後宮の死体は語りかける

炭田おと

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4_危険な賭け

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 初春になり、冷たい風の中にも柔らかいものが混じるようになった。


 遠くに、暗い紺色の上下に、宦官帽かんがんぼうを被った宦官かんがん達の列が見える。

 その黒い列を見つめながら、私と仲弓ちゅうきゅうさんは、足早に階段を下りていった。


嶺依りょうい、目立つことはするなと言っただろう」

 仲弓ちゅうきゅうさんは、かなり怒っている様子だ。


 仲弓ちゅうきゅうさんは慎重な性格で、出過ぎることを嫌う。

 もう齢が四十を超えているのに、見た目は若々しい人で、目付きは鋭く、一睨みでどんなごろつきも黙らせてしまえる人だ。

 一方で、三度の飯より猥談わいだんが好きという、お茶目な一面も持っていた。


「すみません、つい・・・・」

「つい、ではすまないぞ。あの時、殿下の口添えがなかったら、どうなっていたと思う? 私達は場を混乱させた罪で、罰されていたかもしれないんだぞ」

 あの時、俊煕しゅんき殿下が、王自斉おうじさい様の利き腕が左であると発言してくれなければ、私は虚言を言った罪で裁かれていたかもしれない。

「本当にすみません。でも、考えあってのことなのです」

「考え?」

 仲弓ちゅうきゅうさんは、眉を吊り上げる。


「私達は毎年、奏上そうじょうを届けていますが、聞き届けられたことはありません。おそらく、奏上そうじょうに目を通してもらえていないのでしょう」


 ジェマ族は色々な問題を抱えている。それを解決するために、毎年皇宮に奏上そうじょうを届けていた。

 しかし、訴えを聞き届けてもらえたことはない。

 おそらく陛下のもとには、毎年、山のような奏上そうじょうが届いているだろうから、陛下の手に渡る前に、まずは文官が目を通し、知らせる必要があるかどうかを判断しているはず。

 ジェマ族の奏上そうじょうは、そこで止まっているのだろう。

「・・・・でもあの時、陛下は謎を解いた者には、褒美を授けると仰ってくださいました。――――陛下に直接、ジェマ族の窮状を伝える、絶好の機会だと思ったんです」

「だからといって毒を使うなど、あまりにも危険すぎる! ――――気づかれなかったからよかったものの、ここに武器を持ち込んだことがばれたら、即刻斬られていたぞ!」


 私はいつも懐に、神経毒が入った小瓶と、人差し指ほどの長さの針を忍ばせている。万が一、旅の途中で賊などに襲撃されたときに、身を守るためのものだ。

 小瓶の蓋は木栓なので、簡単に針を通す。毒に浸した針を、敵の手や足に突き刺せば、少量でもすぐに効果が現れるので、それで足止めできるのだ。


 毒といっても命に関わるような強力なものではなく、数日手足を動かしにくくなる程度の、弱い効果しかない。

 王自斉おうじさい様の足も、翌日には回復しているはず。


「すみません。あれは、身体が勝手に動いてしまったんです」

「まったく・・・・お前はいつもにこにこしていて、おしとやかに見えるのに、笑ったまま凶器を振り回すから困る」

仲弓ちゅうきゅうさん? 人のことを、殺人鬼みたいに言うのはやめてもらえますか?」

「俺からすると、殺人鬼のように恐ろしいのだが・・・・とにかく、さっきのようなことは二度とするな。わかったな?」

「はい」


 仲弓ちゅうきゅうさんの視線が、私の手元に落ちる。

嶺依りょうい。腕輪の糸が切れかけているぞ」

「あ――――」

 腕に嵌めていた、腕輪の糸が、今にも切れそうになっていた。おそらく、王自斉おうじさい様の攻撃を避ける時に、剣に紐を傷つけられたのだろう。

ぎょくに傷がつかなくてよかった。宿に戻ったら、紐をつけなおそう」

 この腕輪は、参内さんだいするのにみすぼらしい恰好では駄目だろうと、わざわざ仲弓ちゅうきゅうさんが用意してくれたものだ。

 このきらびやかな場所では粗末に見える代物でも、私達にとっては高級品だ。糸は代用できるけれど、ぎょくはめったに買えないから、ぎょくに傷がつかなくて本当によかったと思う。


「それでは、行こう」

「はい」
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