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14. いまはむかし
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その昔、1人の悲しい女性がいた。
その美貌と優秀さゆえ望まぬ結婚を強いられ、政略の渦に飲み込まれた挙句、歴史の陰に消えていった女性が。
私のお父様ーーハワード・フェルマー公爵は、先国王の異母兄、つまり先先王の一人息子だった。そう、お父様は国の第一王子としてこの世に生を受けたのだ。もしお父様がそのまま国王になっていたら、私はなんとお姫様だった。
残念なことに、先先王、つまり私のお祖父様は稀に見る愚王だった。無策としか言いようのない国政を繰り返し、快楽に耽っては国の財政を傾けた。
第一王子だった頃から浅はかだったのに、なぜ彼が王位につけたのか。もちろん馬鹿な王子を傀儡として利用しようとする派閥があったことは確かだが、何よりも彼の王太子としての立場を強固にしていたのは、彼の美しい妻だった。
彼女はとても思慮深く賢明で、他国の王族の流れをも汲むその実家の強大な力も見込まれて、王命によって王家に嫁いだ。彼女の存在が後ろ盾になり、決して少なくなかった反対派を抑えて、愚かな第一王子の頭上に王冠が載ってしまったのだ。
王妃になった彼女は王の不足分を補うように奔走するも、その努力も虚しく、年々悪化していく夫の愚行を食い止めることは出来なかった。
完全なる政略結婚の間柄に愛はない。王太子時代に義務で跡継ぎを作ったはいいが、苦言ばかり口にする正妻を彼は蔑ろにした。国王に即位してからは益々その傾向が強くなり、臣下の前でも平気で罵倒する始末。側に侍らせた愛人達と贅の限りを尽くし、日々怠惰に過ごした。もちろん執務はほぼ周りに丸投げで、自分を持て囃す人間ばかりを側近に据えた。
碌に仕事もせず金を湯水のように使い、先王からの古参の重鎮に注意されれば、「金がないのなら、ある所から取り立てればいい」と、無茶な課税を繰り返した。年々重くなっていく税金に、国民の不満は募るばかりだった。自分達は日々の暮らしにも苦労しているのに、王宮初め、一部の貴族達は華やかに遊び呆けているのだから当然だ。
王妃が幾ら財政を工面して市民の福祉に尽力しても、その苦労を嘲笑うように国王が台無しにする。
このままではいつか暴動が起きてしまう。
王妃に加え、国の未来を心配する家臣達が非難するも、国王は一切聞く耳を持たなかった。さらには難癖つけて自分に異議を唱える貴族の爵位を剥奪、国外追放するにまで至って、ラッセル王国は混乱を極めた。
このまま国王の元で甘い汁を吸いたい派閥と、国王の異母弟ーー 第二王子を新しい王に据えて、国を立て直したい一派の対立が顕著になり、ほぼ国を二分する非常事態になったのだ。
一番嘆いたのは王妃だった。
彼女の立場的には、国王派でなければならない。けれど軌道修正しようにも、もはや馬鹿な夫の行動を抑えきれなかった。
お父様曰く、お祖母様は『国民あってこそ国は成り立つ』を信条に、とても誇り高い気概に満ちた女性だったらしい。
実の子であるお父様にも息子としてではなく、次代の国王として接した。常に厳しく、そこに親子の情は一切なかったとか。いよいよ国の在り方に陰りが見えてきた時には、王族としての在り方をこれでもかとまだ幼いお父様に叩き込んだ。
そして最後に、王妃のプライドでもってーー
全てを終わらせた。
自分達のせいで国が混乱に陥り、民に無理を強いている。
そのことが、気高い彼女には耐え難かった。
その美貌と優秀さゆえ望まぬ結婚を強いられ、政略の渦に飲み込まれた挙句、歴史の陰に消えていった女性が。
私のお父様ーーハワード・フェルマー公爵は、先国王の異母兄、つまり先先王の一人息子だった。そう、お父様は国の第一王子としてこの世に生を受けたのだ。もしお父様がそのまま国王になっていたら、私はなんとお姫様だった。
残念なことに、先先王、つまり私のお祖父様は稀に見る愚王だった。無策としか言いようのない国政を繰り返し、快楽に耽っては国の財政を傾けた。
第一王子だった頃から浅はかだったのに、なぜ彼が王位につけたのか。もちろん馬鹿な王子を傀儡として利用しようとする派閥があったことは確かだが、何よりも彼の王太子としての立場を強固にしていたのは、彼の美しい妻だった。
彼女はとても思慮深く賢明で、他国の王族の流れをも汲むその実家の強大な力も見込まれて、王命によって王家に嫁いだ。彼女の存在が後ろ盾になり、決して少なくなかった反対派を抑えて、愚かな第一王子の頭上に王冠が載ってしまったのだ。
王妃になった彼女は王の不足分を補うように奔走するも、その努力も虚しく、年々悪化していく夫の愚行を食い止めることは出来なかった。
完全なる政略結婚の間柄に愛はない。王太子時代に義務で跡継ぎを作ったはいいが、苦言ばかり口にする正妻を彼は蔑ろにした。国王に即位してからは益々その傾向が強くなり、臣下の前でも平気で罵倒する始末。側に侍らせた愛人達と贅の限りを尽くし、日々怠惰に過ごした。もちろん執務はほぼ周りに丸投げで、自分を持て囃す人間ばかりを側近に据えた。
碌に仕事もせず金を湯水のように使い、先王からの古参の重鎮に注意されれば、「金がないのなら、ある所から取り立てればいい」と、無茶な課税を繰り返した。年々重くなっていく税金に、国民の不満は募るばかりだった。自分達は日々の暮らしにも苦労しているのに、王宮初め、一部の貴族達は華やかに遊び呆けているのだから当然だ。
王妃が幾ら財政を工面して市民の福祉に尽力しても、その苦労を嘲笑うように国王が台無しにする。
このままではいつか暴動が起きてしまう。
王妃に加え、国の未来を心配する家臣達が非難するも、国王は一切聞く耳を持たなかった。さらには難癖つけて自分に異議を唱える貴族の爵位を剥奪、国外追放するにまで至って、ラッセル王国は混乱を極めた。
このまま国王の元で甘い汁を吸いたい派閥と、国王の異母弟ーー 第二王子を新しい王に据えて、国を立て直したい一派の対立が顕著になり、ほぼ国を二分する非常事態になったのだ。
一番嘆いたのは王妃だった。
彼女の立場的には、国王派でなければならない。けれど軌道修正しようにも、もはや馬鹿な夫の行動を抑えきれなかった。
お父様曰く、お祖母様は『国民あってこそ国は成り立つ』を信条に、とても誇り高い気概に満ちた女性だったらしい。
実の子であるお父様にも息子としてではなく、次代の国王として接した。常に厳しく、そこに親子の情は一切なかったとか。いよいよ国の在り方に陰りが見えてきた時には、王族としての在り方をこれでもかとまだ幼いお父様に叩き込んだ。
そして最後に、王妃のプライドでもってーー
全てを終わらせた。
自分達のせいで国が混乱に陥り、民に無理を強いている。
そのことが、気高い彼女には耐え難かった。
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