木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第4章 記憶と思惑のフィアンツ帝国

第215話 蘇った記憶

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 ※途中でカトレアの視点が入ります。



「うっ!!」


 光の柱に閉じ込められた途端、小さく呻き声を上げたカトレアは頭を抑えながらその場で膝から崩れ落ちた。

 (なっ、何!? 目の前からマーザス様が消えた途端、突然頭の中に何かが流れてきて……)


「うっ、ううっ……」
「カトレア!!」


 柱から聞こえたカトレアの苦しそうな声に、血相を欠いたラピスはなりふり構わず柱の中に入ろうとした。
 それに気づいたマーザスは、大声でラピスを止めた。


「大丈夫だよ! ラピス君! これは、解呪魔法が成功した証拠だから!」
「っ!? 解呪魔法が、成功したのですか?」


 マーザスの言葉で動きを止めたラピスは、そのままマーザスに目を向けようとした。
 その瞬間、目の前から光の柱が儚く消え、中から床にへたり込んでいるカトレアが現れた。


「あっ、ああっ……」
「カトレア!!」
「……どうやら、思い出したみたいだね」


 (私は、どうして今まで……)

 光の柱から顔面蒼白で出てきたカトレアを見て、マーザスは酷く辛そうな顔でカトレアから目を逸らした。
 そんなマーザスをよそに、ラピスは慌ててカトレアに駆け寄るとその場で跪いた。


「カトレア、大丈夫か?」
「あっ、あああっ……」
「カトレア?」


 (私は、私は……)

 心配そうに声をかけるラピスを無視し、カトレアはゆっくりと自分の顔を両手で覆った。


『ねぇ、見てみてカトレア! この花、すごく素敵じゃない!?』


 (どうして私は、今までこんな大事な記憶を……大切な記憶を忘れていたの?)


「カトレア、一体どうし……」
「無駄だよ」
「えっ?」


 いつの間にかラピスの隣に立っていたマーザスは、ラピスの肩に手を置くと小さく首を横に振った。


「今のカトレア君に、君の声は届いていない」
「そんな……」


 啞然とするラピスを一瞥し、マーザスは視線をラピスからカトレアに移した。


「当然だけど、改竄魔法を解いた場合、その者の頭の中には改竄される前の……忘れてしまっていた記憶が蘇る。そして、今のカトレア君の頭の中には、忘れてしまった記憶が走馬灯のように蘇っているはず。だから、今のカトレア君は僕たちの声なんて聞えないんだよ」


 (まぁ、解呪魔法が成功したんだから、当然の結果なのだけど)

 マーザスが辛そうな顔をしているなんて知らないカトレアは、頭の中で次々と蘇る記憶を必死で追っていた。




 親友と師匠が暮らす屋敷の庭で、いつものように師匠を待っていた私は、一緒に待ってくれている親友にようやく習得した魔法を披露した。


『すごい、カトレア! もう水魔法を習得したの!?』
『フフン、当然よ! だって、私は……』


 そう、私は……


『ほら、カトレア嬢。水魔法を習得したと言っても、まだ水属性の魔力の塊を出しただけじゃないか。そんな調子だと、いつまでも僕のようになれないぞ』
『ロスペル師匠!』


 呆れながら屋敷から出てきた師匠に、私は満面の笑みを浮かべた。

 そうだ、私には師匠がいた。後に『稀代の天才魔法師』と呼ばれ、史上最年少で宮廷魔法師副団長に任命されたその人は、私の……火魔法しか知らなかった私を変えてくれた人。
 そして、その人の妹は……


『では、改めまして……初めまして、カトレア・ティブリー子爵令嬢。私は、サザランス公爵家が娘、フリージア・サザランスと申します』


 幼い頃、貴族令嬢として未熟だった私は、とある噂を鵜吞みにし、初対面で会ったその子に対し、尊大な態度を取ってしまった。
 それも、その子が自分よりも遥かに爵位が高い公爵令嬢だと知っていて。
 その後、色々あってその子に対して非礼を詫びた私に、にこやかに謝罪を受け取ったその子は、改めて自己紹介をした。
 背筋が伸びたすらっとした細身に、手入れの行き届いた綺麗な長い銀髪とくりくりとした淡い緑色の瞳、白磁のような綺麗な肌で整った顔立ち。
 自分と同い年だったその子は、子どもながらに貴族令嬢のお淑やかさと気品を兼ね備えていた。
 その美しさと手本のような完璧な所作を初めて見た時、思わず息を呑んでしまった。
 でも、その子と仲良くしていくうちに……


『フリージア! 剣の鍛錬もそこまでにして、屋敷に戻ってさっさと身なりを整えなさい! もうすぐで、家庭教師の先生がいらっしゃるわよ!』
『げっ、お母様! ううっ、今日はマナーの先生が来るから嫌なのよねぇ……』


 その子が実は、花より剣が大好きな男勝りの負けず嫌いで、お淑やかさとはかけ離れた……とてもお人好しで誰よりも正義感が強く、2人の時は気さくに話してくれるお転婆娘だと知った。
 そんな貴族令嬢らしくない貴族令嬢こそが、私の……唯一無二の本当の親友。




 改竄されていた記憶が全て蘇り、両手から顔を離したカトレアは、呆然とした表情で目の前にある本棚をぼんやりと見つめた。
 だが、今の彼女の目には本棚ではなく、満面の笑みでカトレアを見ている銀髪の少女が映っていた。


「どうして、どうして私は……」


 静かに俯いたカトレアは、再び両手で顔を覆った。

 (本当の親友の顔を……そもそも、どうして今の今まで親友のことを何もかも忘れてしまったの? そうすれば、あんな貴族令嬢と呼ぶのも烏滸がましいアバズレ女を親友なんて呼ばなかったのに)

 改竄されていた記憶が蘇ったからこそ、懺悔にも似た後悔の気持ちがカトレアの心を深く締めつけた。
 すると、不意に魔物討伐の時に放った言葉が蘇った。


『ねぇ、なんであんたみたいな平民がここにいるの?』
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