木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第6章 待ち望んだ再会と星降る夜の語らい

第370話 木こりと騎士の別れ(後編)

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 ※最終回ではありませんのでご了承ください。



「すまん、カミル。宰相閣下の横暴に巻き込まれたとはいえ、しばらくの間、来られなくなってしまって」
「い、いえ……ようやくお役目を果たせるのですから」
「そう、だな」


 カミルの言葉に一瞬苦い顔をしたメストは、無理矢理笑みを浮かべた。


「カミルの言う通り、ようやく近衛騎士としての役目を果たせる。これは喜ばしいことだな」
「…………」


 (そうよ、ようやくメスト様が近衛騎士としての仕事が回ってきたの。だから、彼が強がっている姿を目の当たりにしても、今の私にはどうすることも出来ない)

 強がっているメストの笑顔を見て、眉を顰めたカミルが握っていた拳に力を入れる。
 すると、何かを思いついたメストがカミルに微笑みかけた。


「なぁ、カミル」
「何でしょう?」
「もし、俺が近衛騎士として無事に仕事を終えることが出来たら、俺と一緒に隣国に旅行しないか?」
「えっ?」


 (隣国に旅行?)

 メストからの突然の提案に、言葉を失うカミル。
 それ見たメストは、大きく背伸びをすると朝日が差し込む清々しい森の風景に目をやった。


「正直、もう疲れたんだ。婚約者のことも。今の仕事のことも」
「っ!」

 真面目で誠実で、騎士として誇りを持っているメストしか知らないカミルにとって、彼の口からそんな言葉が出るとは思いも寄らなかった。
 だけど、『疲れている』と口にしたメストは、どこか憑き物が取れたような晴れやかな顔をしていた。


「だから、仕事が全て終わったら気晴らしに旅行に行こうと思っていてな。知っているか? 隣国の帝国って、実は魔道具技術の発展が目覚ましい国なんだ!」
「えっ、あぁ……そういえば、あなた様ってそういうのは詳しい方でした?」


 (今まで魔道具が詳しいなんて聞いたことが無かったんだけど)


「いや、俺も受け売りだから詳しくは無いのだが……だが、見てみたいとは思わないか!?」
「まぁ、見てみたいとは思いますが」
「そうだろ! もちろん、旅費は全て俺が出すし、貴族である俺と一緒なら国外に出ても問題ないはずだ!」


 (確かにお貴族様の従者としてメスト様と一緒にいれば、この国を出て、隣国に旅行に行くことは出来るけど……)


「どうして、平民の私と一緒に旅行ですか? そこは、婚約者と一緒に行くべきは?」


 (それなら、絶縁状態になっている婚約者とよりを戻せるかもしれないじゃない)

 正直、カミルはメストの背中を押すようなことをしたくなかった。

 何だったら、一緒に旅行に行きたいと言ってくれたメストの言葉が嬉しくて仕方なかったし、旅行に行きたいとも思っていた。

 けれど、彼の貴族としての幸せを考えた時、平民でしかないカミルには、メストとダリアのよりを戻すように仕向けるしかなかった。
 例え、彼がダリアのことを良く思っていないと分かっていても。

 そんなカミルの気遣いに、一瞬だけ傷ついたような顔をしたメストは、すぐに笑みを零すと小さく首を横に振った。


「いや、隣国嫌いのダリアは絶対に行かないはずだ。何より……」


 メストのアイスブルーの瞳が、カミルを愛し気に見つめた。


「カミルと一緒に色んなものを見てみたいからだ」
「私と、ですか?」
「あぁ、そうだ」
「っ!」


 (これは平民の私にかけられた言葉だと分かっている。それでも、勘違いしてしまいそうになる。『メスト様が記憶を取り戻したのではないか』と)

 メストの笑顔と言葉に、一瞬胸を高鳴らせたカミルは、小さく咳払いをするといつもの無表情で口を開いた。


「平民の私と行っても何も面白くないと思いますよ?」
「そうか? 俺は新作スイーツに目を輝かせるお前のことだから、きっと隣国の新作スイーツを見たら絶対に目を輝かせると思うが」
「うぐっ」


 (まさか、そんなところを見られていたなんて)

 楽しそうに笑うメストに、少しだけ苦い顔をしたカミルだったが、フッと笑みを零した。



「……フフッ」
「カミル?」


 (全く、貴族と平民が一緒に旅行に行くなんて、今のペトロート王国では前代未聞よ。それでも……)

 小首を傾げるメストに、カミルは微笑んだ。


「でも、あなた様の言う通り、目を輝かせるかもしれませんね」
「っ!」


 朝日が差し込む森の中で柔らかに微笑んだカミルに見惚れ、少しだけ頬を染めたメストが息を呑む。
 すると、森を見上げたカミルが寂しそうに呟いた。


「そろそろ、行かないとですね」
「あぁ、そうだな」


 懐中時計型の魔道具を取り出したメストは、いつものように魔道具に魔力を流し込む。
 それを見ていたカミルは、少しだけアイマスクとベレー帽を外すと彼の名前を呼んだ。


「メスト


 それは、いつものアルト声ではなく、女性らしいソプラノ声で呼んだ、今までカミルが心の中で呼んでいた彼の名前。
 驚いて顔を上げたメストは、目の前に立っているカミルと脳裏に蘇った銀髪の少女が重なって見えた。


「どうか、ご無事で」
「っ!?」


 (もしかして……)


「カミル、もしかして君は……!!」


 アイマスクとベレー帽を外したカミルの笑みに、懐かしさを覚えたメストは思わず手を伸ばした。
 だが、ワケアリ平民にその手が届くことが無かった。


「メスト様、どうか無事に務めを果たして下さい。そして……」


 いつものように王都に変えるメストを見送ったカミルは、アイマスクとベレー帽を外すと木々の隙間から見える澄んだ青空を見上げた。


「2人で旅行、行きましょう」


 静かな森の中、銀色の短い髪を風に靡かせ、淡い緑色の瞳を細めた木こりは、想いを寄せている騎士の無事を願った。

 これが、木こりと騎士が会う最後の日になることも知らずに。
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