木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第7章 余興と奇貨の建国祭

第447話 彼と私の出会い②

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 ※フリージア視点です。



「どうした、フリージア?」
「え、あの、その……」


 (宰相家令嬢である私が『先程すれ違ったあの方とお話がしたいです』なんてはしたない真似、出来るはずがない。でも、どうしてもお話してみたい!)

 デビュタント前の私は、人生で初めてのお茶会とあってどのように振る舞えばいいか分からなかった。

 というより、淑女教育で教えてもらったことが全て頭から吹き飛んでしまっていた。

 それくらい、一目見た彼に心を揺さぶられていた。

 どう答えたらいいか分からず、俯きながら口ごもっていると、先程すれ違った親子がこちらにやってきた。


「サザランス公爵様、いらしていたのですか?」
「おぉ! ディロイス! お前も来ていたのか!」
「っ!」


 (先程すれ違ったあの方じゃない!)

 すれ違いざまに見た深い紺色の髪と涼やかなアイスブルーの瞳をもつ凛々しいお顔立ちの彼が父親らしき人と現れ、思わず息を呑む。


「公爵様、公の場なのですから名前で呼ぶのは……」
「あぁ、すまなかった。ヴィルマン侯爵殿」
「ヴィルマン侯爵様?」


 (『ヴィルマン侯爵』ってあの『王国の剣』と呼ばれているわが国の有力貴族の1人じゃない。だとしたら、隣にいらっしゃる方は……)

 お父様の話を聞いていた私がゆっくりと貴族令息に視線を戻した時、侯爵様の関心が私に向けられた。


「ところで公爵様。そちらにいらっしゃる可愛らしいお嬢様はもしかして……?」
「あぁ、そうだった。フリージア、ご挨拶を」
「は、はい!」


 目の前の貴族令息に見惚れていた私は、父に背中を押され、慌ててカーテシーをしてご挨拶をした。


「お初にお目にかかります、ヴィルマン侯爵様にヴィルマン侯爵令息様。サザランス公爵家が娘、フリージア・サザランスでございます」
「おぉ、この幼さでこのような丁寧な挨拶が出来るとは! さすが、サザランス公爵家の娘さんですね!」
「恐れ入ります」


 陛下に続き、ヴィルマン侯爵様からも褒められ、満更でもない気持ちの私を見て、お父様が心底嬉しそうな顔をしながら私の頭を優しく撫でる。
 すると、侯爵様が横にいた子息に視線を向けるとニヤリと笑みを零す。


「こうなったら、メストも負けてはいられないな」
「父上、こういうのに勝ち負けはありませんよ」
「っ!」


 (なんて、耳心地の良い綺麗なお声なの! それに、先程見た真剣な凛々しい表情も素敵だったけど、今の少々不貞腐れたような表情も素敵だわ!)

 ヴィルマン侯爵令息様の不満げな表情にときめいている私を他所に、侯爵様は笑みを深めて言い募る。


「だが、自分より年下の子が貴族らしい挨拶を出来て、自分は出来ないなんて悔しいとは思わないのか?」
「まぁ、悔しくないと言えば嘘になりますが……ですが、彼女は公爵令嬢ですから、物心ついた時からそういう教育を受けていたかもしれません。それに、私だって貴族としてきちんと挨拶は出来ますよ」
「それでも、先程のお前の挨拶よりも、今の彼女の挨拶の方が、貴族としての振る舞いも言葉遣いも洗練されているぞ?」
「それは彼女が……はぁ、仕方ありません」


 小さく溜息をついたヴィルマン侯爵令息様は、私に視線を移すと優しく微笑みかけて胸に手を当て、深々とお辞儀をして私とお父様に挨拶をする。


「ご無沙汰しております、サザランス公爵様。そして、お初にお目にかかります、サザランス公爵令嬢様。私はヴィルマン侯爵家が子息、メスト・ヴィルマンと申します」
「メスト、様……」


 (とても素敵な名前だわ! この方と是非ともお近づきになりたいわ!)

 この瞬間、私はメスト様に一目惚れして恋に落ちた。

 けれど、それを知ることになるのはメスト様と仲良くなった後のこと。

 なにせ、領地で淑女教育や剣の鍛錬に明け暮れ、暇さえあれば領民に交じって遊んだり読書をしたりしていた私にとって、『恋愛とは、おとぎ話の中でのこと』だと思っていたから。

 そんな私の無自覚な初恋を一目で見抜いたお父様は、私に優しく微笑みかけると大変心臓に悪い提案をしてきた。


「フリージア。もし良かったら今度、ヴィルマン侯爵令息に我が屋敷に来てもらって、一緒にお茶でもするかい?」
「えっ!? ですが、婚約者がいらっしゃったら申し訳ありませんし……」


 (あれっ? 『婚約者』と口にした瞬間、なぜか胸がチクッと痛くなった気がする)

 不意に来た胸の痛みに内心首を傾げつつ、なぜか頬が熱い私が狼狽えていると、それを見た侯爵様が笑った。


「ハハッ、それならご安心を。この子はまだ婚約者がいませんから。そうだよな、メスト?」
「そうですね」
「そ、そうなのですね」


 (良かった。ヴィルマン侯爵令息様、まだ婚約者がいらっしゃらないのね……って、どうして安心しているの?)

 『婚約者がいない』と分かった途端、なぜだか安堵した私が思わずため息をついた時、お父様が助け船を出す。


「ではメスト君、良かったらうちに来てフリージアとお茶を飲んでくれるかい?」
「はい、もちろんです」
「っ!……では、お言葉に甘えて」


 すると、ヴィルマン侯爵令息様が私にニコリと笑った。


「よろしくお願いします。フリージア・サザランス公爵令嬢様」
「は、はい! よ、よろしくお願いします! メスト・ヴィルマン侯爵令息様」


 (どうしよう、初めて会った人を我が家に招いて一緒にお茶することになったわ!)

 それから数日後、私は初恋相手であり、後の婚約者であるメスト・ヴィルマン様を屋敷に招いて、2人きりのお茶会をすることになった。
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