木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第6章 待ち望んだ再会と星降る夜の語らい

第371話 ルベルの愚痴

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 建国祭を2週間後に控えたある日、いつものように仕事場に遊びに来たダリアを城門まで送り届けたカトレアは、酷く疲れた顔で執務室に戻って机に突っ伏した。


「全く、建国祭も近いっていうのに何が『次の休日はドレスを仕立てに行くわよ!』よ。建国祭まで休みが無いのは分かっているでしょうに!」


 (そもそも、親友でも何でもない他人の買い物に付き合うはずがないわ!)

 深く溜息をついたカトレアは、顔を上げると頬杖をつく。


「これを『親友だから』という理由で渋々受け入れていたなんて……今考えると恐ろしいわ」


 記憶を取り戻したカトレアは、今までのことを振り返り、改めてノルベルトの改竄魔法の恐ろしさを痛感して身震いをする。
 すると、宮廷魔法師団団長ルベルが、心底疲れた顔でノックもなしに入ってきた。


「ルベル団長!? 一体、どうされたのですか」
「すまん、カトレア。ちょっと俺の執務室に来て、愚痴に付き合ってくれないか? 茶と菓子は用意してやるから」
「えっ、えぇ」


 (いつもは愚痴を一切吐かないルベル団長が愚痴なんて)

 (いつもは愚痴を一切吐かないルベル団長が愚痴なんて)

 宮廷魔法師団団長として、長らく宮廷魔法師団を率いてきたルベルは、宮廷魔法師としての剛腕を見せつつも、団長として冷静沈着な判断で的確に指示を出し、騎士団と共に魔物や周辺諸国から国を守ってきた。

 そんな彼の姿は、部下達から尊敬の念を抱かれる程に絶大な信頼を得ており、彼が弱音や愚痴を吐いている姿は一度も見たことが無かった。

 それを知っていたカトレアは、団長の初めて見る姿に困惑しながらも了承し、彼と共に団長室を訪れた。


「座ってくれ、今用意する」
「わ、分かりました」


 ルベルに促されるまま、カトレアは応接用のソファーに座ると、対面に座ったルベルが魔道具を使って紅茶を淹れると、そのままカトレアは差し出した。


「ほれ」
「い、いただきます」


 恐る恐るティーカップに口を付けたカトレアは、上司が淹れてくれたお茶の上手さに思わず目を見開いた。


「美味しいです。団長、紅茶を淹れるがお上手なのですね?」
「まぁな。息抜きがてらたまに淹れている。ある意味、俺の趣味だな」
「そうなのですね」


 (団長に紅茶を淹れる趣味があったなんて)

 ルベルの意外な趣味に内心驚きつつ、淑女らしく音を立てずにティーカップを置いたカトレアは、背を正して薄紫色の瞳をルベルに向けた。


「それで、ルベル団長。一体何があったのですか?」
「あぁ、それがな」


 いつの間にか自分用のお代わりを入れていたルベルは、ティーカップを置いて深いため息をつくと、片手で額を覆ってソファーの背凭れにドカッと体を預けた。


「さっき、例の件について謁見の間に呼ばれたから行ったんだよ」
「例の件……あぁ、そう言えば今日、私が魔物討伐のときに出会った平民を魔法で撃った剣で呼ばれていましたね」


 (ダリアの相手をしていたお陰ですっかり忘れていたわ)

 カトレアが自分の執務室でダリアの相手をしていた頃、謁見の間に呼ばれたルベルは、半年前の魔物討伐でカトレアがカミルに魔法で撃った噂の真偽を問い質されていた。


「建国祭も近いというのに、今になって半年前に流れた噂話の真偽を追及するのですか?」
「あぁ、俺も今更だと思う。だが、お偉いさん……というより、アイツが『建国祭前に懸念事項を払拭せねば』と思ってあの場を設けたらしい」
「アイツ?」
「あの自称切れ者宰相のことだよ」
「あぁ……」


 (そう言えば、今って宮廷魔法師の副団長をしているバカ息子がしているのよね。本当、大変腹立たしい話だわ。それを当たり前のように受け入れていた私も大概だけど)

 実は、ノルベルトの采配で宮廷魔法師の副団長にリアンがついていた。
 だが、彼は一度も宮廷魔法師としての仕事はおろか、宮廷魔法師団本部に立ち入ったことがない。
 所謂、お飾り副団長である。

 (大方、建国祭の前に私とルベル団長と私を追い出し、あのバカ息子を団長に据えることで、宮廷魔法師団を私物化するつもりだったのでしょう)


「まぁ、そんなことさせないんだけど」
「カトレア?」
「いえ、何も。それよりも、今回の件で団長を呼び出したのは宰相閣下ということでしょうか?」
「そうだな。まぁ、俺を呼びに来たのは、奴に媚びまくっている成金貴族だが」
「やっぱり……だとしたら、もう少し早くするべきだったのでは?」


 (それこそ、事態が終息したタイミングで……いや、私と団長を蹴落としたければ建国祭が行われる前の今が丁度良いのかしら。とはいえ、そもそもあれは、ダリアが面白半分で私を魅了魔法にかけたのが全ての原因だから、団長を呼び出すのは全くのお門違いなんだけど) 

 操られていた時のことを思い出し、頭に血が上りそうになったカトレアは、気分を変えようと目の前にある菓子に手を伸ばす。
 すると、ルベルが呆れたように溜息ついた。


「『建国祭の準備で忙しく、この時間しかなかった』んだと」
「準備で忙しかったから……」


 (それはこっちも同じなのだけど……まぁ、ノルベルトの場合は建国祭の準備より建国祭内で行う大規模魔法の準備で忙しいのでしょうけど)

 綺麗な眉を僅かに顰めたカトレアが、持っていた菓子を口の中に放り込む。
 すると、ルベルが再び深いため息をつき、姿勢を前屈みにすると目の前にあるローテーブルに両肘をついて組んだ。


「とはいえ、俺はお前に『処罰』と称して護衛として帝国に行かせた。そして、それを報告として上げた。そしたら、何の音沙汰もなかったから、てっきりそれで納得して宮廷魔法師の私物化を諦めたものだと思っていたが……」
「諦めていなかったということですね」
「そういうことなるな」


 (ということは、団長の目論見は当たっていたということね)

 ルベルはノルベルトが『噂の元凶であるカトレアが、処罰で帝国に向かった』という報告に意識が向かっている隙に、魔物討伐が行われた森で審議を確かめに行った。
 それは、ルベルの下した処罰に対し、ノルベルトが納得していないと踏んでいたからだ。


「まぁ、こういう時に備えて証拠を集めていたから、俺としてはカトレアの冤罪を晴らす機会が来たなと思ったぞ」
「団長……」


 ルベルの漢気にカトレアが感動していると、ルベルの突然渋い顔になった。


「それでまぁ、証拠を携えて渋々といった体で行ったぞ。そしたら……」
「そしたら?」


 首を傾げるカトレアに向かって、ルベルは信じられないようなことを口にする。


「本来、国王陛下しか座ることが許されない玉座に、あの宰相閣下が座っていたんだ」
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