女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ

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27. 忍び寄る足音

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 いつものようにベッドに横たわって、落ち着く体勢を探して数度寝返りを打つ。目を瞑ると眠気はすぐにやってきた。
 ふわりと体が浮くような感覚はいつものことだ。

「だからぁ、来月、新作が出るんだって」

「へぇー……」

 しばらくして、遠くからやる気のない加奈子の声が聞こえてきた。でもどうにも視界が悪い。彼女の部屋の、何かのゲームの軍旗が貼られた天井がぼんやりと見え隠れするだけだ。

 苛立ったような声が、枕の横に置かれた『すまほ』から響いた。

「おい、聞いてんのかよ」

「ん……」

 ああこれは、加奈子がベッドに寝っ転がっているのだ。寝っ転がって、睡魔と戦いながら誰かと電話で話している。

「旧作は前、貸してやっただろ。今度のは更にリアルに、色々とパワーアップしたんだ。謎解きゲームやパズルもあるし、イベントだって盛り沢山。何と、お触りミニゲームだってあるんだぞ。くふふ、お前も楽しみだろ」

「……全然。ふわあぁ……一回やったけど、何が楽しいのか、一切、これっぽっちも、一ミリたりとも理解できなかった」

「ばっかだなぁ。お前、全然やり込まなかったからじゃん。『いい人』ルートと、一番簡単な『公爵令嬢』ルートだけなんて、ゲーマーの名折れだぞ」

 ん? 2人は一体、何を言い合っているのかしら?

 電話の相手は恐らく、加奈子のゲーム仲間の1人だろう。何度か見たことがあるが、小柄ななかなか可愛い男の子だった。そして……とても残念な感じの子だった。

 ああ、それよりも、今日はいつも楽しみにしている『火さす』の再放送の日なのに。真っ黒なままの画面が恨めしい。加奈子、ちょっと起きてテレビを付けてくれないかしら。音量は小さくていいから。

「だからー、あのゲームにはな、超難関な隠しキャラが存在するんだよ。全ての婚約者候補との好感度を60~70%の間に保ちつつ、なおかつ男友達との好感度も80%以上だった場合にだけ、そのルートに進めるんだ」

「へー」

「まあ、他にも色々と熟さなきゃいけない秘密イベントがあるんだけどな。しかも出番少ないくせに、底意地の悪い選択肢だけは多いんだ。一つでもミスると全てオジャンなんて、俺らの純情を弄び過ぎだろう!」

「……純情の意味、知ってる? もう一度、ちゃんと辞書引こうねー……ふあぁ……」

「でもその苦労を乗り越えたら、そこは……むふふ。いやー制作スタッフの情熱を俺は感じたね」

「んー」

「その隠しキャラがまた、最高にエロ可愛いくってさ。昼は淑女、夜も淑女。でも無意識に小悪魔、的な? ツンデレともまた違うんだけど、素直になれないワ・タ・シ、みたいな感じでさー」

「……ふわあああ、そら大変だ」

「おっぱいもボインボインでさぁ。ああいうのをマシュマロおっぱいって言うんだろうな」

「わー、どこに出しても恥ずかしくない、立派なおっぱい星人だねー……」

「ぷよぷよおっぱいは男の浪漫だろ!」

「……触ったことないくせに」

「うっせー! ああ、俺もあんな彼女ほしー!!」

「あー……」

 加奈子の男友達の雄叫びが、スピーカー越しに響く。1人延々と喋り続けているが、はっきりいって加奈子の瞼はもうほぼ完全にくっ付いている。
 彼の話に興味がないからか、私も加奈子の意識に引き摺られて本当に眠くなってきた。

「だからさ、今度の発売日、朝9時からオンラインで受付開始だから。1000名限定の特典DVDゲットしたいから、お前も協力してくれよなーー」

「……」

「おい、加奈子? 聞いてんのかよ? おいってば!」

「……」

「寝るなよ、加奈子。寝たら死ぬぞ!」

 無理よ……だって、すごく眠いんだもの。

「……チッ、寝落ちかよ。根性のない奴」
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