後宮の死体は語りかける

炭田おと

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6_和紫皇宮

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 莫王朝の中心、和紫皇宮わしこうぐうは、厚い城壁に囲まれている。


 長方形の形をしたその城壁には、四面に一門ずつ、四隅にも一つずつ楼閣が設けられていて、外側には水堀が張り巡らされていた。

 昨日と同じように、正門を抜けてまっすぐ進むと、奥に巨大な建物が見えてきた。


 ――――清和殿せいわでん。入口の扁額へんがくには、そう書かれている。


 政治の中心である清和殿せいわでんは、外観にも内装にも金箔きんぱくと漆の雲龍模様うんりゅうもようが用いられている。皇宮の中でもっとも大きな建物だ。

 朝議の時は、文武百官ぶんぶひゃっかんが広場の御道ぎょどうの両側に並ぶと聞いている。


「よく来た、仲弓ちゅうきゅう嶺依りょうい

 元康帝げんこうていは、朱漆しゅうるしと竜の彫刻が施された玉座に、姿勢を崩して座っていた。


 私達は、玉座の階段の手前にひざまずく。

「謁見をお許しいただき、感謝いたします、陛下」

「立て、格式ばらずともよい。私がそなたらをここに呼んだのだからな」

 許しを得て、私達は立ち上がった。陛下は体勢を変え、頬杖をつく。

王自斉おうじさいが自白した。・・・・どこまで話を聞いている?」

「自白したことを、俊煕しゅんき殿下が教えてくださいました」


 すると陛下は、目を見開く。

「・・・・ほう? あやつが、わざわざ報せに?」

 驚いているような、面白がっているような声音だった。その反応を不思議に思い、私はそっと陛下の表情を盗み見る。

 陛下は楽しそうに笑っていた。


「それ以外のことは、まだ聞いておらぬのだな?」

「はい。お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。では、教えよう。――――王自斉おうじさいは、酒癖が悪い粗忽者そこつものだったようでな。普段は快活で大らかだが、酒が入ると人が変わったように怒りっぽくなり、たびたび問題を起こしていたそうだ。おそらくあの晩も、光烈こうれつと酒を酌み交わしている間に泥酔して、その悪癖が出てしまったのだろう」

 お酒のせいで判断力が鈍り、怒りのおもむくままに剣を振るった。制御できずに剣を振るうあたり、彼の酒癖の悪さは相当なものだったのだろう。

「そして我に返り、偽装工作をしたという次第だ。すべて、そなたの推測通りだった。よくあの状況証拠だけで、答えを導き出してくれた。まこと素晴らしい慧眼けいがんだ。褒めてつかわそう」

「身に余る光栄に存じます」


「さて、褒美の話をするか」


 陛下は背筋を伸ばして、足を組みなおす。


「願いを申せ。一つだけ、なんでも叶えてしんぜよう」

 待ち望んだ答えを貰えて、思わず笑顔が零れる。仲弓ちゅうきゅうさんの頬も、緩んでいた。


「では、皇帝陛下。――――ジェマ族は今、居住地の境界線を超え、女子供を攫いに来る、カルロ族に苦しめられています」


「何だと?」


 陛下の眉間に、深い皺が刻まれる。


「カルロ族とは、ジェマ族の居住地の隣に住んでいる部族のことだな?」

「その通りです。彼らとは古今を通じて、居住地の境界線を巡り、争いが絶えませんでした。ですが最近は前にも増して、横暴なふるまいが目立つようになりました。彼らは奴隷を得る目的で、ジェマ族の若い女性や子供達を誘拐していくのです」

「・・・・それは許されぬ行為だ。私は、奴隷狩りを禁じている」

 陛下は、施政者しせいしゃの顔になっていた。

 陛下が辺境の部族の小競り合いだと、この話を流さずに、真剣に聞いてくれたことに感謝する。

「攫われた人々が故郷に帰れるよう、そして、賊が私達の土地を荒らさぬよう、どうか陛下にお力添えを願いたいのです」

「わかった。すぐに人を寄こし、調査をさせよう。そなたらの訴え通り、カルロ族の悪行が明らかならば、決して許さぬ」


 陛下の声から怒りが感じられて、私は安心した。


 陛下が動いてくれるなら、カルロ族も今後悪さはできないだろう。

 目的を達成できて、私と仲弓ちゅうきゅうさんは顔を見合わせ、笑いあう。


「感謝いたします、陛下」


 心から安堵する私達を見て、陛下も満足そうに笑う。


 だけど陛下の言葉には、まだ続きがあった。


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