木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第6章 待ち望んだ再会と星降る夜の語らい

第327話 貴族の責務

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 ――時は、王都でダリアとカミルが対峙していた頃に遡る。


「お父様!」


 カミルの機転で、ダリアから逃がしてもらったマヤは、屋敷に戻るとすぐさま父親のいる執務室に飛び込んだ。


「どうしたマヤ? 珍しく感情的になって……って、どうしたその恰好は!?」


 普段から気弱なマヤは、家族や使用人に対しても遠慮がちで、感情を爆発させることは滅多なことがない限り無かった。
 そんな彼女は、侍女や執事の制止を振り切って父親の前に立つと『バン!』と机を叩いて父親を睨みつける。


「いい加減、私にもお父様のお手伝いをさせてください!」
「っ!?」


 娘の言葉に心配そうにしていた父親は一瞬目を見張ると、困ったような笑みを浮かべる。


「本当にどうしたんだい、マヤ? 突然、執務室に入ってきたかと思えばいきなり……」
「とぼけないでください! お父様が領地経営以外で資産を増やしているのは分かっているのですから!」
「っ!?」


 ミストラル男爵はマヤに意図的に隠していたが、マヤは父親が領地経営だけでなく、魔道具を帝国から輸入して、それを平民に売っていたことを知っていた。

 娘の言葉に父親が啞然としていると、机の上に置いた手を強く握ったマヤは、父親の仕事場を見回す。
 そこには、質素でありながらも品のある棚や応接セットがあり、とてもじゃないが小さな領地を経営している男爵家とは思えないものばかりが置いてあった。

 (お父様は『これは領民達が頑張ってくれたから』と仰っていたけど、それだけじゃない。だって、あそこにあるソファーは前にリスティナ伯爵家で見たソファー。だとしたら、我が家は男爵家のはずなのに伯爵家並みの資産を持っていることになる)

 しがない男爵家には似合わない調度品を睨みつけたマヤは、視線を目の前にいる父親に戻す。


「領民に優しく聡明なお父様が、領民から理不尽に搾取していないことや、いかがわしい商売に手を出していないことは、定期的に領地を視察していますので理解しています。ですが、領地経営だけでこのような気品のあるものを買えるとは思えません!」


 マヤがミストラル家に違和感を覚えたのは、執務室にある調度品だけではなかった。

 どうして我が家の屋敷は、国境に近い男爵領を経営しているはずなのに、どうして伯爵家並みの大きな屋敷に住み、伯爵家と同じ数の使用人がいるのかと。
 そして、屋敷の中にある物が全て男爵家とは思えない高額なものばかりなのかと。

 (今までは勇気があって言えなかったけど、あの平民にあんなことを言われた今なら聞ける!)


『貴族なら、きちんと役目を果たしなさい!』


 レイピアを持つ平民の言葉を思い出し、握り締めていた拳に力を入れた時、深く息を吐いた父親が執事を呼んで人払いをさせると静かに娘を見やった。


「マヤ、お前の言う通り、確かに私は家の者にも知られていない商売をしている」
「それは、帝国から輸入した魔道具を平民に売っていることでしょうか?」
「っ!? そこまで知っていたのか?」
「えぇ、屋敷に置いてある家具や調度品、そして使用人の数を見れば分かります」
「ハハッ、やはりお前は母親に似て聡明だな」


 楽しそうに笑った父親は、両肘を立てると再び息を吐いて組んだ両手を額に押し当てる。


「私がやっていることは今の王国に逆らうようなものだ。だから、お前たちに知られるわけにはいかなかった」
「ですが、見つかれば我が家は没落しますよ!」
「そうなったら、私の命を以って我が家は潔く没落しよう」
「っ!?」
「何、心配するな。没落する前に、お前たちは帝国に亡命して本家筋のどこかに身を寄せればいい。その手筈も整えている」
「お父様……」


『ユーク、申し訳ないがお前の力でこの国の平民達に帝国の魔道具を売り続けてはもらえないだろうか?』


 (宰相が変わる少し前、我が戦友からもしものことを聞いた私は、戦友から託された依頼を引き受け、今日まであらゆる手を使って魔道具を売った)

 マヤの父ユーク・ミストラスは、戦友であるレクシャ・サザランスからノルベルトの愚行を聞き、銀色の腕輪を託されると、彼から『平民に帝国の魔道具を売る』という大仕事を任された。
 それは、今の王国に見つかれば間違いなくノルベルトによって処刑される反逆行為であった。

 しかし、前々からノルベルトの愚かさを知っていたユークは、商売人としてのあらゆる手段を使い、ノルベルトに見つからないギリギリのラインで、平民達に帝国の魔道具を売った。

 例え、愛する家族を裏切ることになったとしても、彼は戦友である『宰相』が帰ってくると信じ、家族に黙って捌き、それで得た金を領地改善や屋敷維持、そして新たな魔道具を仕入れるための資金に回したのだ。


「そういうことだから、マヤ。分かってくれ……」
「嫌です!」


 (そんなの嫌に決まっている!)

 薄い紫色の瞳を燃え滾らせたマヤの脳裏には、自分の守ってくれたカミルの背中があった。
 その背中が、気弱だったマヤの背中を押した。


「私は、ミストラル男爵家の令嬢です! それに私は、あの平民のように民を救う力になりたいのです!」
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