木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる

第188話 下級文官マクシェル

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「お待たせ致しました……って、この方は?」


 (服装からして、王国の文官なのは間違いないだけど……)

 門の前に戻って来たカトレアとラピスは、すぐさま研究員達と談笑している男に目を向けた。
 すると、2人の到着に気づいた男が研究員達との談笑を止めると、2人に向き直って深く頭を下げた。


「これはこれは、ご挨拶が遅くなってしまい、大変申し訳ございませんでした」
「「っ!?」」


 (この人、文官にしてはあまりにも動きに無駄が無いわ!)

 黒色の文官服をきっちりと着こなし、黒の短髪を品よく綺麗に揃え、細長いフレームの銀色の眼鏡をかけた男の、品のある洗練された動きに、カトレアが唖然としていると、隣にいたラピスが慌てたように声をかけた。


「いっ、良いのです! 俺たちもついさっきこちらに来たばかりですから! なっ、なぁ、カトレア?」
「そっ、そうね! だから、謝らなくて良いですよ」
「そうですか。それはそれは、ありがとうございます」
「「っ!?」」


 ((だから、そんなに深々と頭を下げなくていい!!))

 困惑している2人に、頭を上げた男は人の朗らかな笑みを浮かべると、左胸に右手を添えた。


「では、改めて自己紹介を。初めまして。今回、帝国視察に同行させていただきます、のマクシェルと申します」


 人の良さそうな笑みを浮かべた三度頭を下げた彼の胸元には、銅色のブローチが輝いていた。




「下級文官、ですって?」


 (どうして、平民上がりの下級文官が近衛騎士に守れないといけないの?)

 優雅に自己紹介をした男マクシェルに怒りを覚えたカトレアは、マクシェルに詰め寄ろうとした。
 その時、マクシェルの後ろから聞き覚えのある声が聞えた。


「マッ、マクシェル殿!?」
「「っ!? フェビル団長!?」」


 カトレアとラピスの視線の先には、分かりやすい程に狼狽えたフェビルがいた。

 (どうして、ここにフェビル団長が!? 打ち合わせが終わったら、さっさと戻ったはず!)

 突然のフェビルの登場にカトレアとラピスが啞然としていると、冷や汗を掻いたフェビルが慌ててマクシェルに駆け寄った。


「これはこれは、フェビル近衛騎士団長様ではございませんか」
「どっ、どうしてあなた様が……って、もしかして今回派遣される文官って、あなた様のことだったのですか!?」


 珍しく取り乱しているフェビルに対し、振り返って深々と頭を下げたマクシェルは、笑みを浮かべたままゆっくりと頭を上げた。


「まさか、あなた様が今回の随行者だったとは」
「申し訳ございません。いかんせん、こちらも色々と準備に追われておりまして報告が出来ませんでした」
「いえいえ、辺境からわざわざお越しになるのですから仕方ありません。むしろ、あなた様だと分かっていれば、こちらからお迎えに上がりましたのに」
「良いのですよ。いくらで随行するとはいえ、所詮私は下級文官。こちらから出向くのが当然と言ったところでしょう」
「「っ!?」」


 (ただの下級文官が陛下の勅命を受けたの!?)

 愕然とするラピスの隣で、再び怒りがこみ上げたカトレアがフェビルの前に立つと、マクシェルに詰め寄った。


「あなた、本当に、国王陛下から勅命を受けたの? 普通、こういうのって金色のブローチの人間がすることじゃなくて?」
「カトレア嬢! いくら、あなたが上の立場だからって何てこと……」


 ペトロート王国の文官は、身分に応じてブローチが支給される。上級貴族は金色、下級貴族は銀色、平民は銅色。

 (こういう任務って普通、銀色か金色のブローチの文官が随行するんじゃない!? そもそも、どうして陛下はこんな下級文官に勅命なんて与えたの!?)

 冷や汗が止まらないフェビルを無視し、眉を引き上げながら問い質すカトレアに、マクシェルは申し訳なさそうな顔で弁明をした。


「本来ならそうなのですが……どうやら、皆さま内政で大変お忙しいみたいですので、僭越ながら、私が同行させていただくことになりました」


 そう言って、マクシェルは懐から手紙を取り出すと、その場にいたラピスやカトレアやフェビルだけでなく、遠巻きに見ていた人達にも見えるようにその中身を見せた。
 そこには、マクシェルの名前で勅命が書かれており、手紙の最後には国王にしか使うことが許されない王印が押されていた。

 (ほっ、本当にこの下級文官が陛下の勅命を受けたのね)


「ふっ、ふ~ん。そっ、そういうことなら、しっ、仕方ないわね」
「ご理解いただけて感謝申し上げます」


 恭しく頭を下げたその人は、朗らかに微笑みながらも、銀縁眼鏡の奥にある淡い緑色の瞳は、獲物を狙うものになっていた。
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