後宮の死体は語りかける

炭田おと

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7_壁の中の死体

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「・・・・調査を進める間、そなたらに、頼みたいことがある」


 私達は面食らい、陛下の顔を見つめた。


「昨日は言わなかったが、実はこの皇宮で、もう一つ奇妙な事件が起こっていてな。――――解決を、そなたらに頼みたい」

「奇妙な、事件・・・・」

「安心しろ、奴隷狩りの調査はすぐにはじめる。だがそれが終わるまで、そなたらにはここに留まり、別の事件の解決に尽力してもらいたい」

 これは、予想外の展開だ。


 だけど私達に、拒否権はないだろう。だとしたら、答えは一つだった。


「いかなる事件なのか、詳細をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 問い返すと、陛下は微笑する。


「――――数日前、内廷ないていの東六宮りっきゅうの一つ、養寿宮ようじゅきゅうで死体が見つかった」


 奇妙な事件の詳細は、その不吉な一言からはじまった。


 内廷ないていとは、後宮のことだ。皇帝陛下の妃嬪ひひん達と、宮女きゅうじょが暮らしている。

 一方、陛下が政務を執り行う場所は外廷がいてい、あるいは外朝がいちょうと呼ばれていた。


「最後に養寿宮ようじゅきゅうで暮らしていた妃が不審死した後、呪われた場所であるという不穏な噂が流れてしまった。妃嬪ひひん達が近づくことすら嫌がるようになったため、建物は放置され、老朽化していたのだ。このままでは屋根が落ちるだろうという報告を受けたので、改築することになったのだが――――壁の一部を壊したところ、中から女人にょにんの死体が出てきた」

 息を呑む私達の顔を、陛下は苦笑交じりに見つめていた。

「実に奇妙な事件だろう? いったい誰が、いくつもの壁で守られたこの皇宮の、もっとも警備が厳重な場所に、死体を隠そうなどと思うのだ?」

「それは誰の遺体だったのですか?」

「わからぬ。顔が潰されていて、判別不能だった。身形から宮女きゅうじょの一人だろうと思われるが、行方不明になっている宮女きゅうじょの数は、一人や二人ではない。だからその死体が何者なのか、わからんのだ」

 その話を不可解に思い、思わず眉根が寄ってしまう。


宮女きゅうじょが行方不明になるとは、どういうことでしょう?」

 陛下は苦笑する。


内廷ないてい外廷がいていよりも複雑な場所でな。いじめも横行していると聞く。宮女きゅうじょは失敗すれば、罰を受ける。取り返しがつかない失敗の場合は、処刑されることもあるのだ。苦痛に耐えられなくなり、外出したきり、戻らぬ宮女きゅうじょも少なくない。事件性がないかぎり、わざわざ行方は捜さぬ」

 宮女きゅうじょに限らず、役人でも高位の方の機嫌を損ねれば、棒打ちの刑に処されると聞いたことがある。その傷がもとで、歩けなくなった人もいるという話だった。

「私は前々から、失敗したからといって、良家の子息や子女の命を、そう簡単に奪ってよいものかと疑問に思っていた。だから帝位についた後は、よほどのことではないかぎり、処刑を禁じ、身寄りがあるならば実家に帰すようにしている。もちろん、いじめも禁じたのだが――――それでもいじめや嫌がらせは隠れて横行し、宮女きゅうじょの失踪や自殺は絶えない」

「・・・・・・・・」

「だが――――今回のことは異例だ。状況から見て、明らかに自決ではない。自らの意志で消えるのとは、訳が違う」

「その女性の死因は、殺人で間違いないのでしょうか?」

 遺体がすでに腐敗していたとなると、死因の特定は難しいはずだ。だからそう聞いた。

「それが思いのほか、綺麗な死体でな。身体に残った痣や骨に至る傷まで、はっきりと残っていた。大医たいいの話では、頭への衝撃が死因のようだ」

「・・・・・・・・」

宮女きゅうじょの遺体が壁の中に隠されていたことを考えると、殺害から遺棄まで、すべて内廷ないていの中で行われたのだろう。これは許しがたい行為だ」

 陛下の声に、怒りが滲む。


 皇宮は神聖な場所だ。それを穢した人達が許されるはずがなかった。


「それで、そなたらに調査を頼みたい」

「なぜ、私達に?」

内廷ないていに住まう者達にも、様々な思惑と繋がりがある。宮女きゅうじょや女官、宦官かんがんは主人に不利益なことには、口を閉ざすだろう。大官たいかんの中にも、妃嬪ひひんの実家と繋がっている者達がいる。内廷ないていの動きと無関係の人間でなければ、真実を暴けぬだろう」

 なるほど、と私は陛下の考えに納得した。


 妃嬪ひひんの下で働いている宮女きゅうじょ宦官かんがんは、たとえ主人が女性の殺害に加担していたとしても、絶対に口を割ることはしないだろう。

 だから内廷ないていの利益が絡まない、外側にいる人間にしか、真実を暴けないと、陛下はお考えのようだ。

 そもそも内廷ないていで起こった醜聞は、内廷ないていで処理される。内廷ないていで隠しきれない場合も、情報は皇宮の内部に留められ、外に出ることはない。

 仮に内廷ないていで殺人事件が起こったとしても、事件も犯人も内々に処理され、情報が外に出る頃には、殺人ではなく、被害者は病で亡くなった、と粉飾されていることだろう。


「そなたらには、皇宮の者達に話を聞く権利を与える。まずはみなに話を聞いてくれ」



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