木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第6章 待ち望んだ再会と星降る夜の語らい

第339話 逃亡準備(後編)

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 レクシャから一通り話を聞いたフリージア達はその後、執務室を出て自室に戻り、屋敷から離れるための荷造りに取り掛かった。

 (淑女教育の一環で、この国の貴族がどんな魔法を得意としているのかある程度把握していたから、ノルベルトが闇魔法である改竄魔法が使えることは知っていたし、ノルベルトが良からぬことを考えていることも分かっていた。けれど……)


「ノルベルトのせいで友人も婚約者も全員赤の他人になるんだと思うと、物凄く寂しいわね」


『フリージア、この魔法をどうかしら?』
『フリージア嬢、もう一本しようか?』
『フリージア嬢、その攻め方はどうかと思うぞ?』
『フリージア、今日はどこへ行こうか?』


 自室で1人荷造りを終え、ベッドに座ったフリージアの頭の中に浮かぶのは、家族や使用人達、シトリンやマヤ、ラピスやカトレア、そして、婚約者のメストの……親しい人達と笑って過ごしていた穏やかな日々。

 (みんなから名前を呼ばれることも、みんなと笑いあえる日々も、ノルベルトの改竄魔法で全て無くなってしまうのね)


「う、ううっ……」


 大切な人達が目の前からいなくなる寂しさを実感したフリージアは、静かにベッドに伏せ、家族の前では決して見せなかった涙を流した。

 その頃、大広間に集まった使用人達にレクシャが家族に話した内容を話した。
 そして、換金を終え、お金の入った小袋を人数分持ってきたティアーヌとロスペルが来ると、それらを使用人全員に渡し、レクシャの指示のもと、ロスペルの転移魔法で全員を帝国に転移させた。




「お父様は使用人達に言ったわ。『明日、我がサザランス公爵家はこの国から消える。だから決して王国に来ることなく、逃亡先のサザランス侯爵家の親戚達に仕えろ』と」
「それって……」


 顔を青ざめさせるカトレアに、沈痛な顔をしたフリージアが小さく頷いた。


「えぇ、その日の夜、私はノルベルトが放った刺客達によって全てを奪われたのよ」
「「っ!!」」


 (やはり、フリージア嬢は3年以上も前に全てを奪われたのか!)

 改めて知らされた事実に、やるせなさを感じたラピスが悔しそうに拳を握っている傍で、何かを思い立ったカトレアが恐る恐る口を開く。


「ねぇ、フリージア」
「何?」
「もしかしなくても、私やラピスがあんたと会った時、あんたはすぐに私たちだって気づいてくれたの?」
「当たり前じゃない。そもそも、王都で仕事しているのだから、あなた達のことは前々から知っていたわよ。声はかけなかったけど」
「「…………」」


 無理矢理笑顔で答えたフリージアを見て、カトレアとラピスは申し訳なさから揃って目を逸らす。
 すると、不意に木こりの恰好をしたフリージアを始めてみた時の感想が脳裏に蘇った


『隊長、あの平民は一体何なんですか!? 騎士に対してあんなことを言うなんて!』
『メスト様、どうして平民がいるのですか? それも、レイピアなんて扱えもしないものを持って』


 (王都で会ったあの時、フリージア嬢は俺や隊長に副隊長のことを知っていた)
 (でも、会った時に私たちには自分に関する記憶が無いと分かっているから、赤の他人として接するしかなかった)

 フリージアの話を聞いて、罪悪感を覚える親友に、フリージアは小さく息を吐くと話を続ける。


「荷造りを終えた私とリュシアン兄様は、お父様に言われた通り、銀色のリングに無効化魔法を付与したわ」
「それって、フェビル団長が持っているものか?」
「えぇ、そうよ」


 王都でフェビルと再会した時、フリージアは見覚えのあるブレスレットを見て、それらが無事に届けられていたことに安堵していた。
 また、2人が付与したブレスレットは、フェビルだけでなく、国王やジルベール、シュタール辺境伯夫妻やヴィルマン侯爵に手紙と共に贈られたものでもあった。


「荷造りを済ませたお母様はロスペル兄様と共に信頼出来る行商人を呼んで、換金できる物を全てお金に変えて、それを屋敷にいる全員に分配したわ」


 そして、フリージアとリュシアンがレクシャの用意したブレスレットに無効化魔法の付与を終えると、大広間にいたレクシャに報告した。
 家族全員に屋敷の外に出るよう指示したレクシャは、一旦執務室に戻り、全てに無効化魔法が付与されていることを確認すると、事前に用意していた手紙に入れ、それらをインホルトに届けさせた。

 そうして、荷物を持ってレクシャが屋敷を出た時には、既に日は落ち、ノルベルトが放った刺客達がサザランス公爵家のいる屋敷に向かっていた。
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