木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第6章 待ち望んだ再会と星降る夜の語らい

第348話 恩に報いる

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「そして、再開後の仕事を一通り終えて、村人達から頼まれた買い物を済ませた帰り道、私は平民を甚振る騎士様を見かけたの」
「っ!」


 (その頃からノルベルトの影響を受けたバカ騎士共が好き勝手していたのか!)

 リースタ達のことが頭を過ったラピスは、険しい表情で静かに拳を握る。
 そんな彼を一瞥したカトレアは、ふと疑問に思ったことを口にする。


「ちなみに、そのバカ騎士ってエドガス様が亡くなって、フリージアが仕事を再開した時から出てきたの?」
「いいえ、確か私が平民として2ヵ月後に木こりの仕事を手伝い始めたから……その頃には、既に騎士様達が好き勝手にしていたはずよ」
「つまり、改竄魔法がかけられてすぐに騎士達がバカを始めたってことね」
「そう、ね。平民として初めて王都に行く時、エドガスから『王都は今、騎士達によって治安が悪くなっていますので、絶対にお傍を離れないでください』って忠告を受けたから」
「っ!!」


 (俺が第二騎士団として魔物討伐をしていた頃、フリージアはエドガスと共に治安の悪くなった王都を出入りしていたのか)


「クソッ!」


 悔しそうに握った拳をテーブルに叩きつけたラピスを見て、僅かに目を伏せたカトレアは視線をフリージアに戻す。


「それじゃあ、その時からフリージアが戦っていたってこと?」
「ううん、私は護身用でレイピアを持っていただけで、いつもエドガスが得意の暗殺術で平民に悪さをする騎士様を無力化していたわ」
「マジ、か……」


 (改竄魔法で記憶が無いとはいえ、暗殺術においては右出る者はいないとされているエドガスに刃を向けるなんて無謀すぎる)

 話を聞いてラピスが顔を青ざめさせたのには、エドガスの経歴にあった。

 かつて、ペトロート王国から遥か東にある島国に生まれたエドガスは、幼い頃から暗殺者として育てられ、若い頃から数多の人達を手にかけてきた。
 その後、罪がバレて、祖国を追放されたエドガスは、あてもなく彷徨っていた果てに、ペトロート王国に流れ着いた。

 そこで出会ったのが、レクシャの父であり、フリージアの祖父である先代のサザランス公爵だった。

 森で偶然、行き倒れていたエドガスを見つけた先代は、彼の経歴と洗練された身のこなしを見て『これは、新たなサザランス公爵の武器になるかもしれない!』と思い、彼を執事兼護衛役として傍に置いた。

 罪の重さから死を選んだエドガスだったが、『それなら、これからはサザランス公爵家の一員として、殺してきた人以上の人達を救いなさい。それが、君が背負うべき十字架だ』と言葉をかけてくれた先代の懐の深さに感銘を受け、彼は執事兼護衛役として彼に尽くした。

 そして、先代からサザランス公爵家の事情を知ったエドガスは、拾ってくれた主の恩を報いるため、先代に直談判して、サザランス公爵家の人達や自分と同じ使用人達に護身術として、彼が幼い頃から身につけていた回避技や気配の感じ取り方や消し方などを教えた。

 もちろん、先代の孫であるリュシアンやロスペル、フリージアにも教えている。

 ちなみに、ラピスは幼い頃に、メストやシトリンと共に教えてもらったが、エドガスの洗練された身のこなしに幼子ながら恐れ戦き、それが今のラピスにとって軽いトラウマになっていた。


「凄腕の暗殺者だったエドガスが、悪徳騎士達を無力化するのは平民の間で有名だった。だから、好き勝手する騎士様を見つける度に、彼が率先して容赦なく無力化したわ」
「うっ!」


 (手加減しているとはいえ、エドガス様から一撃食らったらたまったものじゃないな)

 顔面蒼白のラピスを一瞥し、小さく溜息をついたカトレアは少しだけ険しい顔をする。


「ちなみに、あんたはどうしていたの? エドガスと一緒に戦っていたの?」
「いいえ。私はエドガスからの言いつけを守って、戦わずに馬車の荷台に隠れてレイピアを握り締めていたわ」
「それじゃあ、エドガス様がいなくなった後、バカ騎士達を無力化出来る人は、あんたを除いて誰もいなかったってこと」
「そう、なるわね」


 静かに頷いたフリージアは、初めてエドガスが戦っているところを見た時のことを思い出す。


『エドガス。どうして、騎士様に楯突いてまで平民を助けるの?』


 (今のペトロート王国で騎士様に楯突いたらとんでもないことになるはずなのに)

 平民として生活をし始めて2ヵ月経ったフリージアは、鮮やかに悪徳騎士を無力化したエドガスに近寄り、心配そうに問い質す。
 すると、フリージアの方を見たエドガスがが、優しい笑みを浮かべてフリージアの頭を撫でた。


『それはですね。旦那様ならきっとこうするだろうと思ったからです』
『お父様なら?』
『そうです。旦那様は理不尽に強いる人達を心底嫌っていました。そんな優しい旦那様ですから、きっと見過ごすような真似はしないだろうと』


 その時に見たエドガスの顔がとても誇らしげに見えたが、貴族としての自分がまだ捨てられなかった当時のフリージアには出来なかった。
 けれど……

 (仕事帰りに悪徳騎士様を見かけた時、エドガスの言葉を思い出した私は、いつも護身用に携えていたレイピアを手に取った)


「だからこそ、今度は私が平民を助けようと思ったの」


 (それが、エドガスから受けた恩に報いることであり……ひいては、お父様がこれからやろうとしていることだと思ったから)
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