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第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる
第187話 出立の朝
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混沌と化した夜会に参加した翌日、朝焼けに照らされた王都の門の前には、白色と灰色のローブに身を包んだ宮廷魔法師達と銀色の鎧を纏った騎士達が出立の準備をしていた。
その中には、もちろんカトレアとラピスもいた。
「でも、あんたが文官側の護衛につくなんて……さっきの最終打ち合わせで初めて知ったから驚いたわ」
「あぁ、本当は昨日の夜会で言うつもりだったんだが……すまん」
与えられた仕事を終えたタイミングで頭を下げたラピスに、同じく仕事を終えたカトレアが小さく笑みを浮かべると首を横に振った。
「良いのよ。近衛騎士団と宮廷魔法師団で、それぞれ護衛任務の打ち合わせや準備をしていたから、話す機会も余裕も無かったし。それに、昨日は……ね」
「まぁ、そうだな」
団長から護衛任務を与えられてから、ラピスとカトレアは通常業務と並行して任務のための事前打ち合わせに参加したり、不在の間の仕事の引継ぎをしたりして準備に追われていた。
そこに、ダリアから壮行会を兼ねた夜会への招待状が届き、急遽決まったそれに参加せざるを得なくなった2人は慌てて準備をした。
その結果、カトレアは出立前の最終打ち合わせで、ラピスが文官側の護衛につくことを知ったのだ。
「それよりも、昨日は大丈夫だったか? 一応、ティブリー家の屋敷まで送ったが……」
「えぇ、大丈夫よ。早めに帰ったお陰で、今日からの任務は本調子で臨めるわ」
「そうか、それなら良かった」
(突然、頭痛を起こして再び倒れそうになったから本当に心配した)
夜会と呼んでも良いのか分からないパーティーを早々に辞した後、メストやシトリンと別れたカトレアは屋敷までラピスに送ってもらった。
昨日とは打って変わって、いつも通りのカトレアにラピスが内心安堵していると、カトレアの眉が僅かに寄った。
「でも、そういうあんたこそ大丈夫だった? 私もそうだけど、あんたも随分と久しぶりな夜会だったじゃない」
「あぁ、それなら問題無い。カトレアを送った後、俺も久しぶりに実家に戻って休んだから」
「そう、それなら良かった。それにしても……」
出立前の準備を終え、一息ついた騎士や宮廷魔法師達を一瞥したカトレアは、小さく息を吐いた。
「こんな時にあんたが傍にいてくれて良かった」
「それは……」
カトレアの言葉を聞いたラピスは、顔を歪ませると近くにいた騎士に何かを言った。
そして、彼女の手を取って集団から少し離れた場所に連れ出した。
「ちょっ、良いの!?」
「さっき先輩に報告したから大丈夫だ。それに、文官が来るまで待機なのはさっきの打ち合わせで知っているだろ?」
「そっ、そうだけど……」
「それに、お前が弱音を吐くのと他の奴らに見せたくなかった」
「っ!?」
(もっ、もう! 何照れているのよ! こっちまで恥ずかしくなってくるじゃない!)
恥ずかしそうに視線を逸らせて頭を掻く不器用な婚約者に、頬を染めながらも嬉しそうな笑みを浮かべたカトレアは、日が昇り始めた空を見上げて大きく息を吐いた。
「ねぇ、聞いているでしょ? 私の噂」
「……そうだな」
「本当、自分が貴族に生まれたことも、『稀代の天才魔法師様』なんて言われることも嫌になっちゃうわね」
(私が普通の宮廷魔法師だったら、夜会の時に向けられた好奇な視線も、こうして婚約者に余計な気遣いをさせることも無かったのに)
「俺は」
ゆっくりと視線を戻したカトレアの目には、いつになく真剣な表情でこちらを見ているラピスが映った。
「俺は、カトレア・ティブリーの騎士であり婚約者だ。だから……」
一瞬だけ口を閉じたラピスは、毅然とした態度で目の前にいる婚約者を見つめた。
「俺は信じる。宮廷魔法師として誰よりも誇りを持っているお前が、平民相手に自らの意思で魔法を撃つなんて外道な真似をしていないことを」
「っ!?」
『お前の婚約者様が今、どういう立場にいるのか、お前自身が分かっているだろう?』
(分かっています、団長。だから俺は、この強がりで意地っ張りで……でも、実はとても泣き虫な婚約者のことを守ってみせます)
「バカッ! 婚約者なんだから信じるのは当たり前でしょ!」
「フッ、そうだな」
真っ赤な顔で怒った婚約者に笑みを浮かべたラピスは、そっと彼女に近づいた。
そして、彼女の透き通った白い肌に零れた綺麗な水滴を優しく拭うと、華奢な彼女の体を抱き寄せた。
「もうっ、ラピスのバカ! バカラピス! 見られたらどうするのよ!」
「はいはい、その時は俺がちゃんと謝りますよ」
(それでお前が、宮廷魔法師として再び立ち上がれるのなら)
可愛い暴言を吐きながらも嗚咽交じりに泣きじゃくる彼女の頭を、ラピスは彼女が落ち着くまで撫で続けた。
「……ありがとう、ラピス。お陰で落ち着いたわ」
「どういたまして。もしまた泣きたくなったら、いつでも呼べよ。喜んで壁になってやる」
「バッ、バカじゃないの! 護衛任務中に呼ぶわけない!」
真っ赤な顔でラピスと離れたカトレアが再び怒ると、ラピスが安堵したように優しい笑みを浮かべた。
すると、遠くから真っ白な仮面を付けてフードを深く被った黒ローブの男が近づいた。
「カトレア様にラピス殿。文官の方が来られました」
「分かったわ、テオ。行きましょうか、ラピス」
「あぁ」
カトレアの小間使いであるテオに呼び戻された2人は、真剣な表情で互いに頷くと小走りで元の場所に戻った。
そこには、灰色ローブの研究員達と楽しく談笑している黒の文官服姿の男がいた。
その中には、もちろんカトレアとラピスもいた。
「でも、あんたが文官側の護衛につくなんて……さっきの最終打ち合わせで初めて知ったから驚いたわ」
「あぁ、本当は昨日の夜会で言うつもりだったんだが……すまん」
与えられた仕事を終えたタイミングで頭を下げたラピスに、同じく仕事を終えたカトレアが小さく笑みを浮かべると首を横に振った。
「良いのよ。近衛騎士団と宮廷魔法師団で、それぞれ護衛任務の打ち合わせや準備をしていたから、話す機会も余裕も無かったし。それに、昨日は……ね」
「まぁ、そうだな」
団長から護衛任務を与えられてから、ラピスとカトレアは通常業務と並行して任務のための事前打ち合わせに参加したり、不在の間の仕事の引継ぎをしたりして準備に追われていた。
そこに、ダリアから壮行会を兼ねた夜会への招待状が届き、急遽決まったそれに参加せざるを得なくなった2人は慌てて準備をした。
その結果、カトレアは出立前の最終打ち合わせで、ラピスが文官側の護衛につくことを知ったのだ。
「それよりも、昨日は大丈夫だったか? 一応、ティブリー家の屋敷まで送ったが……」
「えぇ、大丈夫よ。早めに帰ったお陰で、今日からの任務は本調子で臨めるわ」
「そうか、それなら良かった」
(突然、頭痛を起こして再び倒れそうになったから本当に心配した)
夜会と呼んでも良いのか分からないパーティーを早々に辞した後、メストやシトリンと別れたカトレアは屋敷までラピスに送ってもらった。
昨日とは打って変わって、いつも通りのカトレアにラピスが内心安堵していると、カトレアの眉が僅かに寄った。
「でも、そういうあんたこそ大丈夫だった? 私もそうだけど、あんたも随分と久しぶりな夜会だったじゃない」
「あぁ、それなら問題無い。カトレアを送った後、俺も久しぶりに実家に戻って休んだから」
「そう、それなら良かった。それにしても……」
出立前の準備を終え、一息ついた騎士や宮廷魔法師達を一瞥したカトレアは、小さく息を吐いた。
「こんな時にあんたが傍にいてくれて良かった」
「それは……」
カトレアの言葉を聞いたラピスは、顔を歪ませると近くにいた騎士に何かを言った。
そして、彼女の手を取って集団から少し離れた場所に連れ出した。
「ちょっ、良いの!?」
「さっき先輩に報告したから大丈夫だ。それに、文官が来るまで待機なのはさっきの打ち合わせで知っているだろ?」
「そっ、そうだけど……」
「それに、お前が弱音を吐くのと他の奴らに見せたくなかった」
「っ!?」
(もっ、もう! 何照れているのよ! こっちまで恥ずかしくなってくるじゃない!)
恥ずかしそうに視線を逸らせて頭を掻く不器用な婚約者に、頬を染めながらも嬉しそうな笑みを浮かべたカトレアは、日が昇り始めた空を見上げて大きく息を吐いた。
「ねぇ、聞いているでしょ? 私の噂」
「……そうだな」
「本当、自分が貴族に生まれたことも、『稀代の天才魔法師様』なんて言われることも嫌になっちゃうわね」
(私が普通の宮廷魔法師だったら、夜会の時に向けられた好奇な視線も、こうして婚約者に余計な気遣いをさせることも無かったのに)
「俺は」
ゆっくりと視線を戻したカトレアの目には、いつになく真剣な表情でこちらを見ているラピスが映った。
「俺は、カトレア・ティブリーの騎士であり婚約者だ。だから……」
一瞬だけ口を閉じたラピスは、毅然とした態度で目の前にいる婚約者を見つめた。
「俺は信じる。宮廷魔法師として誰よりも誇りを持っているお前が、平民相手に自らの意思で魔法を撃つなんて外道な真似をしていないことを」
「っ!?」
『お前の婚約者様が今、どういう立場にいるのか、お前自身が分かっているだろう?』
(分かっています、団長。だから俺は、この強がりで意地っ張りで……でも、実はとても泣き虫な婚約者のことを守ってみせます)
「バカッ! 婚約者なんだから信じるのは当たり前でしょ!」
「フッ、そうだな」
真っ赤な顔で怒った婚約者に笑みを浮かべたラピスは、そっと彼女に近づいた。
そして、彼女の透き通った白い肌に零れた綺麗な水滴を優しく拭うと、華奢な彼女の体を抱き寄せた。
「もうっ、ラピスのバカ! バカラピス! 見られたらどうするのよ!」
「はいはい、その時は俺がちゃんと謝りますよ」
(それでお前が、宮廷魔法師として再び立ち上がれるのなら)
可愛い暴言を吐きながらも嗚咽交じりに泣きじゃくる彼女の頭を、ラピスは彼女が落ち着くまで撫で続けた。
「……ありがとう、ラピス。お陰で落ち着いたわ」
「どういたまして。もしまた泣きたくなったら、いつでも呼べよ。喜んで壁になってやる」
「バッ、バカじゃないの! 護衛任務中に呼ぶわけない!」
真っ赤な顔でラピスと離れたカトレアが再び怒ると、ラピスが安堵したように優しい笑みを浮かべた。
すると、遠くから真っ白な仮面を付けてフードを深く被った黒ローブの男が近づいた。
「カトレア様にラピス殿。文官の方が来られました」
「分かったわ、テオ。行きましょうか、ラピス」
「あぁ」
カトレアの小間使いであるテオに呼び戻された2人は、真剣な表情で互いに頷くと小走りで元の場所に戻った。
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