8 / 56
7_壁の中の死体
しおりを挟む「・・・・調査を進める間、そなたらに、頼みたいことがある」
私達は面食らい、陛下の顔を見つめた。
「昨日は言わなかったが、実はこの皇宮で、もう一つ奇妙な事件が起こっていてな。――――解決を、そなたらに頼みたい」
「奇妙な、事件・・・・」
「安心しろ、奴隷狩りの調査はすぐにはじめる。だがそれが終わるまで、そなたらにはここに留まり、別の事件の解決に尽力してもらいたい」
これは、予想外の展開だ。
だけど私達に、拒否権はないだろう。だとしたら、答えは一つだった。
「いかなる事件なのか、詳細をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
問い返すと、陛下は微笑する。
「――――数日前、内廷の東六宮の一つ、養寿宮で死体が見つかった」
奇妙な事件の詳細は、その不吉な一言からはじまった。
内廷とは、後宮のことだ。皇帝陛下の妃嬪達と、宮女が暮らしている。
一方、陛下が政務を執り行う場所は外廷、あるいは外朝と呼ばれていた。
「最後に養寿宮で暮らしていた妃が不審死した後、呪われた場所であるという不穏な噂が流れてしまった。妃嬪達が近づくことすら嫌がるようになったため、建物は放置され、老朽化していたのだ。このままでは屋根が落ちるだろうという報告を受けたので、改築することになったのだが――――壁の一部を壊したところ、中から女人の死体が出てきた」
息を呑む私達の顔を、陛下は苦笑交じりに見つめていた。
「実に奇妙な事件だろう? いったい誰が、いくつもの壁で守られたこの皇宮の、もっとも警備が厳重な場所に、死体を隠そうなどと思うのだ?」
「それは誰の遺体だったのですか?」
「わからぬ。顔が潰されていて、判別不能だった。身形から宮女の一人だろうと思われるが、行方不明になっている宮女の数は、一人や二人ではない。だからその死体が何者なのか、わからんのだ」
その話を不可解に思い、思わず眉根が寄ってしまう。
「宮女が行方不明になるとは、どういうことでしょう?」
陛下は苦笑する。
「内廷は外廷よりも複雑な場所でな。いじめも横行していると聞く。宮女は失敗すれば、罰を受ける。取り返しがつかない失敗の場合は、処刑されることもあるのだ。苦痛に耐えられなくなり、外出したきり、戻らぬ宮女も少なくない。事件性がないかぎり、わざわざ行方は捜さぬ」
宮女に限らず、役人でも高位の方の機嫌を損ねれば、棒打ちの刑に処されると聞いたことがある。その傷がもとで、歩けなくなった人もいるという話だった。
「私は前々から、失敗したからといって、良家の子息や子女の命を、そう簡単に奪ってよいものかと疑問に思っていた。だから帝位についた後は、よほどのことではないかぎり、処刑を禁じ、身寄りがあるならば実家に帰すようにしている。もちろん、いじめも禁じたのだが――――それでもいじめや嫌がらせは隠れて横行し、宮女の失踪や自殺は絶えない」
「・・・・・・・・」
「だが――――今回のことは異例だ。状況から見て、明らかに自決ではない。自らの意志で消えるのとは、訳が違う」
「その女性の死因は、殺人で間違いないのでしょうか?」
遺体がすでに腐敗していたとなると、死因の特定は難しいはずだ。だからそう聞いた。
「それが思いのほか、綺麗な死体でな。身体に残った痣や骨に至る傷まで、はっきりと残っていた。大医の話では、頭への衝撃が死因のようだ」
「・・・・・・・・」
「宮女の遺体が壁の中に隠されていたことを考えると、殺害から遺棄まで、すべて内廷の中で行われたのだろう。これは許しがたい行為だ」
陛下の声に、怒りが滲む。
皇宮は神聖な場所だ。それを穢した人達が許されるはずがなかった。
「それで、そなたらに調査を頼みたい」
「なぜ、私達に?」
「内廷に住まう者達にも、様々な思惑と繋がりがある。宮女や女官、宦官は主人に不利益なことには、口を閉ざすだろう。大官の中にも、妃嬪の実家と繋がっている者達がいる。内廷の動きと無関係の人間でなければ、真実を暴けぬだろう」
なるほど、と私は陛下の考えに納得した。
妃嬪の下で働いている宮女と宦官は、たとえ主人が女性の殺害に加担していたとしても、絶対に口を割ることはしないだろう。
だから内廷の利益が絡まない、外側にいる人間にしか、真実を暴けないと、陛下はお考えのようだ。
そもそも内廷で起こった醜聞は、内廷で処理される。内廷で隠しきれない場合も、情報は皇宮の内部に留められ、外に出ることはない。
仮に内廷で殺人事件が起こったとしても、事件も犯人も内々に処理され、情報が外に出る頃には、殺人ではなく、被害者は病で亡くなった、と粉飾されていることだろう。
「そなたらには、皇宮の者達に話を聞く権利を与える。まずはみなに話を聞いてくれ」
2
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました
ほーみ
恋愛
春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。
制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。
「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」
送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。
――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
君に恋していいですか?
櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。
仕事の出来すぎる女。
大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。
女としての自信、全くなし。
過去の社内恋愛の苦い経験から、
もう二度と恋愛はしないと決めている。
そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。
志信に惹かれて行く気持ちを否定して
『同期以上の事は期待しないで』と
志信を突き放す薫の前に、
かつての恋人・浩樹が現れて……。
こんな社内恋愛は、アリですか?
モテ男とデキ女の奥手な恋
松丹子
恋愛
来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。
学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。
ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。
そんなじれじれな話です。
*学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記)
*エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。
*拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。
ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。
*作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。
関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役)
『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー)
『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル)
『物狂ほしや色と情』(名取葉子)
『さくやこの』(江原あきら)
『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる