木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第6章 待ち望んだ再会と星降る夜の語らい

第340話 家族との別れ

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 ※フリージア視点です。



 お父様から言われた通り屋敷の門を出た私たちは、辺りがすっかり暗くなったにも関わらず、ここからかなり離れたある場所が不自然に明るいことに嫌な胸騒ぎを覚えた。


「ノルベルトの刺客達か? やけに早いな」
「恐らくそうだろうね。ここに来るにはまだ時間がかかると思うけど……たぶん、僕たちを早く始末して、ノルベルトに多めに吹っ掛けるじゃないかな」
「そんな……」


 (もうノルベルトが刺客を放っていたなんて)

 刺客達が予想よりも早く動き出したことに頬を引き攣らせた私やお母様とは対象的に、リュシアン兄様とロスペル兄様はとても険しい顔で明るくなっている場所を凝視していた。
 すると、かなり前から門の近くで待っていた御仁が私たち声をかけてきた。


「ご無沙汰しております、皆様」
「エドガス」


 私たちに声をかけてきた御仁は、サザランス公爵家の前執事エドガスだった。


「エドガス、わざわざ来てくれてありがとう」
「いえいえ、サザランス公爵家の一大事とあらわば、老体に鞭を打っても駆けつけるというものですよ」
「そうは言っているが、相手に隙を見せない姿勢を相変わらずだな」
「恐れ入ります」


 木こりの恰好をして現れた彼は、貴族家に仕えることを辞めてしばらく経ったにも関わらず、洗練された身のこなしで深々と頭を下げた。
 そんな彼の後ろには、商人達がよく使っている大きな幌馬車があった。

 (私、この馬車に乗るのね)

 お父様から事前に教えてもらっていた私は、王都でたまに見かける幌馬車を興味深そうにまじまじと見た。
 その横では、リュシアン兄様は我が家の御者と打ち合わせをしていた。
 どうやら、お兄様と一緒にヴィルマン侯爵家に行くらしく、右手首にはお父様から贈られたであろう銀色のブレスレットが付けられていた。


「すまない、待たせたな」


 そうして、最後に屋敷を出たお父様が荷物を持って門の前に立った。


「エドガス、引退したところすまないが、フリージアのことを頼んだぞ」
「はい、お任せください。レクシャ坊ちゃま」
「『坊ちゃま』はやめてくれ。これでも今は現サザランス公爵家当主なのだから」
「ホホッ、そうでしたね」


 楽しそうに笑うエドガスの手首には、銀色のブレスレット。
 こちらもお父様から贈られたものね。

 エドガスに弄られて照れているお父様を家族全員で笑っていると、小さく咳払いしたお父様がいつになく真剣な表情で私たちを見た。


「では、みんな。しばらくの別れだ」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥から何かがせり上がり、自然と口から出ていた。


「ねぇ、本当に私たちは離れ離れにならないといけないの?」
「フリージア?」


 そして、一度口に出してしまったら、もう止まらなかった。


「悪いことをしたのはノルベルトなのに! どうして、どうして私たちが離れ離れにならないといけないの!?」
「フリージア、それは私たちが生きるために仕方のないことだって、先程、お父様がおっしゃっていたでしょ?」
「分かっている! 分かっているけれど……!」


 こんなことを口にしたところで、追い詰められている状況が変わるわけでもない。
 むしろ、みんなを困らせるだけ。

 分かっている、分かっているけれど!!


「どうして、どうして、私たちだけこんな目に遭わないといけないの?」
「フリージア……」


 声を震わせながら訴えかけるようにその場にいる皆とゆっくり目を合わせると、眉を顰めたお父様がエドガスの方を見た。


「エドガス、すまないが先にフリージアを連れて行ってくれ」
「っ!」
「よろしいのですか?」
「あぁ……頼む」
「……かしこまりました」
「お父様!」


 お父様にすがりつこうとしたが、リュシアン兄様とロスペル兄様に両腕を掴まれ、そのまま幌馬車の荷台に押し込められた。


「リュシアン兄様! ロスペル兄様!」
「すまん、フリージア。だが、生きていてほしんだ」
「そうだよ、フリージア。生きてまた会おう」
「そうよ、フリージア。だから今は我慢して」
「嫌だ! 離れるなんて嫌だ!」


 子どものように駄々をこねる私を見て、とても辛そうな顔をしたエドガスが心を鬼にしてすぐさま入口を閉じると、足早に御者台に乗った。


「エドガス!」
「申し訳ございません、お嬢様。これも全てお嬢様のためです」


 僅かに声を震わせたエドガスは、手綱を強く握り締めると、馬に声をかけて馬車を走らせた。


「フリージア、生きてくれ! 生きてまた会うんだ!」
「お父様!! お母様!! リュシアン兄様! ロスペル兄様!」


 荷台につけられた小さな窓から、徐々に遠ざかっていく屋敷と家族の様子を見て、私は声を枯らすような大声で泣きじゃくった。
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