられる可能性だってあるのだから。でも、そもそも……)
そっと顔を上げたフェビルが、根本的なことをルベルに問い質す。
「そもそも、どうして時魔法が必要なのでしょうか?」
◇◇◇◇◇
前かがみの姿勢で問い質したフェビルに、顔を上げたルベルの顔が瞬く間に酷く悔しそうな表情をした。
「……さっき、カトレアが平民に対して魔法を放ったって言ったよな?」
「えぇ、そのような噂が広まっているとも」
「あぁ、だがそれが自分の意思で放ったものじゃないらしい」
「えっ?」
(それって……!)
「つまり、稀代の天才魔法師様が誰かに操られたということでしょうか?」
「あぁ、そうだ」
『稀代の天才魔法師が誰かに操られていた』という衝撃の事実に言葉を無くすフェビルとグレア。
それに対し、膝に乗せていた手で拳を作ったルベルは、その拳を目の前のローテーブルにあてる。
「初めて話を聞いた時、正直『嘘だろ』と思った。なにせ、カトレアは素晴らしい親友がいるのだから」
「「あぁ……」」
((それは、宰相閣下の愛娘のことを言っているのだろう))
「けれど、カトレアが俺に弁明した時、あいつの顔がいつになく真剣だった」
『あの時の私は、本当に魔法を撃つつもりは無かったんです!!』
(普段はどんな巨大な魔物を相手にしても決して涙を見せないあいつが、目に涙を浮かべながら必死に弁明していた)
「だから、あいつが俺に嘘をついているとは思えなかった。しかし、カトレアが本当に自分の意思で魔法を撃っていないという証拠がない」
ローテーブルから拳を離したルベルは、両膝の上できつく両手を組んだ。
「そして、あの噂を聞いたバカ宰相が俺に対して噂の真相を聞こうとしている」
「宰相閣下が……」
(本当、あのバカ宰相はどこまで他人の足を引っ張れば気が済むんだ!)
思わず眉を顰めるフェビルに、ルベルが悲痛な本音を吐露する。
「俺としては、カトレアの話が本当だと信じたい。そして、宮廷魔法師としての誇りを大切にしているカトレアのために、あのバカ宰相に向かって噂が噓だと堂々と言ってやりたい」
「そのために、シトリンの持つ時魔法を使いたいというわけですね?」
沈痛な表情のまま無言で頷くルベルを見て、フェビルは王国騎士団長として腹を括る。
「分かりました。ただし、時魔法を使う時は私も立ち会わせてください」
「はっ? 王国騎士団長自ら立ち会うのか?」
勢いよく頭を上げたルベルに、フェビルは力強く頷く。
「はい。宮廷魔法師団で起こったことは、どうも他人事とは思えませんので」
「そうか……分かった。ありがとう、フェビル」
「いえ、たいしたことはしておりません」
こうして、フェビルはルベルにラピスとシトリンの貸し出しを許可した。
「はい、何でしょう?」
笑みを潜めたルベルは、フェビルとグレアにもう1つの頼み事をする。
「シトリン君をうちに貸してもらえないだろうか?」
◇◇◇◇◇
「シトリン、ですか?」
(『ラピスを貸してほしい』という理由は理解出来た。だが、どうしてシトリンまで貸して欲しいとお願いしてきた?)
眉を顰めながら首を傾げるフェビルの後ろで、何かに感づいたグレアがルベルに対して警戒心を露にすると懐に手を伸ばす。
そんな2人に思わず笑みを零したルベルは、すぐさま笑みを潜めると前屈みの姿勢になる。
「あぁ、近衛騎士としてではなく、『時魔法』の使い手であるシトリン・ジャクロット君を」
「っ!?……それは、どういうことか分かっているのですか?」
『時魔法』という名前が出た瞬間、グレアは懐から暗器を取り出して構え、驚いた顔をしたフェビルは地を這うような声で静かに問い質す。
(まぁ、『時魔法』という言葉が出た時点で、この2人が俺を警戒するのは当然だよな)
部下を守ろうと殺気立つ2人を見て、小さく溜息をついたルベルは『危害を加えるつもりはない』と言わんばかりにゆっくりと両手を上げる。
「安心しろ。事前に陛下からはちゃんと許諾は得ている。『フェビルが良いなら構わない』と」
「そ、そうでしたか……それは、大変失礼致しました」
ルベルから『国王陛下から許可を得ている』という言葉を聞いて、纏っていた殺気を瞬時に解いたフェビルとグレアは、ルベルに向かって深々と頭を下げる。
「構わない。『時魔法』という言葉が出た時点で、お前たち2人が警戒するのは無理もないことだと、宮廷魔法師団団長として理解はしているつもりだ」
そう言うと、ルベルはぬるくなってしまった紅茶を一気に飲んで一息つく。
すると、ゆっくりと頭を上げたフェビルが困惑した表情でシトリンを貸して欲しい理由を聞く。
「では、どうしてうちのシトリンの……時魔法の力を借りたいのでしょうか? 時魔法だけでしたら、王家が保管している魔道具だけでも十分なはずでは?」
首を傾げるフェビルからの問いに、空になったティーカップを置いたルベルが静かに答える。
「それも考えた。知っているとは思うが、王家が保管している魔道具は全て闇魔法の付与された魔法。そして、時魔法は闇魔法に分類される。だから、王家の誰かに言えば借りることは可能だ」
「えぇ、そうですね」
王国から人に害を与える可能性があると認められ、使用を厳しく制限している非属性魔法……それが、闇魔法である。
ペトロート王国では、危険とされている闇魔法が付与された魔道具は全て王家が直々に管理をしており、必要に応じて貸し出している。
そのため、王家が管理している魔道具が借る際は、必ず立場が上の人間が王家の誰かに貸し出しのお願いしなければならないとされている。
「しかし、仮に宮廷魔法師団団長の俺が、王家の所有している魔道具を借りた場合、あいつが黙っていない」
「あいつとは……もしかしなくても、宰相閣下のことでしょうか?」
「あぁ、そうだ」
(そう言えば現在、王家の所有している魔道具を管理しているのって……)
「確か、王家所有の魔道具って現在は宰相閣下自らが管理していましたね」
「そうだ。なぜそうなったのかよく分からないが」
(きっと、奴が魔法でそうさせたのだろう)
誰に対しても見下したような態度を取るノルベルトを思い出し、フェビルはルベルと共に大きく溜息をつく。
「だから、時魔法が使えるジャグロット家出身のシトリンを貸して欲しいというわけですね?」
「そういうことだ。正直、陛下に『時魔法を使わせてくれ』と書簡を通してお願いするのもかなりの綱渡りだったが」
「そうでしょうね」
(万が一バレた場合、国家反逆罪として捕らえられる可能性だってあるのだから。でも、そもそも……)
そっと顔を上げたフェビルが、根本的なことをルベルに問い質す。
「そもそも、どうして時魔法が必要なのでしょうか?」
◇◇◇◇◇
前かがみの姿勢で問い質したフェビルに、顔を上げたルベルの顔が瞬く間に酷く悔しそうな表情をした。
「……さっき、カトレアが平民に対して魔法を放ったって言ったよな?」
「えぇ、そのような噂が広まっているとも」
「あぁ、だがそれが自分の意思で放ったものじゃないらしい」
「えっ?」
(それって……!)
「つまり、稀代の天才魔法師様が誰かに操られたということでしょうか?」
「あぁ、そうだ」
『稀代の天才魔法師が誰かに操られていた』という衝撃の事実に言葉を無くすフェビルとグレア。
それに対し、膝に乗せていた手で拳を作ったルベルは、その拳を目の前のローテーブルにあてる。
「初めて話を聞いた時、正直『嘘だろ』と思った。なにせ、カトレアは素晴らしい親友がいるのだから」
「「あぁ……」」
((それは、宰相閣下の愛娘のことを言っているのだろう))
「けれど、カトレアが俺に弁明した時、あいつの顔がいつになく真剣だった」
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「だから、あいつが俺に嘘をついているとは思えなかった。しかし、カトレアが本当に自分の意思で魔法を撃っていないという証拠がない」
ローテーブルから拳を離したルベルは、両膝の上できつく両手を組んだ。
「そして、あの噂を聞いたバカ宰相が俺に対して噂の真相を聞こうとしている」
「宰相閣下が……」
(本当、あのバカ宰相はどこまで他人の足を引っ張れば気が済むんだ!)
思わず眉を顰めるフェビルに、ルベルが悲痛な本音を吐露する。
「俺としては、カトレアの話が本当だと信じたい。そして、宮廷魔法師としての誇りを大切にしているカトレアのために、あのバカ宰相に向かって噂が噓だと堂々と言ってやりたい」
「そのために、シトリンの持つ時魔法を使いたいというわけですね?」
沈痛な表情のまま無言で頷くルベルを見て、フェビルは王国騎士団長として腹を括る。
「分かりました。ただし、時魔法を使う時は私も立ち会わせてください」
「はっ? 王国騎士団長自ら立ち会うのか?」
勢いよく頭を上げたルベルに、フェビルは力強く頷く。
「はい。宮廷魔法師団で起こったことは、どうも他人事とは思えませんので」
「そうか……分かった。ありがとう、フェビル」
「いえ、たいしたことはしておりません」
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