12 / 56
11_ありえない痕跡
しおりを挟む「遺体に触れても、構いませんか?」
私がそう聞くと、湯大医は鼻白んだ。
「もう私が調べました。これ以上、新たなことがわかるとは思えません」
「大医様の検死の内容に、異論はありません。ですが別の視点で、何か気づくことがあるかもしれないと思ったんです」
「・・・・あなたにわかることがあるとは思えませんが、お好きにどうぞ」
私は遺体に近づいて、実際に肌に触れてみる。
触れると、氷のようなその肌に、指先の体温を奪われた。湯大医が言う通り、身体が極端に冷やされることで、腐敗が遅れたのだろう。
背中にも傷がないか、確かめてみようと、私は遺体を裏返そうとする。
「手伝います」
「ああ、殿下。そのようなことは、我々が・・・・」
「これぐらい、構わない」
殿下が手伝ってくれた。
(・・・・ん?)
遺体の腰に触れた時に、違和感を覚える。腰の皮膚を押して、骨の形を確かめてみた。――――確かに歪みがある。
私は遺体の姿勢をもとに戻してから、近くの布を遺体の腰にかけて、他の人達には見えないようにしてから、両足を大きく開いた。
女性器を指で開いて、中を確かめる。
「な、何をしているのだ!?」
大官達は面食らい、おどおどしている。俊煕殿下は真っ赤になっていた。
「すみません、でも気になったので・・・・」
「そんなところを調べて、何を・・・・」
「・・・・この女性は、子を産んだことがあるのでしょうか?」
「え?」
大医達は大口を開けて、固まってしまった。
「恥骨と坐骨に、歪みが見られます。出産後、休むことができなかった女性によくみられる症状です。おそらく、慢性的な腰痛に苦しめられていたのではないでしょうか?それに、出産のさいに会陰が裂けたのでしょう、わずかながら傷痕らしきものも確認できます」
出産後は、骨の形を戻すために、安静にしていなければならない。
だけどその猶予が与えられなかった場合、腰骨の形が歪んでしまい、慢性的な腰痛に苦しめられることになるのだ。
この遺体の腰骨の歪みは、その女性達の症状と似ているように思えた。
「そんなこと、ありえない!」
すぐさま、大官が反論してきた。
「その女はおそらく宮女だ。宮女ならば、男が入れない内廷で暮らしていた。陛下に目をかけられ、お相手をしたならば、記録に残っているはず。だが、そんな記録は残っていない! だから懐妊したはずがないのだ」
宮女は、陛下以外の男性とは通じてはならない。それがここの決まりだ。
しかも、陛下と宦官以外の男性が立ち入ることを許されなかったこの場所で、暮らしていた女性だ。陛下の夜伽をした形跡もないのに、懐妊するなんて、確かにおかしな状況だった。
「だから、そんなことはありえない」
「・・・・そうかもしれません。聞かなかったことにしてください」
断言できるような材料じゃない。強くは反論できず、私は引き下がることにした。
次に私は、女性が死後まとっていた服を調べてみる。
衣は以前は、明るい桃色だったのだろう。だけど今はかろうじて、元の色がわかる程度だ。全体的に、土色で汚れていた。
「衣についている土は、どこの土でしょう?」
「はっきりとは言えませんが、おそらく御花園の土ではないでしょうか。死体を壁に入れる時に、御花園から土を持ってきて、隙間を埋めるのに使ったんだと思います」
その時、私は衣服の襞の間に、あるものを見つけた。近くに置いてあった箸を手に取り、それを壊してしまわないよう、そっと持ち上げる。
それも土色に汚れていて、色がよくわからないけれど、かろうじて羽の模様が見えた。
「それは何ですか」
「これは多分――――オオムラサキの羽の破片ですね」
「オオムラサキ?」
「蝶です。八月頃に孵化して、幼虫として半年近く過ごし、翌年の六月頃にさなぎになる。・・・・これは雌の羽でしょう。産卵後に死に、御花園の土の中に埋まっていたんでしょう」
「オオムラサキが死ぬのは?」
「八月です。――――だから四か月前にはすでに、この女性は亡くなっていたことになりますね」
俊煕殿下は目を見開く。
「だとすると――――」
「趙徳妃様の宮女の小鈴さんが行方不明になったのは一か月前なので、時期があいません。――――となると、翠蘭さんのほうが条件に当てはまりますね」
答えを見つけて、自然と笑顔が零れ落ちる。
俊煕殿下の表情も引きしまった。
「翠蘭さんのことを調べる必要があります」
「曹貴妃様に話を聞きに行きましょう。・・・・素直に答えてくれるとは思えませんが、何かわかることを願いましょう」
3
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました
ほーみ
恋愛
春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。
制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。
「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」
送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。
――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
君に恋していいですか?
櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。
仕事の出来すぎる女。
大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。
女としての自信、全くなし。
過去の社内恋愛の苦い経験から、
もう二度と恋愛はしないと決めている。
そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。
志信に惹かれて行く気持ちを否定して
『同期以上の事は期待しないで』と
志信を突き放す薫の前に、
かつての恋人・浩樹が現れて……。
こんな社内恋愛は、アリですか?
モテ男とデキ女の奥手な恋
松丹子
恋愛
来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。
学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。
ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。
そんなじれじれな話です。
*学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記)
*エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。
*拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。
ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。
*作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。
関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役)
『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー)
『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル)
『物狂ほしや色と情』(名取葉子)
『さくやこの』(江原あきら)
『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる