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第6章 待ち望んだ再会と星降る夜の語らい
第328話 貴族としての役目
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「マヤ、『あの平民』とは一体……?」
啞然とする父親に、マヤは先程王都の出来事を話した。
「……なるほど、ダリア嬢がお前に危害を加えられた時に、レイピアを持った平民が助けてくれたと」
娘から一通り話を聞いたユークは、険しい顔をすると両手を組んで口元を覆った。
(昔からノルベルト殿の娘の話はあまり良いものを聞かないが、まさか家格を傘にしてついに貴族にまで手を出すとは)
「魔法の影響かとは思うが……それにしてはやり過ぎだ」
少しだけボロボロになった娘のドレスを見て、組んだ両手を強く握ったユークは深く息を吐くと娘を見やった。
「それで、その平民のようになりたいから、私が皆に隠している仕事を手伝いたいと?」
「はい! 私だって貴族令嬢。だからこそ、貴族としての役目を果たしたいのです」
『あなたには、貴族としての役目があるでしょ!』
平民とは思えない有無を言わせない言い方と、アイマスクの奥に隠された淡い緑色の瞳に灯る決意の炎。
その言葉と後ろ姿が頭から離れないマヤは、父親を真っ直ぐ見つめる。
すると、何かを思い出したユークが小さく笑みを零す。
「『貴族としての役目』か」
「お父様?」
(ノルベルトが宰相になってから、そんな殊勝なことを口にする奴がいなくなったと思っていたから、随分と久しく聞いたな)
レクシャが宰相だった頃は、『平民の役目は国の土台として支えること、貴族の役目はその平民を守ること、王族の役目は国に住む民全てを纏めること』という考え方が当たり前のようにあった。
そのため、多少の諍いはあったが、王族も貴族も平民も互いに尊重し、国のために尽力していた。
しかし、改竄魔法で宰相がノルベルトになってから、その考え方は塗替えられた。
『魔法が使える貴族は、魔法が使えない平民より有能な人間だから、平民から搾取することも甚振ることは許されて当たり前。そして、この国で一番偉いのは国王ではなく宰相閣下。だから、宰相閣下に媚びを売ることが貴族としての役目である』
改竄魔法で歪んでしまった考え方の下で生きている貴族達を長年見てきたユークは、愛娘の固い意志が籠った言葉が心に響き、笑みを深めた。
「やはり、お前は俺の娘だな。マヤ」
「えっ?」
(何かのために必死になる。そういうところが私にそっくりだ)
眉を顰めながら小首を傾げているマヤに、満足そうに笑ったユークは、静かに笑みを潜めると丸くなった背筋を伸ばす。
「マヤ、話をする前に確認してもいいかい?」
「何でしょう?」
「君が私がしている仕事の話をしたら、マヤは婚約者のシトリン君を敵に回すことになる」
「っ!?」
(シトリン様を敵に回す? あの穏やかで優しくて大好きなシトリン様を?)
『マヤ、今日はどこへ行こうか?』
幼い頃から会うたびに甘い笑みを浮かべ、気弱なマヤを優しくエスコートしてくれたシトリン。
そんな彼の顔が脳裏に蘇ったマヤは、迷ったようにきつく口を閉ざすと机から手を放して距離を取る。
「それでも、知りたいかい?」
ユークは、自分の命に代えてでも帝国の魔道具を平民に売りさばく道を選んだ。
そして今、マヤは大切な人と貴族としての役目のどちらを選ぶかを迫られた。
(シトリン様を敵に回すなんてしたくない。でも、それでも……)
『怯えて震えているだけなら平民だって出来るわ!』
「そうよ、怯えているだけなら平民にだって出来るわよ」
「マヤ?」
レイピアを持った平民の背中が再び脳裏に蘇り、その背中がマヤの迷いを払拭する。
顔を上げたマヤは、心配そうに見つめるユークに力強く頷いた。
「もちろんです!」
(それで、貴族としての役目が果たせるのなら!)
マヤの淡い紫色の瞳に宿る揺るがない決意に、安堵したような笑みを浮かべたユークは、いつの間にか起動していた認識阻害魔法が付与された魔道具を止めた。
そして、立ち上がると執事を呼ぶベルを鳴らすと、執務室のドアが静かに開かれた。
「旦那様、何でしょう?」
「妻とドニーを呼んでくれないか? あの2人も前々から私の話を聞きたがっていたから」
「かしこまりました」
深々と頭を下げて部屋を出て行った執事を啞然した表情で見送ったマヤは、視線をユークに戻す。
「お父様、もしかしてお母様やお兄様も……?」
「あぁ、つい数時間前だったが、マヤと同じことを聞いてきた」
「っ!」
「そして、マヤと同じようなことを言っていたよ『貴族としての役目を果たしたい』と」
(お母様もお兄様も私と同じ決意を……)
「全く、これでも商会長をしているから、隠し事はそれなりに得意だったんだけどね」
驚いた表情をするマヤを見て、困ったような笑みを浮かべたユークは、大事な商談をするときに浮かべる営業スマイルを愛娘に向ける。
「それじゃあ、家族が揃ったら話をしよう」
(私の仕事の内容と目的を)
啞然とする父親に、マヤは先程王都の出来事を話した。
「……なるほど、ダリア嬢がお前に危害を加えられた時に、レイピアを持った平民が助けてくれたと」
娘から一通り話を聞いたユークは、険しい顔をすると両手を組んで口元を覆った。
(昔からノルベルト殿の娘の話はあまり良いものを聞かないが、まさか家格を傘にしてついに貴族にまで手を出すとは)
「魔法の影響かとは思うが……それにしてはやり過ぎだ」
少しだけボロボロになった娘のドレスを見て、組んだ両手を強く握ったユークは深く息を吐くと娘を見やった。
「それで、その平民のようになりたいから、私が皆に隠している仕事を手伝いたいと?」
「はい! 私だって貴族令嬢。だからこそ、貴族としての役目を果たしたいのです」
『あなたには、貴族としての役目があるでしょ!』
平民とは思えない有無を言わせない言い方と、アイマスクの奥に隠された淡い緑色の瞳に灯る決意の炎。
その言葉と後ろ姿が頭から離れないマヤは、父親を真っ直ぐ見つめる。
すると、何かを思い出したユークが小さく笑みを零す。
「『貴族としての役目』か」
「お父様?」
(ノルベルトが宰相になってから、そんな殊勝なことを口にする奴がいなくなったと思っていたから、随分と久しく聞いたな)
レクシャが宰相だった頃は、『平民の役目は国の土台として支えること、貴族の役目はその平民を守ること、王族の役目は国に住む民全てを纏めること』という考え方が当たり前のようにあった。
そのため、多少の諍いはあったが、王族も貴族も平民も互いに尊重し、国のために尽力していた。
しかし、改竄魔法で宰相がノルベルトになってから、その考え方は塗替えられた。
『魔法が使える貴族は、魔法が使えない平民より有能な人間だから、平民から搾取することも甚振ることは許されて当たり前。そして、この国で一番偉いのは国王ではなく宰相閣下。だから、宰相閣下に媚びを売ることが貴族としての役目である』
改竄魔法で歪んでしまった考え方の下で生きている貴族達を長年見てきたユークは、愛娘の固い意志が籠った言葉が心に響き、笑みを深めた。
「やはり、お前は俺の娘だな。マヤ」
「えっ?」
(何かのために必死になる。そういうところが私にそっくりだ)
眉を顰めながら小首を傾げているマヤに、満足そうに笑ったユークは、静かに笑みを潜めると丸くなった背筋を伸ばす。
「マヤ、話をする前に確認してもいいかい?」
「何でしょう?」
「君が私がしている仕事の話をしたら、マヤは婚約者のシトリン君を敵に回すことになる」
「っ!?」
(シトリン様を敵に回す? あの穏やかで優しくて大好きなシトリン様を?)
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幼い頃から会うたびに甘い笑みを浮かべ、気弱なマヤを優しくエスコートしてくれたシトリン。
そんな彼の顔が脳裏に蘇ったマヤは、迷ったようにきつく口を閉ざすと机から手を放して距離を取る。
「それでも、知りたいかい?」
ユークは、自分の命に代えてでも帝国の魔道具を平民に売りさばく道を選んだ。
そして今、マヤは大切な人と貴族としての役目のどちらを選ぶかを迫られた。
(シトリン様を敵に回すなんてしたくない。でも、それでも……)
『怯えて震えているだけなら平民だって出来るわ!』
「そうよ、怯えているだけなら平民にだって出来るわよ」
「マヤ?」
レイピアを持った平民の背中が再び脳裏に蘇り、その背中がマヤの迷いを払拭する。
顔を上げたマヤは、心配そうに見つめるユークに力強く頷いた。
「もちろんです!」
(それで、貴族としての役目が果たせるのなら!)
マヤの淡い紫色の瞳に宿る揺るがない決意に、安堵したような笑みを浮かべたユークは、いつの間にか起動していた認識阻害魔法が付与された魔道具を止めた。
そして、立ち上がると執事を呼ぶベルを鳴らすと、執務室のドアが静かに開かれた。
「旦那様、何でしょう?」
「妻とドニーを呼んでくれないか? あの2人も前々から私の話を聞きたがっていたから」
「かしこまりました」
深々と頭を下げて部屋を出て行った執事を啞然した表情で見送ったマヤは、視線をユークに戻す。
「お父様、もしかしてお母様やお兄様も……?」
「あぁ、つい数時間前だったが、マヤと同じことを聞いてきた」
「っ!」
「そして、マヤと同じようなことを言っていたよ『貴族としての役目を果たしたい』と」
(お母様もお兄様も私と同じ決意を……)
「全く、これでも商会長をしているから、隠し事はそれなりに得意だったんだけどね」
驚いた表情をするマヤを見て、困ったような笑みを浮かべたユークは、大事な商談をするときに浮かべる営業スマイルを愛娘に向ける。
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