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第7章 余興と奇貨の建国祭
第392話 愚痴と後悔
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「それで、あの女が魔法を撃つたびに、私が何とかして宥めているんだけど……あの女、ほんっとうに言うことを聞かないの! あの女が宰相家令嬢なんて、我が国始まって以来の最大の汚点よ!」
憤慨するカトレアに、フリージアは唖然とする。
ちなみに、王城内で指定された場所以外で魔法を撃つことは、王族に対しての反逆と捉えかねないので禁止とされている。
「そもそも、ノルベルトが結界魔法の魔法陣を乗っ取ったせいで魔物が増えて、ほぼ毎日討伐任務や事後処理に追われているのだから、平民を痛めつける余裕なんて無いわよ!」
「そ、それじゃあ……カトレアは悪徳騎士様のような横暴を平民に振るっていないのね?」
「そうよ!」
気まずそうに視線を逸らして黙っているラピスを他所に、今までの鬱憤を怒りに変えて弁明したカトレアは、ティーカップの中身を一気飲みして一息つく。
そんな貴族令嬢らしくない振る舞いをした親友が兄を傷つけていないと知って、フリージアは安堵して小さく息を吐いた。
すると、深く息を吐いたカトレアが静かに目を伏せた。
「でも、今思えば、私が平民を痛めつけなかったのは、師匠の教えを無自覚に守ったからかも」
「ロスペル兄様の?」
空になったカトレアのティーカップに紅茶に注いだフリージアが小首を傾げると、注がれた紅茶を上品に飲んだカトレアが小さく頷く。
「事あるごとに師匠は仰っていたわ。『魔法は大切なものを守るための手段であり、安易に人を傷つけていい道具ではない』と」
そう言ってカトレアは、ロスペルの弟子になってまだ日も浅かった幼い頃のことを思い出す。
『カトレア嬢。君は何のために魔法を極めるのですか?』
『もちろん、師匠のようになりたいからです!』
澄み渡る青空の下、サザランス公爵家の屋敷でロスペルに修行をつけてもらっていたカトレアが目を輝かせると、ロスペルが興味深そうな目を向けた。
『ほう、それで極めた魔法は何に使いたいですか?』
『何に……?』
心底不思議そうな顔をするカトレアに、ロスペルは珍しく楽しそうに笑みを浮かべた。
『フフッ、どうやらまだ分からないみたいですね』
『すみません』
シュンと落ち込むカトレアを見て、ロスペルは笑みを深めた。
『いいですよ。あなたも魔法を極めれば、そのうち見えてきますから』
『はい、師匠!』
(まだ幼かった私は、師匠の問いに答えられなかった。そんな私に、師匠は魔法師として大切なことを教えてくれた)
『カトレア嬢。魔法は大切なものを守るための手段であり、安易に人を傷つけていい道具ではありません。努々、忘れないように』
『分かりました、師匠!』
「あの教えを守っていたから、私はノルベルトに記憶が改竄されても、魔法で誰かを傷つけることをしなかった」
小さく笑みを零したカトレアは、ティーカップに視線を落とした。
「小間使いをしていた師匠も、魔法を使う時はダリアの魔法を打ち消す時しか使わなかった。それも、最小限の被害で済む魔法を」
(さすが、ロスペル兄様ね)
魔法師として誇りを誰よりも持っているロスペルを思い出し、フリージアが優しく微笑むと、執務室での日々を思い出したカトレアは静かに顔を歪める。
「記憶が無かったとはいえ……私は、師匠に申し訳ことをしたわ」
カトレアの脳裏に蘇ったのは、小間使い『テオ』に対してしてきた数多の無茶ぶり。
そのどれもが、傍若無人な振る舞いで周りに迷惑をかけるダリアに比べればかなり可愛いものである。
しかし、その無茶ぶりの中には小間使いには荷が重すぎるものもあった。
「あ~! 師匠だと分かっていれば、研究所に素材を取り行かせるようなことも、大量の書類を整理させるなんてしなかったのに!」
「おい、カトレア。人里離れているとはいえ、そんな大きな声を出したら誰かに聞かれるぞ」
「大丈夫よ! 余所者嫌いの村人がここに来るわけ無いから、メスト様でもない限り誰も来ないわ!」
そのメストはというと、建国祭当日の王族警備に向けて、朝早くから夜遅くまで王城内を駆け回っている。
もちろん、カトレアもラピスもこのことは事前に把握している。
「もう! 私のバカ! 今すぐ時魔法で過去に戻って、記憶が無い自分に向かって火属性の上級魔法を撃ちこみたいわ!」
「そんなことをしたら今のお前が死ぬ」
「だって~!!」
「……ウフフッ」
「フリージア?」
怒り狂っているカトレアを、いつの間に彼女の隣に座ったラピスが宥めていると、それを見ていたフリージアが片手で口を押えながら小さく肩を震わせた。
「ごめんなさい。まさか、そこまでカトレアが悔やんでいるとは思ってもいなかったの」
(記憶を取り戻したのだから、てっきり吹っ切れていたものだと思った)
涙を拭きながら笑うフリージアに、頬を膨らませたカトレアが椅子から立ち上がった。
「当たり前でしょ! 記憶が無かったとはいえ、弟子としてあるまじき失態! いつ勘当されたっておかしくないのよ!」
「でも、ロスペル兄様はカトレアを許してくれたんでしょ?」
「そ、それは、まぁ……」
(だって、ロスペル兄様。カトレアのことを弟子としてちゃんと面倒を見てくれたんだから)
フリージアに言い当てられ、急に恥ずかしくなったカトレアが、大人しく座って気まずそうに視線を逸らすと、フリージアが優しく微笑んだ。
「それなら大丈夫よ。ロスペル兄様の教えを守っているなら勘当されることはないわ」
「……本当に?」
不安そうな目を向けるカトレアに、フリージアが笑みを深めて頷いた。
「えぇ、ロスペル兄様の妹である私が言うから間違いないわ」
憤慨するカトレアに、フリージアは唖然とする。
ちなみに、王城内で指定された場所以外で魔法を撃つことは、王族に対しての反逆と捉えかねないので禁止とされている。
「そもそも、ノルベルトが結界魔法の魔法陣を乗っ取ったせいで魔物が増えて、ほぼ毎日討伐任務や事後処理に追われているのだから、平民を痛めつける余裕なんて無いわよ!」
「そ、それじゃあ……カトレアは悪徳騎士様のような横暴を平民に振るっていないのね?」
「そうよ!」
気まずそうに視線を逸らして黙っているラピスを他所に、今までの鬱憤を怒りに変えて弁明したカトレアは、ティーカップの中身を一気飲みして一息つく。
そんな貴族令嬢らしくない振る舞いをした親友が兄を傷つけていないと知って、フリージアは安堵して小さく息を吐いた。
すると、深く息を吐いたカトレアが静かに目を伏せた。
「でも、今思えば、私が平民を痛めつけなかったのは、師匠の教えを無自覚に守ったからかも」
「ロスペル兄様の?」
空になったカトレアのティーカップに紅茶に注いだフリージアが小首を傾げると、注がれた紅茶を上品に飲んだカトレアが小さく頷く。
「事あるごとに師匠は仰っていたわ。『魔法は大切なものを守るための手段であり、安易に人を傷つけていい道具ではない』と」
そう言ってカトレアは、ロスペルの弟子になってまだ日も浅かった幼い頃のことを思い出す。
『カトレア嬢。君は何のために魔法を極めるのですか?』
『もちろん、師匠のようになりたいからです!』
澄み渡る青空の下、サザランス公爵家の屋敷でロスペルに修行をつけてもらっていたカトレアが目を輝かせると、ロスペルが興味深そうな目を向けた。
『ほう、それで極めた魔法は何に使いたいですか?』
『何に……?』
心底不思議そうな顔をするカトレアに、ロスペルは珍しく楽しそうに笑みを浮かべた。
『フフッ、どうやらまだ分からないみたいですね』
『すみません』
シュンと落ち込むカトレアを見て、ロスペルは笑みを深めた。
『いいですよ。あなたも魔法を極めれば、そのうち見えてきますから』
『はい、師匠!』
(まだ幼かった私は、師匠の問いに答えられなかった。そんな私に、師匠は魔法師として大切なことを教えてくれた)
『カトレア嬢。魔法は大切なものを守るための手段であり、安易に人を傷つけていい道具ではありません。努々、忘れないように』
『分かりました、師匠!』
「あの教えを守っていたから、私はノルベルトに記憶が改竄されても、魔法で誰かを傷つけることをしなかった」
小さく笑みを零したカトレアは、ティーカップに視線を落とした。
「小間使いをしていた師匠も、魔法を使う時はダリアの魔法を打ち消す時しか使わなかった。それも、最小限の被害で済む魔法を」
(さすが、ロスペル兄様ね)
魔法師として誇りを誰よりも持っているロスペルを思い出し、フリージアが優しく微笑むと、執務室での日々を思い出したカトレアは静かに顔を歪める。
「記憶が無かったとはいえ……私は、師匠に申し訳ことをしたわ」
カトレアの脳裏に蘇ったのは、小間使い『テオ』に対してしてきた数多の無茶ぶり。
そのどれもが、傍若無人な振る舞いで周りに迷惑をかけるダリアに比べればかなり可愛いものである。
しかし、その無茶ぶりの中には小間使いには荷が重すぎるものもあった。
「あ~! 師匠だと分かっていれば、研究所に素材を取り行かせるようなことも、大量の書類を整理させるなんてしなかったのに!」
「おい、カトレア。人里離れているとはいえ、そんな大きな声を出したら誰かに聞かれるぞ」
「大丈夫よ! 余所者嫌いの村人がここに来るわけ無いから、メスト様でもない限り誰も来ないわ!」
そのメストはというと、建国祭当日の王族警備に向けて、朝早くから夜遅くまで王城内を駆け回っている。
もちろん、カトレアもラピスもこのことは事前に把握している。
「もう! 私のバカ! 今すぐ時魔法で過去に戻って、記憶が無い自分に向かって火属性の上級魔法を撃ちこみたいわ!」
「そんなことをしたら今のお前が死ぬ」
「だって~!!」
「……ウフフッ」
「フリージア?」
怒り狂っているカトレアを、いつの間に彼女の隣に座ったラピスが宥めていると、それを見ていたフリージアが片手で口を押えながら小さく肩を震わせた。
「ごめんなさい。まさか、そこまでカトレアが悔やんでいるとは思ってもいなかったの」
(記憶を取り戻したのだから、てっきり吹っ切れていたものだと思った)
涙を拭きながら笑うフリージアに、頬を膨らませたカトレアが椅子から立ち上がった。
「当たり前でしょ! 記憶が無かったとはいえ、弟子としてあるまじき失態! いつ勘当されたっておかしくないのよ!」
「でも、ロスペル兄様はカトレアを許してくれたんでしょ?」
「そ、それは、まぁ……」
(だって、ロスペル兄様。カトレアのことを弟子としてちゃんと面倒を見てくれたんだから)
フリージアに言い当てられ、急に恥ずかしくなったカトレアが、大人しく座って気まずそうに視線を逸らすと、フリージアが優しく微笑んだ。
「それなら大丈夫よ。ロスペル兄様の教えを守っているなら勘当されることはないわ」
「……本当に?」
不安そうな目を向けるカトレアに、フリージアが笑みを深めて頷いた。
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