後宮の死体は語りかける

炭田おと

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11_ありえない痕跡

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「遺体に触れても、構いませんか?」

 私がそう聞くと、とう大医たいいは鼻白んだ。

「もう私が調べました。これ以上、新たなことがわかるとは思えません」

大医たいい様の検死の内容に、異論はありません。ですが別の視点で、何か気づくことがあるかもしれないと思ったんです」

「・・・・あなたにわかることがあるとは思えませんが、お好きにどうぞ」


 私は遺体に近づいて、実際に肌に触れてみる。


 触れると、氷のようなその肌に、指先の体温を奪われた。とう大医たいいが言う通り、身体が極端に冷やされることで、腐敗が遅れたのだろう。


 背中にも傷がないか、確かめてみようと、私は遺体を裏返そうとする。

「手伝います」

「ああ、殿下。そのようなことは、我々が・・・・」

「これぐらい、構わない」

 殿下が手伝ってくれた。


(・・・・ん?)


 遺体の腰に触れた時に、違和感を覚える。腰の皮膚を押して、骨の形を確かめてみた。――――確かに歪みがある。


 私は遺体の姿勢をもとに戻してから、近くの布を遺体の腰にかけて、他の人達には見えないようにしてから、両足を大きく開いた。

 女性器を指で開いて、中を確かめる。


「な、何をしているのだ!?」

 大官たいかん達は面食らい、おどおどしている。俊煕しゅんき殿下は真っ赤になっていた。

「すみません、でも気になったので・・・・」

「そんなところを調べて、何を・・・・」


「・・・・この女性は、子を産んだことがあるのでしょうか?」


「え?」


 大医たいい達は大口を開けて、固まってしまった。


恥骨ちこつ坐骨ざこつに、歪みが見られます。出産後、休むことができなかった女性によくみられる症状です。おそらく、慢性的な腰痛に苦しめられていたのではないでしょうか?それに、出産のさいに会陰えいんが裂けたのでしょう、わずかながら傷痕らしきものも確認できます」


 出産後は、骨の形を戻すために、安静にしていなければならない。


 だけどその猶予が与えられなかった場合、腰骨の形が歪んでしまい、慢性的な腰痛に苦しめられることになるのだ。


 この遺体の腰骨の歪みは、その女性達の症状と似ているように思えた。


「そんなこと、ありえない!」

 すぐさま、大官たいかんが反論してきた。

「その女はおそらく宮女きゅうじょだ。宮女きゅうじょならば、男が入れない内廷ないていで暮らしていた。陛下に目をかけられ、お相手をしたならば、記録に残っているはず。だが、そんな記録は残っていない! だから懐妊したはずがないのだ」

 宮女きゅうじょは、陛下以外の男性とは通じてはならない。それがここの決まりだ。

 しかも、陛下と宦官かんがん以外の男性が立ち入ることを許されなかったこの場所で、暮らしていた女性だ。陛下の夜伽をした形跡もないのに、懐妊するなんて、確かにおかしな状況だった。

「だから、そんなことはありえない」


「・・・・そうかもしれません。聞かなかったことにしてください」


 断言できるような材料じゃない。強くは反論できず、私は引き下がることにした。


 次に私は、女性が死後まとっていた服を調べてみる。


 衣は以前は、明るい桃色だったのだろう。だけど今はかろうじて、元の色がわかる程度だ。全体的に、土色で汚れていた。


「衣についている土は、どこの土でしょう?」

「はっきりとは言えませんが、おそらく御花園ぎょかえんの土ではないでしょうか。死体を壁に入れる時に、御花園ぎょかえんから土を持ってきて、隙間を埋めるのに使ったんだと思います」


 その時、私は衣服のひだの間に、あるものを見つけた。近くに置いてあった箸を手に取り、それを壊してしまわないよう、そっと持ち上げる。


 それも土色に汚れていて、色がよくわからないけれど、かろうじて羽の模様が見えた。


「それは何ですか」

「これは多分――――オオムラサキの羽の破片ですね」

「オオムラサキ?」

「蝶です。八月頃に孵化して、幼虫として半年近く過ごし、翌年の六月頃にさなぎになる。・・・・これは雌の羽でしょう。産卵後に死に、御花園ぎょかえんの土の中に埋まっていたんでしょう」

「オオムラサキが死ぬのは?」

「八月です。――――だから四か月前にはすでに、この女性は亡くなっていたことになりますね」

 俊煕しゅんき殿下は目を見開く。

「だとすると――――」

趙徳妃ちょうとくひ様の宮女きゅうじょ小鈴しょうりんさんが行方不明になったのは一か月前なので、時期があいません。――――となると、翠蘭すいらんさんのほうが条件に当てはまりますね」


 答えを見つけて、自然と笑顔が零れ落ちる。


 俊煕しゅんき殿下の表情も引きしまった。


翠蘭すいらんさんのことを調べる必要があります」

曹貴妃そうきひ様に話を聞きに行きましょう。・・・・素直に答えてくれるとは思えませんが、何かわかることを願いましょう」


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